蔚来汽車は1年余り前からスマホの自社開発に取り組んできた。写真はNIO Phoneをお披露目する創業トップの李斌氏(同社ウェブサイトより)

中国の新興EVメーカーの蔚来汽車(NIO)は9月21日、同社が自社開発した初のスマートフォン「NIO Phone」を発表した。

NIO Phoneはプロセッサーにアメリカのクアルコム製の「スナップドラゴン8 Gen2」を採用し、ディスプレーは韓国のサムスン電子製の6.81インチ曲面有機ELパネルを搭載。価格は6499元(約13万1600円)からで、9月28日に発売する。

蔚来汽車は1年余り前にNIO Phoneの独自開発に着手。スマホの開発エンジニアを自社採用し、現在のチームの規模は約600人に上るという。今後も毎年1機種のペースでニューモデルを投入する計画だ。

大手スマホメーカーとは競わず

蔚来汽車の創業トップで董事長(会長に相当)を務める李斌氏は発表会で、NIO Phoneの専用イヤホンも開発中であることを明かした。と同時に、李氏は「自社ブランドのスマートウォッチやタブレット端末の開発計画は今のところない」と述べた。

ここ数年、中国のスマホ市場は低空飛行が続いている。市場調査会社のIDCのデータによれば、2023年4〜6月期の中国市場の総販売台数(メーカー出荷ベース)は6570万台と、前年同期比2.1%減少した。

そんな中、OPPO(オッポ)、vivo(ビボ)、小米(シャオミ)などの大手スマホメーカーは過酷な競争を繰り広げている。蔚来汽車のような新参者が容易にシェアを獲得できる市場ではない。

にもかかわらず、なぜあえて参入を決断したのか。この疑問に対して李氏は、蔚来汽車に大手スマホメーカーと正面から競う体力はないことを認めたうえで、NIO Phoneの自社開発の狙いは「クルマとスマホの連携を通じたカスタマーエクスペリエンス(顧客体験)の向上にある」と強調した。

「クルマのオーナーに使い勝手の良い“スーパー・スマートキー”を提供するだけでも大きな価値がある。さらに(専用設計のスマホなら)多数のモバイルアプリのシームレスな連携も実現しやすい」(李氏)


NIO Phoneは蔚来汽車のクルマ向けの専用設計により、ユーザーの使い勝手を高めたという(写真は同社ウェブサイトより)

NIO Phoneはクルマの鍵の代わりになるのはもちろん、本体の左側に配置された専用ボタンにより、愛車のエアコンのオンオフやパーキングアシストなど多数の機能をワンタッチで呼び出せる。ただし、NIO Phoneとの連携に対応するのは蔚来汽車が2022年に投入を始めた第2世代プラットフォームの車種に限られる。

独自スマホに一定の合理性

「アップルの(iPhoneを車載システムと連携させる)『カープレイ』は、中国市場向けのローカライズが遅れている。それゆえ、独自スマホの開発を通じてカスタマーエクスペリエンスを改善するという蔚来汽車の戦略には、一定の合理性がある」。そう評するのは、市場調査会社のカウンターポイント・リサーチでシニアアナリストを務めるアイバン・ラム氏だ。


本記事は「財新」の提供記事です

NIO Phoneは基本ソフト(OS)に(グーグルが開発した)アンドロイドを採用している。蔚来汽車の顧客調査によれば、同社のクルマのユーザーは半数超の57%がアップルのOSを利用し、アンドロイドの43%を上回っているという。

「蔚来汽車のユーザーにとって、NIO Phoneはクルマの鍵兼スペアのスマホという位置付けがメインになるだろう。このようなスマホの“2台持ち”は、多忙なビジネスマンやスマホのヘビー・ユーザーにとって違和感はないはずだ」(ラム氏)

(財新記者:余聡)
※原文の配信は9月22日

(財新 Biz&Tech)