さかなクン、のん主演映画『さかなのこ』で描かれなかった“酒と暴力”の囲碁プロ父・宮沢吾朗九段との「断絶20年」
公開中の映画『さかなのこ』では、さかなクン(47)の半生が描かれている。原作は、自伝的エッセイ『さかなクンの一魚一会〜まいにち夢中な人生!』だ。
【写真】さかなクンと父子”断絶”状態にあるという宮沢吾朗九段、両者を直撃すると
「さかなクンをモデルにした主人公“ミー坊”を演じているのは、のん(29)さん。映画の冒頭に“男か女かはどっちでもいい”というメッセージが流れます。幼いころから魚が大好きで、それを貫いて“さかなクン”へ成長していく姿を追う物語です。母親役を井川遥さん、父親役を三宅弘城さん、幼なじみ役を柳楽優弥さんが演じており、共演陣も豪華。さかなクン自身も『ギョギョおじさん』として登場します」(映画ライター)
ミー坊が興味を持っているのは魚だけ。学校の勉強は苦手だが、母は優しく見守り“好きなことは突き通しなさい”と言って後押しする。
「父の出番は少なく、ミー坊が高校生になってからは登場しません。原作でも記述はちょっとだけで、教育に厳しい父という描かれ方でした」(同・映画ライター)
さかなクンは母と兄のことはよく話すが、父についてはほとんど触れたことがない。
「神奈川県綾瀬市に住んでいました。さかなクンの父と母、2歳上の兄、そしてさかなクンという4人家族です。ただ、両親の仲はよくなかったようです。一家と交流のあったご近所さんによると“お母さんはよく顔に青アザをつくって泣いていた”って……」(さかなクンの幼なじみ)
埼玉でひとり暮らしをする父親
現在さかなクンは千葉県館山市の一軒家で暮らしている。
「さかなクンが引っ越してきたのは、20年ほど前。庭に巨大な水槽が入る別棟も建てました。通称“フィッシュハウス”です。さかなクンは、タレント活動で家を空けることが多くなって、飼育している魚の面倒を見る人が必要になり、母と兄を呼び寄せて、一緒に暮らすようになりました」(近所の住民)
父だけは、埼玉県でひとり暮らしをしている。囲碁の世界では名の知れた、棋士の宮沢吾朗九段だ。
「72歳ですが今も現役で、玄人好みの筋のいい手を打つことで知られます。幼いころにはさかなクンに囲碁を教えたそうですが、まったく上達しなかったそう。才能は受け継がれなかったみたいですね」(テレビ局関係者)
さかなクンが高校生のころの話を、隣人だった人が話してくれた。
「さかなクンは“ミー坊”ではなく“マー君”と呼ばれていました。お母さんは、さかなクンと一緒に車で海水をくみに行ったりしていました。子どもたちが興味を持っていることを自由にやらせていた感じです。お父さんとは話したことがありません。そもそもコミュニケーションをとらない人でしたから」
家族の不和は、近所の誰もが知っていたという。
「言いにくいんですが……お父さんは、ひと言でいえば酒乱です。普段は物静かだけど、囲碁の対局で負けたりすると、お酒を飲んで、お母さんに当たり散らしていました。夜中に大声が近所に響いていて、なんだか気の毒でしたね」(近所の住民)
酒を飲んで暴れる父親
さかなクンが父を語ろうとしないのは、酒を飲んで暴れる姿を覚えているからなのだろうか。
「宮沢九段は、とにかくお酒が好きで、電車に乗る前に駅の売店でお酒を買って、電車内で一杯ひっかけるほど。勝負事も大好きで、最寄り駅に着いたら必ず駅前のパチンコ店でひと勝負します」(囲碁業界関係者)
父は月に数回しか家に帰らないようになり、さかなクンが高校を卒業すると、家族は綾瀬から引っ越していった。
「さかなクンが『TVチャンピオン』の全国魚通選手権で準優勝したのが高校3年生のとき。その後5連覇して殿堂入りして、名前と顔が知られるようになります。しばらくペットショップやお寿司屋さんで働いていましたが、2000年ごろからタレント活動が軌道に乗り始めました。そのころには父親との関係は途絶えていたのかもしれません」(前出・テレビ局関係者)
“親子断絶”について聞くため、9月上旬、東京・市ケ谷にある日本棋院から出てきた宮沢九段を直撃。
─さかなクンの映画はご覧になりましたか?
「まだ見てないんです。そのうち見たいですが」
満面の笑みで答えてくれたが、次の質問に表情が曇る。
─さかなクンの“フィッシュハウス”に行ったことは?
「いえ、全然……」
─行けない理由がある?
「まあ……」
家庭内での暴力を否定せず
─かつて、お父さんが家族に暴力を振るっていたと話す人がいます。
「……そう言う人がいるのなら、そのとおりなのでしょう」
否定はせず、酒グセが悪いことも自ら認めた。絶縁の理由については口をつぐんだが、今も離婚はしていないという。
─映画では厳格な父として描かれていたが、さかなクンが魚ばかりにのめり込むことに反対だった?
「子どもの教育は母親任せで僕はノータッチだった。反対はしてないです。私も好きなことをやってほしかった」
─映画にもなった息子のことは誇らしい?
「それは、もう。本当は子どもたちには囲碁をやってほしかったけど全然覚えてくれなかったんです」
丁寧に話す横顔は、どこか寂しげに見えた。
父との断絶にさかなクンは
数日後、さかなクンの自宅へ向かうと、フィッシュハウスからさかなクンが現れた。
─映画、面白かったです。
「あ、どうも」
例の帽子はかぶっていないが、話し方はいつもの調子。早朝から船で漁に出て、とれた魚を調理していたようだ。
─お父さんが住んでいる場所は知っていますか?
「ああ、えっとー」
父について質問すると、口ごもる。
─お父さんは一度もここに来たことがない?
「ウチにはたぶん、来てないんじゃないかな」
─それは、お父さんの暴力があったから?
「ぼうりょく? えっと、それ誰が言ってたんですか?」
連絡をとっていないことは認めたが、父を悪く言いたくない気持ちが伝わってくる。
─お父さんとの関係は“断絶”している?
「断絶っていうか、なかなか会う機会が……」
父が映画を見たいと言っていたと話すと、心持ち口角が上がったように見えた。
機会があれば父に会いたいーー
─お父さんにも感謝の気持ちはありますか?
「ハイ、感謝しています」
─でも、囲碁は好きではなかったんですね?
「親孝行するなら、もっと真剣にやるべきでしたが、なかなか自分には勝負の世界ってものが苦手でした」
─お父さんには会いたい?
「そうですね、機会があれば……」
照れ笑いをしながら答える。写真を撮らせてほしいと頼むと「まだ“さかなクン”じゃないから」と言って、家の中に帽子を取りに行き、かぶってポーズをとってくれた。
所属事務所に父親との関係について問い合わせると、
「タレントの家族のことにはタッチしないので、よくわかりません。父親とは、われわれも1度も会っていません」
とのことだった。
映画では、ミー坊と母親が「また家族4人一緒に食事ができるといいね」と話すシーンがある。その願いが、叶う日は来るのか─。