夜遅くまでスマホの画面を見続けている人は、睡眠障害を起こすリスクがとても高いと言われています(写真:プラナ/PIXTA)

多くの人がスマホが欠かせない生活を送る中、スマホの使い過ぎは睡眠障害を引き起こす要因ともなります。なぜスマホに依存してしまうのでしょうか。日本認知症学会専門医・指導医 おくむらメモリークリニック理事長の、奥村歩氏の新著『スマホ脳・脳過労からあなたを救う 脳のゴミを洗い流す「熟睡習慣」』を一部抜粋・再構成し、お届けします。

スマホ依存は認知症と同じ症状を引き起こす

連絡ツールとして、情報の収集・発信のツールとして、さらに娯楽や買い物のツールとしても使われているスマホは、日常生活に欠かせないものになっています。

しかし、スマホ依存の生活には弊害もあります。誰にでも起こり得るのはスマホの使い過ぎによる体調不良。「だらだらスマホ」や「ながらスマホ」は脳過労を引き起こし、認知機能や記憶力の低下、うつ状態など、認知症によく似た症状を引き起こします。さらにかなりの確率で、原因不明の身体の痛みなど不定愁訴も合併してきます。

スマホの濫用によって起こるこれらの症状を、私は「スマホ認知症」と名づけました。これは、スマホの過度な使用で、脳に膨大な情報が入り続けて消化不良をおこし、情報の整理整頓ができないために脳の中が「ゴミ屋敷状態」になることです。もの忘れや思考力、判断力の低下などの認知症と似た症状が起こります。

ちなみに、「スマホ認知症」は正式な病名ではありませんし、アルツハイマー病などと同列の認知症でもありません。人やものの名前が出てこないなどの症状は認知症と似ていますが、病状を改善できるという点が、認知症とは異なります。

とはいえ、このスマホ認知症を放置すると危険です。もの忘れや脳過労は、「脳のパフォーマンスが落ちていますよ」という脳からの注意喚起なのです。

そしてもう一点、スマホの不適切な使い方による健康被害で見過ごせないのは、脳を護るはずの睡眠の質がスマホ依存によって変わってしまうこと。睡眠不足が日常化して「睡眠負債」を引き起こしてしまうことです。

スマホ依存でなぜ脳がゴミ屋敷化するのか?

スマホ依存の生活が私たちの脳をとても疲れさせている一番の原因は、スマホから入ってくる過剰な情報を脳が処理しきれていないにもかかわらず、さらに新しい情報を次々と送り込んでしまうことです。

毎日、何時間もネットサーフィンをしていたり、YouTubeやSNS、ネットショッピングを深夜までしているようなら、脳は情報の整理整頓ができないまま、次々と送り込まれる過剰な情報のインプットで「ゴミ屋敷」になっていきます。

これがスマホによる脳過労。インプットばかりが極端に多くなって自分からのアウトプットが少なくなった状態は、まさに脳の中にゴミを溜め込んでいるかのようです。そのために、肝心なときに必要な情報をタイミングよく取り出せないことが多くなり、もの忘れやうっかりミス、処理能力の低下、コミュニケーション力の低下となって現れます。

スマホ依存になると、大量の情報をインプットし続けるために、「イン」と「アウト」のバランスが崩れて脳の機能が低下します。

脳の本来の情報処理パターンは、インプットされた情報を、一度、脳が整理整頓した上で、必要なものをアウトプットしていくという循環になっています。しかし、スマホ依存になると、インプット過多になって脳が疲れてしまい、情報処理が追いつきません。

夜遅くまでスマホの画面を見続けている人や、スマホをベッドに持ち込んで、眠る体勢になってからもスマホを見続けてしまう人は、睡眠障害を起こすリスクがとても高いと言われています。

それは、スマホの画面が発する「ブルーライト」という青く強い光の影響のためです。睡眠前にブルーライトを見ていると、眠りの途中で目が覚めたり、深い眠りが得られなくなります。

その結果、昼間でも元気がなくぼんやりしてしまったり、眠気を感じて欠伸が出たりなどといった状態に……。これらは、眠る直前のスマホの光で体内時計の睡眠と覚醒のリズムが乱れてしまったために起こる現象です。

FOMO(見逃し不安)がスマホ依存を助長する

「自分の知らないところで、何か楽しいことが起こっているかも」

「自分だけがチャンスや情報を取り逃しているかも」

スマホから多くの情報が入り込んでくるようになると、他人の行動や世間の動向が過度に気になるようになり、「より一層スマホチェックをしていないと不安になってしまう」という人が増えています。

これは「FOMO(フォーモ)」と呼ばれる症状。「FOMO」とは「Fear of Missing Out」の略語で、「見逃したり取り残されたりすることへの不安」を表す言葉です。「自分だけが知らない」ということに強い不安を覚える不安神経症の一種で、症状が深刻化するとうつ病になることもあります。

FOMOになると、常にSNSが気になってスマホから目が離せなくなります。そして、その状態が長期的に続くとスマホ依存を引き起こし、脳過労が加速するという悪循環が生まれるのです。

SNSで人とつながることは、気軽で便利なコミュニケーションを可能にしましたが、その一方で、人と自分の生活を比べることで劣等感や疎外感を生みやすくしてしまいました。

特に私たち日本人には、こうした心理に陥りやすい国民性があります。「人の顔色を気にしすぎる」「心配性」といった日本人の性格が、デジタル社会では、嫌われることに対する恐怖心、「いいね」や返信をこまめにつけなければという焦りを呼び、ますますスマホから離れられなくなって、スマホ依存が進行します。

そして、もう1つ問題なのは、FOMOからくるスマホ依存と不安の増大から、不眠になってしまうことです。

スマホ依存によるスマホ認知症と、それによって起こる脳過労を放っておくと、将来うつ病になるリスクがとても高くなります。これはスマホ依存によって脳が受けているダメージが想像以上に大きいことの現れであることから、「スマホ依存によるうつ病と将来の認知症は人ごとではない!」と言ってもいいでしょう。

スマホ認知症や脳過労は、脳の健全なバランスを失っている状態です。「もの忘れが増えた」「うっかりミスが増えた」「集中できない」「疲れが取れない」「落ち込みやすい」「身体の調子がおかしい」などの症状は、日々のオーバーワークで疲労した脳が発しているSOS。早急に治療しなければならないというサインです。

ぼんやりタイムと睡眠が脳の健康を維持する

スマホからやってくる情報の洪水に依存するばかりで、「自分で考える」という機能を使わなければ、間違いなく脳は退化します。現代はさらにそこに、脳過労と睡眠負債というダメージが加わって、脳の「考える機能」がフリーズしかかっています。


デフォルトモード・ネットワークとは、「何もしていないときに活発になるニュートラルな脳」のこと。いわば、「頭をぼーっとさせるぼんやりタイム」です。

人は、「ぼんやりしているときのアイドリング状態」や「我に返る」ことによって脳の健康を維持したり、脳の力をより発揮させることができます。本来なら、多くの仕事を抱え、朝から晩までぼんやりする暇もないくらい忙しい生活を送っている人ほど、このデフォルトモード・ネットワークを起動する時間が必要なのです。

加えて、デフォルトモード・ネットワークの大きな働きの一つは、「自分という人間を見失わないためのシステム」だということ。ぼんやりすることで自己モニタリング機能を働かせ、「我を忘れず、我に返る」ことが、脳を休め、脳過労の改善に大きく貢献するのです。

そして「睡眠」は脳をリセットすることなので、デフォルトモード・ネットワークと同じ役割を果たします。

(奥村 歩 : 日本認知症学会専門医・指導医 おくむらメモリークリニック理事長)