●想像を超えた伊藤沙莉と織田裕二の相性の良さ

テレビ朝日系ドラマ『シッコウ!! 〜犬と私と執行官〜』(毎週火曜21:00〜)が現在放送中だ。今作は、情け容赦なく“差し押さえ”等を行う国家公務員「執行官」を描くリーガルエンターテインメント。ある事情から執行官の世界に飛び込み、犬担当の執行補助者となる吉野ひかりを伊藤沙莉が、ひかりを導く執行官の小原樹を織田裕二が、執行官室の頼れる事務員・栗橋祐介を中島健人(Sexy Zone)が演じている。

今作の脚本を手掛けるのが、『カバチタレ!』や『あさが来た』、『未解決の女 警視庁文書捜査官』などの“お仕事ドラマ”を多数生み出し、2021年の大河ドラマ『青天を衝け』の脚本も務めた大森美香氏。今回のインタビューでは大森氏が「執行官」をテーマにした理由や、想像を超えるキャストの芝居、そして中島にオファーした理由を語った。

脚本家の大森美香氏

○■今の時代を描くため“執行官”をテーマに

――大森さんはNHK大河ドラマ『青天を衝け』(21年)の執筆後に、「今の時代を切り取れる作品を書きたい」との思いから、執行官というお仕事を題材にすることを決めたとお伺いしました。どのような経緯で執行官という仕事を知り、魅力を感じたのか教えてください。

テレビ朝日さんと「お仕事ドラマがしたいですね」とお話ししていて、テーマ探しのためにたくさんの資料を用意していただきました。そこで出会ったのが、今はもう絶版になっていてコピーで拝見した『執行官物語』という書籍で、読んでみるととても面白かったんです。かなり前に書かれたものだったので、今はこのお仕事がどうなっているのかもっと知りたいと思いました。調べていくうちに、執行官は裁判で判決を受けたのにそれを実行していない債務者と交渉するお仕事で、債務者にはそれぞれの事情を抱えている方や個性の強い方が多いことに興味を持って。その一人一人と接して解決していく執行官はとても大事な仕事で、想像するより身近な存在だと感じました。そんな執行官を描くことで今の日本で起こっている問題に気付くことができ、「今の時代を切り取りたい」という思いを叶えられるかもしれないと思ったことがきっかけです。

――第1話では、判決が出ているにもかかわらず住居から立ち退かない家族に、ひかりが「え?裁判の判決って守らなくていいんですか?」と驚くシーンがありましたが、視聴者として同じ目線で驚きました。裁判のその後を描いたドラマはなかなかないですよね。

裁判での勝ち負けまでを描いた作品が多いので、そこからの物語を描くのは、面白い着眼点になるかもしれないと思いました。



――執筆していて楽しかった部分を教えてください。

楽しかった面もありましたが、たとえば家を明け渡さないといけない家族の物語のように、シビアに感じることのほうが多かったです。本人に責任がある場合ももちろんありますが、そうでなくても執行される事態になった方もいて、生活や人生や心がギリギリの方たちを書くのはつらかったですね。そんな中で、外の世界から入ってきた主人公のひかりちゃんは、執行官のシビアな世界を違う目線で見せてくれるキャラクターなので、私にとっても勇気をくれる存在でした。





○■想像を超えた伊藤沙莉と織田裕二の相性の良さ

――主人公のひかりは、執行官1年目の小原さんとバディを組むことになります。小原さんはどんなキャラクターにしたいと思いましたか。

自ら望んで執行官の仕事をしている方ではあるのですが、それでも淡々と執行するのではなく、ひとつひとつ悩みながら執行する新人であってほしいと思って書きました。完璧ではない、隙のある姿がどこか共感できる人物に見えていればうれしいです。実は若いひかりちゃんのほうが人間的には図太く、小原さんのほうが弱さのある人だという対比でしたので、そんな2人が違う価値観をぶつけ合う姿は、書いていて楽しかったです。

――伊藤さんと織田さんの掛け合いを見て、いかがでしたか。

想像以上にお二人の相性がいいと感じました。織田さんの強さに沙莉さんが全く負けていない頼もしさがあり、織田さんがその分かわいく見えているのではないかと。沙莉さん演じるひかりちゃんは、債務者の方々への“寄り添い力”がすごくて、この人にそばにいてほしいと思えるキャラクターになっていましたし、織田さん演じる小原さんは、迷いながら執行しているシーンでの一生懸命さが魅力的で、見ていてうれしくなりました。そして中島さん演じる栗橋くんは、すごく不思議な魅力を醸し出す唯一無二の事務員になっていて、意外なくらい面白いキャラになっていると驚かされました。中島さんの計算の賜物なんでしょうね。

●中島健人には自らオファー アームカバーも指定

○■中島健人には自らオファー アームカバーも指定

――中島さんは、大森さんのオファーで出演が決まったとお伺いしましたが、きっかけを教えていただけますか。

中島さんはアイドルとしてすごく魅力的な方ですが、俳優としても同じくらい面白いポテンシャルをお持ちなのではと感じていました。キラキラしているだけではなく、“人間”をちゃんと見せられる方で、ちょっと器用貧乏なんじゃないかなと感じさせるところにも魅了されていました。以前から“キラキラしていない中島さん”が見たいなと思っていたんです。

――最初にそう感じたのはいつでしたか。

24時間テレビでのドラマ『ヒーローを作った男 石ノ森章太郎物語』(18年 日本テレビ)です。陰な部分を持ちながら情熱的に打ち込んでいく姿が面白くて。それまで中島さんのお芝居をあまり見たことがなかったのですが、「こんな役も似合う方なんだ」「新しい一面をもっと見てみたい」と感じました。その後も色々と作品を拝見しましたが、中島さんはどの役でも素敵でキラキラしているじゃないですか。だからこそ、そうじゃない役者・中島健人さんをもっと見てみたいという思いが募っていって。

――アームカバーにそんな思いを感じます。

アームカバーは私がト書きから指定してしまったものなので、中島さんには申し訳なかったんですけど(笑)。

――大森さんのこだわりだったんですね。

もしかしたら嫌がられるかもしれないと思ったのですが、チャレンジだと思ってやってくださったならすごくありがたいです。沙莉さんも織田さんも、こうなっていたらいいなという想像を超えるお芝居をしてくださったのですが、中島さんは一番予想外のインパクトを与えてくれました。これから先、栗橋くんも成長していくので、中島さんのどんなお顔が見られるか楽しみにしています。



○■『カバチタレ!』から20年超…日本に感じること

――今作は、大森さんの代表作である『カバチタレ!』(01年 フジテレビ)と同じリーガルドラマですが、20年以上経った今とあの頃で、脚本を書いていて社会が変わったと感じることを教えてください。

『カバチタレ!』は、法律を武器にバリバリやっている栄田さん(深津絵里)に対して、希美さん(常磐貴子)さんが社会を違った視点で見せていくという、少し今回のひかりちゃんと似た立ち位置でした。2人は28歳くらいの設定で、今回のひかりちゃんも同世代なのですが、日本がかなり高齢化し、社会情勢や環境問題など取り巻く環境はかなり変わったと感じています。働く女性の環境も変わったようでいて、私が今回の題材に取り掛かったときにはまだ女性の執行官が1人もいないなど、変わっていない面もたくさんあって。日本社会全体が緊迫した状態の中で元気をなくしてしまっている気がするので、あの頃よりも「寄り添いたい」という気持ちが大きくなっています。

――確かに、日本は20年前より元気がなくなってしまっているかもしれません。そして、ちょうど今年の春に、日本初の女性執行官が誕生したんですよね。

そうなんです! うれしいですよね。お話してみたいです!



○■この先のストーリーもリアルさを追求

――では最後に、今作『シッコウ!! 〜犬と私と執行官〜』の見どころを教えてください。

今後もいろいろな債務者、債権者の人々が登場します。栗橋くんもそれらに自ら接して変わっていきますし、ひかりちゃんも小原さんも、いろいろな事件と出会うことで成長していくので、楽しみに見ていただきたいなと思います。元執行官の方々に丁寧に監修していただき、競売や子の引き渡しの強制執行、鍵担当や運搬など執行補助者のお仕事など、この先のストーリーもかなりリアルに描けていると思います。「もし自分の身近でこんなことが起きたらどうしよう」と空想しながら見ていただけるととてもうれしいです。



■大森美香

1972年3月6日生まれ、福岡県出身。脚本家。演出や映画監督、小説も手掛ける。名古屋テレビ放送、フジテレビを経て、『美少女H』12話(98年 フジテレビ)で脚本家デビュー。連ドラ初脚本作『カバチタレ!』(01年 フジテレビ)が大ヒットし、2005年には『不機嫌なジーン』(フジテレビ)で第二十三回向田邦子賞を史上最年少で受賞する。代表作にドラマ『ロング・ラブレター〜漂流教室』(02年 フジテレビ)、『ランチの女王』(02年 フジテレビ)、『きみはペット』(03年 TBS)、『マイ☆ボス マイ☆ヒーロー』(06年 日本テレビ)、『ブザー・ビート〜崖っぷちのヒーロー〜』(09年 フジテレビ)、連続テレビ小説『あさが来た』(15年 NHK)、『未解決の女 警視庁文書捜査官』(18-20年 テレビ朝日)、大河ドラマ『青天を衝け』(21年 NHK)、映画『カイジ 人生逆転ゲーム』(09年)、『宇宙兄弟』(12年)、『ひみつのアッコちゃん』(12年)など。