今季5度目のクラシコではガビ(左)とヴィニシウスの衝突が話題に。(C)Getty Images

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 ネグレイラ事件のこぼれ落ちた疫病神のような腐敗を前に、ただでさえ苦境に立たされているスペインサッカー界はさらなる逆風に直面している。

 ビッグネームの枯渇に伴い、バルセロナとレアル・マドリーの威光が低下。疑惑の判定、VARの過干渉、ヴィニシウス騒動、ガビのラフプレー論争、主要な団体同士の抗争など醜聞にも事欠かない。光り輝く旗頭とならなければならない代表チームも、ペレのブラジルとは程遠い日本やモロッコを向こうに回しても、羽ばたけない有様だ。

 スペインサッカー界を牽引する2強は、カリム・ベンゼマ、ルカ・モドリッチ、トニ・クロースの賞味期限切れか否か、アンス・ファティの得点力の低下、ブスケッツの契約延長に議論を集中させている。マドリーはヴィニシウス・ジュニオール、バルサはロナルド・アラウホ頼みになっている。

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 フェラン・トーレスは離陸せず、エドゥアルド・カマビンガとオーレリアン・チュアメニはレギュラーに定着するには至っていない。ナチョ、ダニ・セバジョス、マルコス・アセンシオの去就は宙に浮いたままだ。ロベルト・レバンドフスキには、ベンゼマと同じくらいの時間しか残されていない。

 ハリウッドのレッドカーペットを敷いて迎えられたエデン・アザールは幽霊のようにバルデベバス(マドリーの練習場)を彷徨っている。ただマドリーにはまだ救いがある。キリアン・エムバペの獲得が失敗に終わった誤算があるとはいえ、サンティアゴ・ベルナベウの3度目のリニューアルを控え、15度目のチャンピオンズリーグ制覇を実現できるか否かに関わらず、新たなサイクルをスタートするだけの十分な資金を有している。

翻ってバルサは、今夏さらなる補強に動こうにも、小銭しか持ち合わせていない。

2強の威光の低下を象徴するのが得点数だ。ラ・リーガが第24節、プレミアリーグとリーグ・アンが第26節、セリエAが第25節、ブンデスリーガが第23節を終えた時点で、マンチェスター・シティ、バイエルン、パリサンジェルマンはいずれも66得点をマーク。アーセナル(59)、ナポリ(58)、モナコ(55)、マルセイユ(49)といったチームもバルサ(46)とマドリー(47)よりも多くのゴールを叩き出している。

2強以外のチームも得点数は伸びておらず、アトレティコ・マドリーの得点38はジローナと同数だ。さらに重症なのがセビージャとバレンシアで、 “元”第2勢力はいずれも、降格の危険水域に足を踏み入れている。代わってレアル・ソシエダとベティスが上位に躍進。アスレティック・ビルバオとビジャレアルは一進一退を繰り返している。

 第24節では、ソシエダ対カディス、ラージョ対ビルバオ、オサスナ対セルタ、ベティス対マドリーの4試合がスコアレスドローに終わった。アルメリア、マジョルカ、バレンシアは完封負けを喫しており、つまり全20チーム中半分以上が1度もゴールネットを揺らすことができなかった。
 経済的レバーを乱発したバルサを除いて、各クラブの経営に対し厳しい監視体制が敷かれるようになったことは一つの進歩だが、ラ・リーガはとにかくピッチ外の騒動が多すぎる。もっともっとサッカーに目を向ける必要がある。

 リオネル・メッシとクリスティアーノ・ロナウドの流出がもたらした空白は際限なく広がり、かといってジネディーヌ・ジダンやアンドレス・イニエスタのような名手が毎月、花を咲かせるわけでもない。移籍市場で後手を踏むことを余儀なくされている大部分のクラブが重点を置くべきは、アカデミーにせよ、ストリートにせよ、育成であることは明白だ。

 試合内容を改善するのに手を貸さなければならない人物は他にもいる。審判だ。プレーに連続性がなく、泥仕合が少なくないことの責任の一端は彼らにもある。何でもかんでもファウルと判定し、カードを提示し、暴言という括りで片付けられる問題ではないのだ。もちろん、不正なプレーは厳重に取り締まる必要がある。

 Optaのデータは、雄弁であり、不穏でもある。5大リーグの中でラ・リーガは1試合当たりのイエローカード数(4.97枚)、レッドカード数(0.40枚)、ファウル数(26.42回)が最も多く、アディショナルタイムを含めた試合時間(98.15分)が最も長い一方で、実質的なプレー時間(53.62分)は最も短い。
 
 スペインサッカー界にはSOSを発するには十分すぎるほどの理由がある。ウルグアイの伝説的ジャーナリストエドゥアルド・ガレーアノはこう述べている。

「私は良いフットボールの乞食に過ぎない。世界中を飛び回り、帽子を片手に、スタジアムで『頼むから美しいプレーを見せてくれ』と懇願する。そして、好試合に遭遇したら、それを提供してくれたクラブや国がどこだろうと、その奇跡に感謝する」

文●ホセ・サマノ(エル・パイス紙記者)
翻訳●下村正幸

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