チェコ国内で試運転をするオランダ・ベルギー間の国際列車向け新型車両「ICNGB」(撮影:橋爪智之)

オランダ鉄道(NS)とベルギー国鉄(SNCB)は、2024年12月の冬ダイヤ改正から、アムステルダム―ロッテルダム―アントワープ間を結ぶ全長125kmの高速路線「HSL-South」を経由する、オランダ・ベルギー間の国際列車の運行を強化する。

アルストムが製造する連接式電車「コラディア・ストリーム」のベルギー乗り入れ仕様「ICNGB(Coradia Stream Intercity New Generation Belgium)」が新たに導入され、現行の客車列車「IC-Direct」を置き換える。現在の列車は同区間を時速300kmで走行する高速列車タリス(ユーロスターに統合されたが、英仏間の列車と区別するためにタリスと表記)と比べて、半分程度の時速160kmにとどまり、ダイヤ作成の足かせとなっていたが、ICNGBは最高時速200kmのため、所要時間の短縮とともに運転本数の増加も可能となった。

「順風満帆」でなかった両国間の高速列車

新型車両の投入で両国間の利便性が大幅に改善されることになりそうだが、21世紀に入ってから今日に至るまで、この区間の輸送改善は必ずしも順風満帆とはいかなかった。それどころか、都市間輸送計画そのものがいったん白紙撤回され、両国にとって大きな損失となった過去があったのだ。

オランダ―ベルギー間を結ぶ国際列車の歴史は長い。両国は、まるで同じ国かのように昔から関係が良く、ビジネス需要も旺盛だったことに加え、飛行機を飛ばすほどの長距離ではなかったことから、昔から鉄道の利用が盛んだった。

両国は1957年に運行を開始した国際特急TEEの最初の運行区間にも含まれ、1996年にタリスが運行を開始するまで最優等列車として両国間を結んだ。もちろん優等列車以外にも、途中駅に停車する「ベネルクストレイン」と呼ばれる特別料金不要の快速列車が設定され、地域間を利用する人たちも支えた。


フランス―ベルギー―オランダ間を結ぶ高速列車タリス(撮影:橋爪智之)


オランダ―ベルギー間を結んだベネルクストレイン(撮影:橋爪智之)

転機が訪れたのは2004年。最高時速250kmでアムステルダム―ブリュッセル間を結ぶ新たな列車「FYRA(フィラ)」の運行を開始することが発表されたのだ。高性能な新型車両を開発して従来の機関車牽引の客車列車を置き換え、高速化による大幅な所要時間短縮を図る計画だった。車両の開発・製造は、イタリアのアンサルドブレダ(現日立レール)が勝ち取った。

V250と称する新型車両は最高時速250kmで、時速300kmのタリスには一歩劣るが、分散動力方式の採用により加減速性能を向上。国際列車用の車両らしく、両国の3種類の電化方式に対応した構造となった。車内設備では、従来の列車と異なり飲み物や軽食が買えるバー車両を連結。車体デザインには自動車のデザインで有名なイタリアのピニンファリーナを起用するなど、意欲的な車両となった。


トラブル頻発で短命に終わった高速列車「フィラ」のV250(撮影:橋爪智之)

期待の新型は1カ月で運行停止

ところが、新型車両は一向に納品されなかった。ヨーロッパでは、新型車の認可取得が遅れて納品期限に間に合わないということがしばし起こるが、このV250もご多聞に漏れず、完成はしたもののなかなか営業運転にこぎつけることができなかった。また、インフラ側についても、新路線のカギとなる信号システムETCSレベル2の導入が遅れたことで、さらなる遅延を招いた。

2012年9月から試走を兼ねた営業運転を徐々に開始し、同年12月の冬ダイヤ改正からようやく正式に運行開始することができたが、いざ走り始めると車両の不具合が頻発した。不具合は、寒冷地対策に対する不備が大半を占め、警笛内が凍結して鳴らないといったお粗末なものから、床下に付着した氷柱が落下して床下機器を損傷したり、防護カバーが外れて線路上に落下したりといった重大なトラブルまでさまざまだった。

結局、V250は運行開始後わずか1カ月で運行停止命令が下され、その後二度と本線上を営業運転で走ることはなかった。

困ったのはオランダ・ベルギーの両鉄道だ。ダイヤ改正を行って運行を開始したばかりの列車が不具合でまさかの運行停止。しかもその列車の最高時速250kmに合わせてダイヤを組んでいたため、ほかの車両で代走させようにも新ダイヤに合わせた運行が可能な高速列車を急に調達することは不可能だ。

結局、従来の車両を使って運行するダイヤを組み直したが、ダイヤ改正によってほかの路線へ転用された車両をすぐに呼び戻すことは難しく、オーストリアなど他国で余剰となっていた客車をかき集めることを余儀なくされた。


高速列車V250が運行停止となったため代替で運用された客車の「フィラ」(撮影:橋爪智之)


ロッテルダムに到着した客車による代走の「フィラ」(撮影:橋爪智之)

最終的に、フィラのプロジェクトは中止となり、V250はすべてメーカーへ返却され、メーカーは各鉄道へ和解金を支払うことで解決した。だが、両国間を結ぶ鉄道アクセスの課題は何も解決していなかった。呼び戻された客車は古く、機関車も含め最高時速は160kmであったため、高速新線経由でも大幅な時間短縮とはならなかった。

オランダ鉄道はこのプロジェクトに懲りたのか、後に発表された中長期計画の中で「より現実的な最高時速200kmの車両による、オランダ―ベルギー間のアクセス向上を目指す」と計画の修正を認めた。

今回の新型車両は「堅実設計」

このような紆余曲折を経て、最終的にアルストムが「より現実的な」次世代型インターシティ用車両の契約を勝ち取った。同社の汎用型プラットフォームであるコラディア・ストリームは、相互運用性の技術仕様(TSI)に準拠するもので、オランダ国内向け仕様とベルギー乗り入れ仕様をそれぞれ受注することになった。

新型車両のICNGBは8両編成で構成され、計画ではアムステルダム―ブリュッセル間を1日16往復、所要約2時間で結ぶ予定だ。


オランダの新型車両ICNGB(撮影:橋爪智之)

一方で、この新しい列車はオランダとベルギーの主要都市間の接続を強化することが目的となっているため、現在運行されている列車の停車駅のうち、ブレダ(Breda)、ノーデルケンペン(Noorderkempen)、アントウェルペン・ベルヘム(Antwerpen Berchem)、メヘレン(Mechelen)、ブリュッセル空港(Brussels Airport Zaventem)、ブリュッセル北駅(Brussels North)、ブリュッセル中央駅(Brussels Central)については通過となり、タリスと同じ停車駅となる見込みだ。

また、これらの新しい列車の終着駅は、従来のアムステルダム中央駅ではなく、アムステルダム南(ザウドZuid)駅となる予定だ。現在、南駅をアムステルダムの新たな主要駅とするべく工事が行われており、将来的には全ての長距離国際列車、高速列車は中央駅に停車した後、そのまま南駅まで直通することになる。

一方、これまで両国間の列車が停車していた前述の各駅は利便性が損なわれるため、新たにこれらの中間駅に停車するロッテルダム―ブリュッセル間の列車も、同様に16往復が設定される。2025年には、タリスを含めたオランダ―ブリュッセル間の接続は、1日47往復の列車が設定される予定だ。

ICNGBはすでにオランダ国内では運行を開始し、今のところは大きな問題もなく運行が続けられている。はたして、今回こそは問題なく、新しい国際列車の運行が開始されることになるだろうか。


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(橋爪 智之 : 欧州鉄道フォトライター)