娘が親離れするまで母親らしいことをしたい(写真はイメージ)

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「年収400万円の正社員をやめて専業主婦になり、小4の娘に母親らしいことをしてあげたい」

48歳の女性の投稿が炎上気味になっている。家から10分、残業ナシ、人間関係良好の申し分のない職場だが、女性はヘトヘトに疲れていた。

ママっ子の娘と一緒にいる「最後の母娘時間」を持ちたいというのが願いだが、「もうすぐ反抗期を迎えるというのにもったいない」「みんな不調を抱えながら頑張っているのだから」とやめないでコールの大合唱だ。

女性は働き続けるべきか、それとも......。専門家に聞いた。

「更年期症状悪化で15年間働いた職場を退職。非常に無念で残念」

<「年収400万円正社員やめて専業主婦に」女性の投稿が炎上! 仕事に疲れ、小4娘に母親らしいことしたい「もったいない?」「やめてもいい?」...専門家に聞いた(1)>の続きです。

――更年期症状を抱えながら働くというのは、かなり深刻な問題をはらんでいるのですね。

川上敬太郎さん「はい。フリーコメントには、『周りの方々には、この気持ち、辛さはわからないだろう、と思います』『つらいのに生理より言いにくい。馬鹿にされる、嘲笑の対象など偏見がある』などの声が寄せられています。更年期症状は周囲から察することが難しく、周りに相談できず一人で抱え込んでしまっている人は少なくないのだと思います。投稿者さんと同じように体調不良を訴える声が多くありました。『抵抗力が弱まるらしく、ヘルペス、婦人科医系のちょっとした感染、ばね指、膀胱炎...といろいろな症状が近い期間にどっと来た。そのたびに通院、服薬』といった声です。そして、辞めるという選択に追い込まれた人もいます。『視力の低下、動悸、手汗、苛立ちなどの症状。接客業だったので、このままではトラブルや事故を起こすかもしれないと思い、退職。気持ちと体調の温度差に愕然としました』『更年期症状の悪化で、15年間働いた職場を退職しました。非常に無念で残念です』といった声も寄せられています」

「生理休暇のように、更年期のことも周りに言いやすい雰囲気を」

――職場の同僚や上司の理解は得られないものでしょうか。

川上敬太郎さん「フリーコメントでは『組織の長が更年期に対する理解を深めてほしい』とか『生理休暇のように、更年期のことも周りに言いやすい雰囲気を作ってほしい』と訴える意見がありました。周囲には症状がわかりづらく、個人差があるので、職場の理解が喫緊の課題と思います。投稿者さんも更年期を自覚されているようです。更年期による体調不良が仕事や家庭生活など、さまざまな方面に悪い影響を及ぼしてしまっている可能性も否定できないように感じます」

――更年期を経験した回答者の中には、「疲れの原因は体がSOSを出しているからです」と、婦人科や耳鼻科、心療内科の受診を強く勧める人が多いです。

川上敬太郎さん「親身になって、投稿者さんの体調を心配されたアドバイスだと思います。いつの間にか無理してしまっていると、自分ではなかなか気づきづらい異変が体の中で起きてしまう可能性があります。ご自身でも更年期について言及されていることも踏まえ、医師に相談して心身の状態を客観的に把握しておけば、先々に対する備えもしやすくなり、ご自身としても安心なのではないでしょうか」

「もう疲れた」と言っている人に「頑張れ」「努力しろ」は禁句

――しかし、「とても恵まれた職場なのにもったいない」「みんな心身に不調を抱えながら頑張って働いている」という厳しい意見も見られました。

川上敬太郎さん「『とても恵まれた職場でもったいない』という指摘はわかりますが、無理をして体調を崩してしまっては元も子もありません。心身に不調を抱えながら頑張ることが時には必要なケースもあるとは思いますが、職場復帰できないほど体調を悪化させると、取り返しがつかなくなってしまいます。励ましのアドバイスは、心強い反面、過度に無理をさせることで人を追い込んでしまうこともあります。また、『頑張れ』『努力しろ』と叱咤した結果、心身を壊してしまうようなことになった場合に責任がとれるものでもありません。投稿者さんは『もう疲れました』と言っているのです。『頑張れ』『努力しろ』という言葉は、果たして疲れている人に対して向けられるべきものなのだろうか?と疑問に思います」
川上敬太郎さん「追い込まれ、疲れている人をさらに追い込むことは、マイナスにこそなれ、プラスになることはありません。世の中にはたくさん頑張っている人がいて、その頑張りは尊重されるべきですが、頑張り度合いは人と比べられるものではありません。その人にとってキツイことが、他の人にとってはそうでもない、あるいはその逆ということはよくあります。いま投稿者さんが感じている大変さが、一体どの程度大変なのかは、投稿者さんご自身にしかわからないことです。仕事に対する考えが甘いとか、もっと大変な境遇でも頑張っているなどと、決めつけにもとづいてアドバイスしても、投稿者さんの参考にはならないのではないでしょうか」

フルタイム正社員→パート→時短正社員...5度も働き方を変えた人も

――ところで、仕事を辞めた場合の老後の資金が心配だとして、ファイナンシャル・プランナーに相談するべきだという意見が結構ありました。夫を説得しやすくなるメリットもあるそうです。こちらは実践的なアドバイスでしょうか。

川上敬太郎さん「心身の状態を客観的に把握しておくことと同様に、家計の現状と未来についても客観的に把握しておくことは後々の安心につながるかと思います。もし老後資金が心配なのであれば、専門家であるファイナンシャル・プランナーの意見を聞かれるのは有意義なことではないでしょうか。ご自身の体調について医師に相談することと、家計についてファイナンシャル・プランナーの意見を聞くことは、現状を客観的に把握して先々に備えるための行いという意味において、相通じているように思います」

――また、会社と交渉してパートや時短勤務にしてもらい、娘さんと接触する機会を増やしたらどうかという意見も多いです。娘さんもすぐに反抗期になり、母親とベタベタするのもあと2〜3年だから、「もったいない」というわけです。

川上敬太郎さん「職場が相談に乗ってくれるようであれば、辞めずに柔軟な働き方に変えることは現実的な選択肢の一つだと思います。実際に、子育てや介護などの状況変化に柔軟に合わせて、フルタイム正社員→パート→時短正社員など、5度も働き方を変えながら、辞めることなく長く勤め続けたという方を存じ上げています。ただ、娘さんはもうすぐ反抗期になるのだからもったいないというアドバイスについては、私はそうは思いません。子どもが皆反抗期になるわけではありませんし、反抗期かどうかに関係なく、お子さんと共に過ごす『いま』という時間は、二度と帰って来ることがない貴い時間に変わりないはずだからです」

今回の話題について、川上さんのアドバイスも熱を帯びました――。<「年収400万円正社員やめて専業主婦に」女性の投稿が炎上! 仕事に疲れ、小4娘に母親らしいことしたい「もったいない?」「やめてもいい?」...専門家に聞いた(3)>にまだまだ続きます。

(福田和郎)