(写真:show999/PIXTA)

今年、株式市場で大きな話題となったのが、7月に株式の25分割を行ったNTT(日本電信電話)です。NTT株を1株だけ持っていたら、それが25株に変わるという大幅な株式分割をしたことが注目されました。

年末に向けて株式分割の実施を発表する企業が増えています。そこで、なぜ企業が株式分割を行うのかを解説するとともに、その情報を使って投資を考えた場合にどのような方法をとればいいのかを紹介します。

最後に実際に四季報オンライン(無料版)で株式分割を発表した企業を探す方法にも触れます。

株式分割で投資家にメリットはあるのか

先ほどのNTTのケースですが、1株が25株に変わると聞くと、みなさんはどのようなことをイメージしますか。

分割直前の株価は6月28日の4405円でした。25分割されると実は、株価も分割されてしまって、理論的にはちょうど25分の1の176円(4405円÷25)になります。

実際に分割した直後の6月30日の終値が170.5円でした。理論的な値より少し低い値段となりました。これは1日分の相場の変動によるものです。つまり株式分割自体では保有している株式のトータルの評価額が変わりません。

配当金についてはどうでしょうか。企業によっては分割と同じタイミングで配当金を増やす「配当の修正」を発表する場合もあります。しかし、これは、あくまでも株式分割とは別に企業が行う「増配」の決定によるもので、単純な株式分割は基本的には配当金も同じ比率で分割されてしまいます。株式分割だけではもらえる配当金が増えるわけでもありません。

持っている株式の評価額が変わるのではないし、もらえる配当金が増えるわけでもない――。そんな話を聞くと、「株式分割で、投資家にとってなにかうれしいことあるの」と思うかもしれません。

確かに、株式分割については、それだけでは投資家にとってメリットが得られるものではありません。しかし株式分割をすることで、「その会社の株式の投資家層が広がることや、その期待により株式が値上がりする傾向が見られること」は注目できる点です。

株式分割の増加と新NISAの関係

具体的に解説して、とても重要なポイントとなる投資タイミングに関してお伝えしましょう。

来年の1月から新しいNISA(ニーサ、少額投資非課税制度)が始まります。通常は投資で得た配当金や売却によって得た利益に対して20.315%の税金がかかります。しかし、NISAが指定する限度額までなら、この分の税金がかからないというものです。

新NISAの詳細はネットなどで解説記事も多いため、そちらを参考にしてもらいたいのですが、上場している株式に投資する場合、年間で240万円まで購入した株式は、限度額として1200万円までの保有は、そこから得た利益には税金がかからないというものです。

実は、足元にかけて株式分割が増えているのには、この新NISAとの関係があるとされています。株式に投資する際に少なくても必要な投資金額と関係するからです。

例えば、ある会社の株価が3万円だったとしましょう。株式は1株だけ買うことができません。最低でも100株の単位でしか買えないのです。となると、3万円×100株=300万円が必要な金額になります。新NISAでは年間で許容される限度額は240万円ですから、この3万円の株はNISA枠の範囲に収まることができません。

しかし、この会社が1株→10株とする株式分割を行った場合どうでしょうか。3万円の株が10分割されると、3万円÷10=3000円となります。この場合の最低投資金額は3000円×100株=30万円です。NISA枠に収まる範囲で買うことができます。それに、他に買いたい銘柄のための、210万円(240万円−30万円)の十分な枠を残すこともできるのです。

過去に株式分割した会社の株価の推移

新NISAとの関係で捉えなくても、最低投資金額が小さければ、投資家にとって買いやすい株式になります。「値上がりしたらありがたいけれども、もしかしたら値下がりするかもしれない」というリスクが高い株に、いきなり大きなお金を投資するのは気が引ける方も少なくないでしょう。

株式分割は株式の評価額が変わるわけではなく経済的価値に変化はないのですが、とりわけ個人投資家にとっては投資先の候補と考えやすくなることがメリットです。その株式を買いたいと考える機会を持つ投資家が増えれば、株式の買い需要も増えて、株高にもつながる可能性があります。

そこで過去に株式分割した会社の株価がどのように推移しているのか検証してみました。分析の対象銘柄は2017年4月から2023年10月までの間に株式分割を発表した企業としています。それぞれについて分割日以降の日次ベースで株式の“超過”収益率を累積しました。

分割日は専門的には「権利落ち日」ですが、ここではわかりやすく分割日と呼びます。超過収益率はTOPIX(東証株価指数)の構成銘柄の株式の収益率を単純平均したものに対する「超過」を計算しています。超過の収益率を使った理由は、単純な平均に比べて株式分割した会社の株価がどのように推移したかを見るためです。

下図がその結果です。図表の〇印に示されるように、グラフは低下しています。これは分割した日から7日後まで分割銘柄の株式パフォーマンスは厳しいものとなったことが示されます。


その後、グラフは持ち直していますが、休日や祭日を除いた日数ベースで100日後ですから、おおむね4カ月後までを見るとグラフ上の□印に示されるように、ゼロ%を下回っていました。4カ月後までで平均してプラスの収益が得られていないということです。

要約すると、株式分割銘柄は分割日以降の短期で見ても、4カ月程度とある程度の期間で見ても株式のパフォーマンスは優れないということです。株式分割により、株式の買い需要が増えて、株高にもつながる可能性が期待されましたが、そのような結果にはなりませんでした。

株式分割の発表日以降の傾向を見ると…

しかし、パフォーマンス計測の基準日を変えて分析すると、別の結果が見られました。上図では分割日以降の株価をみましたが、下図は発表日以降の傾向を見ています。発表日は基本的には株式分割を取締役会で決議した日になります。

下図は〇印に示されるように、発表日の翌日に平均して5%を上回る超過収益率となりました。また、矢印に示されるように、100日後に向けて緩やかに上昇しています。つまり、発表日以降は短期的にも、4カ月程度のある程度の期間で見ても、プラスの収益が得られやすいということがわかります。


なぜ、分割日以降の株式パフォーマンスは優れないのに、その数カ月“前”に行われる発表日以降で見ると、パフォーマンスは良いのでしょうか。これは株式の分割が発表されたことで、将来的な個人投資家層の拡大による上昇への期待が株価に織り込まれてしまうということでしょう。

そして、実際に分割した後では、もう期待はすでに織り込まれていることから、その後は株高傾向が見られにくいということと考えます。

株式分割はその後、株高につながる可能性があるのですが、分割銘柄を投資対象とする場合には、タイミングがとても重要になります。分割の発表日の後を基準に捉えるのがよく、発表日後も緩やかな上昇が期待されるので、発表直後に急いで投資しなくても、その後の緩やかな上昇の恩恵は受けられそうということがわかりました。

株式分割を発表した銘柄を探す方法

それでは、実際に「会社四季報オンライン(無料版)」で株式分割を発表した銘柄を探す方法を紹介しましょう。サイト内の検索で「株式分割」をキーワードとしたものが「株式分割で銘柄を検索した結果」です。

下図の項目の下に、株式分割を発表した銘柄のリストが並びます。皆さんも株式投資先を考える際の参考にしてみてください。


(吉野 貴晶 : ニッセイアセットマネジメント 投資工学開発センター長)