神戸のウォーターフロントエリアを走る連節バス「ポートループ」の定期点検(記者撮影)

神戸市は兵庫県の行政・経済の中心であるだけでなく、北野異人館街や旧居留地、中華街といった異国情緒を感じられる観光地の顔がある。

神戸のウォーターフロントエリアの主要スポットを周遊する観光の足として2021年4月に登場したバスが「ポートループ」だ。車体が2つつながった連節バスで、姫路市に本社を置く神姫バスが運行している。

神戸の臨海部を走る

三宮駅前の停留所は百貨店「神戸阪急」の北側、JR三ノ宮駅と結ぶ歩行者デッキの下にある。神戸阪急の三宮の交差点に面した外壁に大きく「阪急」と書かれているが、地下へ下りると「阪神電車」の神戸三宮駅。1933年から同地で営業していた「そごう神戸店」を2019年に阪急百貨店にリブランドしたためで、初めて神戸を訪れた観光客は一瞬とまどうかもしれない。

三宮駅前から乗った場合、市役所・東遊園地前、KIITO前(三宮図書館)、新港町、メリケンパーク、ポートタワー前、ハーバーランドを経由し、観光船が発着するかもめりあに到着する。KIITO前には全長187.1mの「日本一短い国道」があるが、あっという間に通り過ぎてしまう。

かもめりあでしばらく停車したのち、新港町、神戸ポートオアシス前、東遊園地、三宮センター街東口を経て、坂道を上って新幹線の新神戸駅前へ。そして三宮駅前へと戻り、再びウォーターフロントエリアに向かう。


かもめりあへ到着するポートループ(記者撮影)

日中はおおむね20分ごと、1時間あたり3本運行する。平日朝には三宮駅からポートアイランドの神戸学院大学・兵庫医科大学方面へ向かうポーアイキャンパス線に投入された後、新神戸駅に回送してポートループの運用につく車両がある。


ポートループは全長が約18mある(記者撮影)

ポートループの車両は「日野ブルーリボンハイブリッド連節バス」で、長さは約18m。車内には座席が向かい合わせになったボックスシートもある。定員は112人。

連節バスの運転士に聞く

連節バスの運転や整備は一般的な路線バスの車両とどこが違うのか。

神姫バス神戸営業所の主任運転士、三嶋浩一さんは「連節バスを運転するには平均して10年以上の経験が必要になる」と説明する。「走行できるルートが厳密に決められているので道を間違えたらもう、大変なことになる」といったことなどが背景にあるようだ。

内輪差は観光バスタイプの車両と大差はないという。一方で「目視ができない右左折時の周囲や車内後方の様子はモニターで確認するので気をつかう」と話す。


ポートループの運転席。前方の眺めは一般の路線バスと変わらない(記者撮影)

さらに「前が空いているからといって容易に進入してしまうと横断歩道や交差点を塞ぎかねない。坂道で連節部が折れ曲がった状態で停車してしまうと発進するときのパワーが弱まってしまう。道の先の先まで交通事情を把握しておく必要がある」と語る。連節バスならではの運転のコツは少なくなさそうだ。バス停の前後に駐車車両があると出られなくなってしまうため、定時性確保には沿道の自家用車の交通ルール順守も欠かせない。

土地柄、沿道では連節バスにカメラを向ける観光客の姿が目立つ。神戸営業所の関大造さんは「連節バスの点検中には普通のバスがポートループのマグネットを付けて代走します。長い車両を楽しみに来た方はがっかりするかもしれませんが、あまり見ることができない光景です」と、レアな車両の運用をアピールする。関さんはポートループの外国語案内の充実なども担当している。


神姫バス神戸営業所の関大造さん(左)と主任運転士の三嶋浩一さん(記者撮影)


連節バスが定期点検の際に代走する一般路線バス車両のポートループ(記者撮影)

まるごとジャッキアップして点検

バスは3カ月ごとの定期点検が法令で定められている。ポートループに用いる連節バスは神戸営業所併設の神姫商工神戸工場が整備を担う。同工場には連節バスを収容してジャッキアップする25mのスペースが設けられている。

若林征吾工場長は「ただ長いだけで、基本的には普通のバスと同じ点検だが、連節部のボルトが緩んでいないか確認するといった違いはある。街中で目立つ車両なので整備には一段と注意を払っている」と話す。整備の業界は人手不足と高齢化が深刻といい、「バスの安全運行には不可欠なので、子どもたちに整備の仕事に興味をもってもらえれば」と強調する。


定期点検では連節バスの車両をまるごとジャッキアップする(記者撮影)

連節バスは海外ではおなじみの交通手段だ。例えば、フランスの空の玄関口、シャルル・ド・ゴール空港と市内を結ぶ「ロワシーバス」は個人旅行の初心者の強い味方。ひとたび乗ってしまえば、地下鉄の複数路線が乗り入れる中心部のオペラ座(ガルニエ宮)のそばまでダイレクトに連れていってくれる。

日本でも空港や通学の利用が多い路線などを中心に連節バスを見かける機会が増えてきた。一度に100人以上乗せられる輸送力が売りだ。観光地では、横浜市営バスが横浜駅前と山下ふ頭の間で「ベイサイドブルー」、三重交通が伊勢市駅・外宮前・内宮前を結ぶ「神都ライナー」を運行する。

再開発が進むウォーターフロント

神姫バスは神戸市の北隣、三田市でもオレンジ色の車体が目を引く連節バスを運行している。三田駅や新三田駅と関西学院大学神戸三田キャンパスなどを結ぶ路線で、こちらの車両はメルセデス・ベンツ製だ。


神戸のウォーターフロントエリアを走るポートループ(記者撮影)

ポートループは神戸のウォーターフロントエリアの主要スポットをひと通り車窓から眺められるほか、新神戸付近の坂道の上り下りなど、乗車そのものを楽しめる。

運行ルート沿いでは再開発が進み、風景が変化しつつある。2021年10月には神戸ポートミュージアムやフェリシモ チョコレート ミュージアムが開業した。街のシンボルである神戸ポートタワーも2024年春のリニューアルオープンに向けて工事中だ。2025年4月には大規模なアリーナがお目見えする予定。エリアの足となる連節バス、ポートループも活躍の場が広がりそうだ。


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(橋村 季真 : 東洋経済 記者)