MBAはキャリアアップに効くのでしょうか? 学生からの相談です(写真:jessie/PIXTA)

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将来MBAを取得するべきか否かで悩んでまして、今回MBA取得者である安井様へ質問させていただきたく宜しくお願いいたします。私は現在大学3年生でして、就職後しばらくしたらまたは卒業後そのままできれば海外のMBAに行きたいと思ってます。いろいろと周りに聞きますが、仕事をバリバリして出世するためにMBAは必須だと思います。

しかし昨今の円安の影響もあり、どんどん学費が高くなっているのも現状でして、はたしてリターンがどの程度見込めるかが心配です。ご経験からよかった点や悪かった点などあれば教えていただきたいのと、あと選択肢として海外MBAってホントのところキャリアアップに効くのでしょうか? 宜しくお願いいたします。

KT 学生

キャリアは「経験と学習」の両輪から成り立っています。海外MBAそのものがキャリアアップに効くわけではなく、使い方と学び方を誤らなければキャリアアップにつながる道が開ける、という感じです。

キャリアアップに万能な資格や学位は存在せず

MBAに限らずですが、まずキャリアアップに万能な資格や学位は存在しません。資格や学位があればそれが一生を保証してくれる、というわけではないのです。


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したがって、おっしゃるように「仕事をバリバリして出世するためには必須」というわけではありません。そういった意味では、MBA留学にかける費用とそれに対するリターンはリスクフリーというわけではないのです。

MBA取得者はそれこそ星の数ほど存在しますし、これからもどんどん増えることになるでしょう。

しかしながら、その全員が全員成功しているかというとそうではありませんし、全員が全員思い描いていたとおりのキャリアをえているかというとそんなことはありません。

その一方で、活躍をされていたり、自分自身が理想と考えるキャリアを着々と進んでいる方たちがいることも確かです。

そう考えると、MBAの取得そのものが成功につながるわけではなく、MBA取得者もそうでないヒト達と同様に、キャリアにおける成功も失敗も最初から決まっているわけではありません。保証されているわけでもないということがわかるハズです。

では、MBA取得者のその後のキャリアの分かれ道はどこで決まるのかというと、MBAの「使い方」と「学び方」だと思っています。

その2つのポイントをキチンと押さえることで、大勢いるMBA取得者の中における差別化にもつながりますし、キャリアを開拓するうえでの武器にもなりうるのです。

MBAの「使い方」は2つある

まず使い方は2つあります。1つは自分自身のキャリア戦略においてMBA取得がキチンとプラスになっているような使い方をすることです。もう1つはMBAが評価されうる環境に身を置く、ということです。

まず前者ですが、MBA取得前後における自分のキャリアパスと、MBAでの学びにキチンとしたストーリーと相乗効果があることが大切、ということです。実際のキャリアで積む「経験」と、MBAでの学び、つまり「学習」は両輪なのです。

その片方がキチンと回らないと全体としてスムーズに進めるわけがありません。逆に言うとその両輪がキチンとそれぞれなすべき役割を果たしていれば、その相乗効果は計り知れない、ということになります。

何かを逆転しようとして、例えば今の仕事で芽が出ないから一発逆転でなんとなくMBA取得を目指す、というようでは片方の部分=学習、だけでキャリアを戦おうという試みになってしまいますから、迫力不足なのです。

そういったケースでは、例えばMBA取得後の未経験の業種への転職において、その業界10年選手のほうと、どちらが採用される可能性があるかというと、圧倒的に有利というわけにはいきません。

反対に、前後のキャリアとMBA取得がキチンとリンクしているケースではどうか、ということですが、例えば私自身のケースでかいつまんでいうと次のような感じです。

大学卒業後ベンチャー企業に飛び込み、教えてくれるヒトが不在の中、経営を試行錯誤で実践し、学び、上場にまで漕ぎつける。その後自分自身の経験してきたことを体系的に棚卸しする。「経験×学習」でより経験を深化させ、成功の再現性を高めるべくMBAを取得。取得後は未経験の分野である戦略コンサル会社へ、となります。

このケースでいうと、ベンチャー企業という小さな組織において最前線で実戦を経験(「経験を磨く」)、その経験を一過性で終わらせることなくキチンと体系的に棚卸しし自分の知識・知恵として刷り込み(「学習」)、その相乗効果を特定業種、特定の規模に限定せずに生かし、戦略コンサルで「経験×学習」の輪をさらに磨く、ということになります。

つまり、なぜMBAが必要なのかをはじめMBAに行く目的も明確ですし、その前後におけるキャリアとの関連性も明確です。

仮にMBAを取得してなければ未経験であった戦略コンサル会社への転職は難しかった可能性が高いですし、たまたま勤務先のベンチャー企業の成長の勢いに乗っただけのヒト、とみられてもおかしくなかったわけです。

MBAが評価されうる環境

もっというと、戦略コンサルという業種が、その前のキャリアにも当然よりますが、MBA取得が評価されうる業界であったこともプラスになったハズです。

つまり、「使い方」のもう1つのポイントでもある、「MBAが評価されうる環境」であったのもよかったのだと思っています。

このように、なぜMBAが自分のキャリアにおいて必須なのかをキチンと定義し、そのうえで経験とMBAの相乗効果を最大化できるか否かが大切なのです。

それが最大化できれば、投下した費用に対するリターンも高まりますし、そうでない限りにおいてはリターンはあまり見込めない、ということになりかねません。

MBAそのものは、もはや珍しいものでもありませんし、前述したとおり万能な学位ではありませんから、MBA取得もキャリア構築そのものも、戦略的である必要があるのです。

さて「学び方」ですが、これは知識を学ぶために行く、ではなく、思考回路や考え方を身につける、というスタンスが大切だと思っています。

つまり「経営学のお勉強」ではなく、「経営の実践の疑似体験」として捉えるべし、ということです。

何もお勉強だけしたいのであれば、ちまたによい学習本はあふれていますし、もっというとMBA過程で使われている教科書なんかはアマゾンでもなんでも手に入るものだったりしますから、そういったものを駆使してお勉強すればよいのです。

ただ、それだけだとやはり実際に生かすことはできませんし、経営のお勉強をしただけで経営ができるわけでも決してありません。

であるからこそ、学びを通じて自分の思考の癖の理解を含め、しかるべき思考回路を身につけ、実際のケースに応じて「応用につなげる」ことを意識する、ということが大切になってくるのです。

お勉強的に知識を詰め込んで学ぶのではなく、経営にかかわるあらゆる側面を体系的に理解し、そのうえでしかるべき意思決定につながるような考え方を学ぶ、という感じでしょうか。

そのような前提であれば、MBAもようやくキャリアアップにおける武器につながりうる、ということです。

リターンを最大化できるかは自分次第

繰り返しですが、お金も時間もかかるMBAの価値、つまりリターンを最大化できるか否かは自分自身にかかっています。

そのような考え方で、ご自身の目指すキャリアにおけるMBAの位置づけと使い方を整理したうえで、本当に価値があるものなのかどうかを今一度考えるべきかと思われます。

KTさんがそうしたスタンスで周りの声に惑わされることなく、自分自身にとっていちばんと思える意思決定を下されることを応援しております。

(安井 元康 : 『非学歴エリート』著者)