〈衝撃の1日1万円超え〉“夢の国”ディズニーリゾート入園料値上げは「世界標準」との足並み揃え?「これほどのテーマパークに幅広い世代が行けていたことが世界的に見ればかなり珍しかった」

東京ディズニーランドとシーの1日料金が、10月1日入園分から値上げされる。土日祝の大人料金が最大9400円から1500円アップの最大1万900円となるのだ。ネットでは「高すぎる」との声もあるが、いったいなぜ値上がりするのか。経済アナリストの森永康平氏に解説していただいた。

アメリカ基準のドル建てで考えれば、値上げするのは当然のこと?

1日1万円超え……ディズニーファンに衝撃が走っている。

今年、開業40周年を迎えた東京ディズニーリゾートだが、10月1日から料金改定を行い、1デーパスポート(大人)の土日祝の料金が最大で1万900円になるとのこと。

東京ディズニーリゾートはこれまでに10回以上のチケット値上げを行ってきたが、開業当時の1983年を振り返ると1デーパスポートの料金は3900円、20周年だった2003年当時は5500円。特にこの20年間の値上げ幅が大きいことがわかるが、とうとう1万円の大台に来てしまったのかと隔世の感を禁じ得ない。

森永氏によると値上げの要因は、日本のディズニーを運営するオリエンタルランドがアメリカのウォルト・ディズニー・カンパニーとライセンス契約によって運営していることが、大きく関係しているそうだ。

「世界の物価上昇率の推移を見てみると、アメリカやドイツ、イタリアなどの欧米諸国の2000年から2019年の物価の前年比平均伸び率は2%前後。一方、同じ期間の日本では0%に近いのです。要するにこの20年間ほど、世界では物価が上昇し続けてきたにもかかわらず、日本はほぼ上がっていなかったということ。

ウォルト・ディズニー・カンパニーのあるアメリカ本国の入園料は、物価と同様に値上げを続けてきましたから、オリエンタルランドも、本国の料金設定にある程度合わせざるをえず、値上げしてきたのではないでしょうか。また、アメリカ基準でドル建てにして考えると、1ドル100~110円台だった時代から、現在は1ドル130~140円台まで為替が変化していますので、その差分、日本の入園料を値上げするのが普通だという考え方もあったはずです」(森永氏、以下同)

そんななか、コロナ禍やウクライナ侵攻が起こる。

「コロナ禍やウクライナ侵攻の影響で、日本でも少しずつ物価が上がってきたことで、他国同様の値上げができる空気感になってきてきたため、今回の1万円という大台を超える値上げに踏み切ったのではないでしょうか。ちなみに、オリエンタルランドを強気の姿勢と見る向きもありますが、むしろ世界標準と日本人の経済感覚の板挟みのようになっていて、毎度毎度、苦渋の決断で値上げをしていたように思います」

国内テーマパークの3割超が今年値上げ、原因は世界的な物価上昇

オリエンタルランドは今回の料金値上げについて、1日当たりの入園者数を抑制することで、平日と土日祝の繁閑差をなくし、快適なパーク環境を利用者に提供する目的があると発表している。

土日祝の料金が1万円を超えたことで客足が減少し、売上にマイナスの影響が出ることはないのだろうか。

「客数は減るでしょうが、むしろこれまでよりも売上高はアップするでしょう。値上げ後もディズニーに来るのは経済的に余裕がある層だと予想されるので、パーク内での飲食や土産品の購入などが今まで以上に期待でき、一人当たりの消費額が上がると考えられます。客数の減少分を客単価の上昇分が上回って、結果的に売上高は上がるのではないでしょうか。ちなみに、オリエンタルランドの想定どおり、入園者数の抑制効果があり、パーク内の混雑が緩和されて快適度が上がるはず。そうなれば体験価値の上昇につながりますので、顧客満足度も上がると思います」

いずれにしても、オリエンタルランドは殿様商売をしていたわけではなく、むしろ世界中がもっともっと値上げしているなか、企業努力をして比較的リーズナブルな料金設定にしてくれていたと考えることもできるようだ。

では、世界基準で考えると適正価格であろう1万900円という額を、多くの日本人が「高い」と感じてしまう理由とは?

「日本人の経済感覚について掘り下げてみると、厚生労働省の調査によると、2021年の段階で年平均世帯所得は545万円で、過去10年の推移ではほぼ横ばいとなっています。しかし、社会保険料などの税金負担率は徐々に上がったため、その分手取り額が減少しました。昔と比べると裕福には感じられない人が多くなってきているのではないでしょうか」

また、テーマパークの料金値上げは、実はディズニーだけではない。森永氏によると「帝国データバンクの調査では、国内の主要レジャー施設全体の32%にあたる61施設が、2023年中に値上げを行っていることがわかる」という。

つまり、1万円超えというキャッチーさでディズニーが槍玉に上がりがちだが、値上げ自体はめずらしいことではないということ。同調査によると、値上げの主な理由として、電気代などのエネルギー価格の上昇が大きな影響を及ぼしたことが挙げられている。

まだ間に合う!? 10月以降も値上げ前と同じ値段でディズニーを楽しむ秘策

とはいえ、やはり1日最大1万900円という価格を考えると、気軽に行ける場所ではないと感じる人が多いかもしれない。

たとえば土日祝に2人で丸一日ディズニーを楽しんだとすると、園内で飲食や土産も購入するなら軽く3万円を超えてくるだろう。これまではよく目にする光景だった高校生カップルのディズニーデートなどは、かなりハードルが高くなるのではないだろうか。

「たしかに、これからは高校生などの若者たちが頻繁に行ける場所ではなくなっていくでしょう。ただ、ディズニーほどの緻密に計算された世界観を持ち、高品質なサービスを提供しているテーマパークに、幅広い世代が行くことができていたという状態が、世界的に見ればかなり珍しかったのだとも言えます。

それだけ今まで日本は経済格差が少なかったということですが、ハイクオリティな商品やサービスには相応の高値が設定され、経済的に裕福ではない層の人々が享受しづらくなるというのは、資本主義社会としては正常な在り方です。格差社会をさらに広げてしまうという残酷な側面もありますが、日本もそういう国になっていくということでしょう」

これから値上げされるからこそ、できるだけ出費を抑えてディズニーを楽しむ方法も知りたいところだ。

「ディズニーはいわゆるダイナミックプライシングという変動価格制を採用しており、入園する日にちや時間帯によって価格差をつけています。1デーパスポート1万900円という価格は土日祝のなかでももっとも高い日の料金で、平日の一番安い日なら7900円となっています。当然、最安値の7900円の日に行くのがお得ですし、土日祝よりも混雑していないでしょうから、快適度は高いでしょう。ですからいままで土日祝に行っていたという方々は、これからは有給休暇を取るなどして7900円の平日を狙っていけば、リーズナブルに安く楽しめることになります。

また遠方からディズニー近くのホテルに泊まって遊びに来るという方々は、今のうちがチャンスかもしれません。近辺のホテルではディズニーのパークチケット付きの宿泊プランを用意しているところが多いのですが、現時点(8月5日時点)で10月以降も、値上げ前と同じ価格のパークチケット付き宿泊プランを出しているホテルもありました。現行と同じ価格のプランで10月以降の土日祝のディズニーに行けるのであれば、実質、割安で楽しめることになります」

――できればディズニーはこれからも“みんなの夢の国”であってほしいものだ。

取材・文/瑠璃光丸凪(A4studio) 写真/shutterstock