子どもの貧困は栄養不足だけでなく、学力や自己肯定感の低下などにも影響する(撮影:今井康一)

「4人のシングルマザーをしております。今、物価高騰の中での食品を頂き本当に有りがたく、食べ盛りの4人の子どもにお腹いっぱい食べさせられて、それだけで私は幸せです」

「コロナの影響をまだ引きずる生活の中、あらゆる支援がなくなり精神的にも病んでいたところです。また生きる希望を持ち子どもたちとがんばりたいと思います!」

このメッセージはいずれも、この夏に食料支援を受けたシングルマザーから、支援団体に届いたものだ。食料支援を行っていたのは認定NPO法人キッズドア。2007年の設立以来、貧困に苦しむ家庭と子どもたちにさまざまな支援を行っている。夏休み緊急支援として食料支援と体験活動を提供し、また従来の学習支援も行った。

ケーキやお餅のない年末年始

キッズドアでは、すでに冬休みの支援に向けて動き始めている。その理由を設立者で理事長を務める渡辺由美子さんはこう語る。

「年末年始は給食もなくなるし、クリスマスや年越し、お正月と世の中が賑やかになっているのにクリスマスケーキも年越しそばもない。おせちはもちろんお餅もないし、お年玉もない。これでは子どもが年明け学校に行きたくなくなるわけです。政府は緊急経済対策を取りまとめているが、子どもへの給付金は入れてほしいと思っています」

キッズドアが困窮子育て家庭を対象に6月に実施したアンケートによると、1カ月で1人当たりの食費が1万円未満の家庭がおよそ半分を占めた。これは1食当たりにすると110円未満となる。また夏休みの食事の不安について聞くと、「子どもに十分な食事を与えられない」と答えた家庭が、2年前に比べて46%から60%へ上昇していることがわかった。


(提供:認定NPO法人キッズドア)

「賃金が上がらない中、物価だけものすごく上がっていて本当に苦しい状況です。光熱費や食料品が値上がりすると食費を削るしかない。肉や魚を買えなくなり、一日3食を2食にして、子どもにお腹いっぱい食べさせられない。本当にここは日本かと思うような状況です」と渡辺さんは語る。


今夏に食料支援を受け取った子どもたち(写真提供:認定NPO法人キッズドア)

支援では企業からの協力を得ながら、お米や冷凍品などを2367の家庭に配送した。かかった費用は食材費と送料だけで約1650万円、そのほとんどは寄付で賄われている。

支援を受けた保護者からのメッセージの中には「学童や高校の補習に行かせるためのお弁当が用意できない」というものもあった。渡辺さんはこう続ける。「食べ物が用意できないことで学びの機会や子どもの居場所が奪われていき、結局家にいるしかない。食べ物がないために子どもが学びの場から排除されていくことが、現実として起こってしまっている状況です」

回転ずしや映画鑑賞の「体験イベント」

この夏、キッズドアは子どもたちに体験イベントも提供した。コロナ禍では一般世帯も困窮世帯も遠出を控えていたため、子どもたちが夏休みの体験格差を肌で感じることは少なかった。

しかしコロナが5類に移行し、行動制限がない夏休みを迎えることになった。困窮家庭の子どもたちの体験格差を少しでも解消しようと、約3500名の保護者と子どもたちに体験イベントを提供した。

イベントの中には、回転ずしのチケットやミュージカル・映画鑑賞チケットなどの提供、千葉にある自然パークへのツアーなどがあった。回転ずしに行った保護者からは「約5年ぶりに行き、子どもと一緒にお腹いっぱいお寿司を食べることができました」との声があった。

また映画を鑑賞した保護者からは「子どもが多く大変な出費となるので毎年諦めさせていたが、本当は行かせたかった。心から感謝しています」とのメッセージが寄せられた。そして自然パークに行った家庭からは「大自然の中で一日過ごすことができて、すてきな夏休みの思い出ができました。一生忘れることはありません」とのメッセージも届いた。

教育格差をなくすためキッズドアでは、困窮家庭の子どもたちに学びの場を提供している。困窮家庭の子どもたちは、栄養不足だけでなく、学力や自己肯定感の低下、孤独・孤立などの問題を複合的に抱えていることが指摘されている。経済的な困窮によるこうした状況が親から子どもへと引き継がれると、負の連鎖から抜け出すことがさらに困難になっていく。


自然の中で一日過ごす体験イベントが実施された(写真提供:認定NPO法人キッズドア)

困窮家庭では学習塾や予備校に行かせられないだけでなく、家が狭く子どもが集中して勉強できる部屋がない。また家にはパソコンがなく、参考書や問題集を買うのも難しく、模試も受けられない。夏休みではエアコンの使用も控えている。だから無料の学習支援や居場所の提供は、子どもたちにとって切実な問題なのだ。

物価高騰で親たちが悲痛な叫び

「子どもがまんなかと言いながら、政府の対応は後手後手に回っている」と渡辺さんは憤慨する。

「今、少子化で人手不足感もある中で、働ける優秀な人材を育てるのが日本の将来のために一番重要です。その人材が誰なのかと言ったら、間違いなく子どもです。子どもが貧困だから無料の学習支援をしようだとか、ご飯が食べられないから子ども食堂を作ろうとか、症状が出てから対処する。根本的には困窮する家庭があるのが問題なので、そこに早めの手を打つべきです。そうすればこんなに酷いことにはならないと思います」

キッズドアには、こんな困窮家庭からのメッセージが届いている。

「物価高騰でお腹が空いても水を飲んでごまかす。学校の健康診断でも子どもは痩せすぎで注意を受けましたが、どうしようもない状態です」

「私は食費を抑えるためになるべく食べないようにしています。下の子は『大人はご飯を食べなくても大丈夫』だと思っている。栄養不足で会社の定期健診の結果が悪くなりましたがお金がなくて通院できない」

日本は本当に世界第3位の経済大国なのか。子どもの貧困問題を日本社会全体で取り組むべきときがきている。

(鈴木 款 : 教育アナリスト)