「今はいち水泳ファン」と語る寺村美穂

寺村美穂インタビュー後編

 昨年9月に競泳選手を引退した寺村美穂。200m個人メドレーでリオ五輪、東京五輪に出場するなど、充実の選手生活を送る一方で、2度の手術や生理の問題など辛い経験もしてきた。それでも彼女の前向きで天真爛漫な性格もあり、男女関係なく、良好な関係を築き続け、トップスイマーたちと友情を育んできた。そんな彼女に、トップスイマーたちの交友事情なども聞いてみた。

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競泳界は異次元の世界だった

――先日、ブダベストで世界水泳が開催されましたが、今はどのような気持ちで水泳を見ていますか。

 世界水泳は日本だと夜中の放送だったんですが、毎日見ちゃいました。初めて、引退した状態で世界水泳を見ましたので、すごく変な感じでしたね。いろんな感情がありました。「もう一生このような場で戦えないんだな」という寂しさもありましたし、いち水泳ファンとして「みんな頑張れ」という気持ちもありました。今はいろんな競技を見て応援したいなという気持ちはありますが、やっぱり水泳だけは特別ですね。

――東京五輪からまもなく1年が経ちます。この1年を振り返って感じることはありますか。

 引退してから約1年、今までやってこなかったことを経験させてもらっているので、短いようで長かったなと思いますね。新しい1年を過ごさせてもらって、今後もすごく楽しみだなと思います。競泳人生がなつかしいなと、たまに浸りたくなります。

――今思い出すと、どういう情景が思い浮かびますか。

 やっぱり楽しいことですね。本当にいい経験をさせてもらいましたし、本当にきついことをしていたなとも思います。ひとりの女性になって気づいたことは、これまで異次元の世界に身を置いていたんだなということです。

 きっと100歳まで生きても、私の競泳人生25年間は濃かったなと思うと思います。本当に宝物です。今後の私の人生で、水泳がなくなることはないと思います。

「付き合ってるの?」と誤解

――競技そのものの話から少し離れますが、寺村さんは選手時代にたくさんのトップスイマーの方々と交流をもたれていました。SNSなどでのオフショット写真を見ると、男女関係なく、とても仲がいいように見えます。恋愛事情はどうだったのでしょうか。

 競泳の選手たちは、距離感がすごく近いんですね。ほかの競技だと男子と女子が分かれていることが多いですが、競泳は練習でも合宿でも男女一緒の場所で同じように行ないます。たとえば合宿でのアイスブレイキング(緊張を緩和してコミュニケーションをスムーズにする手法)も男女別々でやることはないです。

 だから恋愛というよりは、仲間なんですよね。競泳は個人競技ではあるんですけど、頑張るためには仲間がすごく必要だなと思います。個人競技だからこそ、練習以外ではみんなで集まって、競技の話をしたりするのが楽しいという感じですね。

――周りから、競泳の距離感について聞かれることはありましたか。

 ほかの競技の選手から、「あの人とあの人、つき合ってるんじゃない?」と言われることもありました。ただほとんどの場合、そんな関係ではなかったです。私たちは恋愛対象として見ているわけではなく、本当に距離が近いんだと思います。

 2人で話しているというのがつき合ってるのだとしたら、みんな5人くらいとつき合っているみたいに見えてしまいますから(笑)。もちろんつきあっている人がゼロというわけではないですが、それが周りからわからないくらい、みんな仲がいいんです。競泳界は昔から仲間意識があって、それがいいところなのかなと思いますね。

東京五輪でのひとコマ。プール内の瀬戸大也、萩野公介は同期。左から2人目が寺村美穂  photo by JMPA

――学生と社会人、恋愛も含めて競技への向き合い方は変わってきましたか。

 恋愛面はもちろん、競技に対する意識も、学生の頃と比べると、責任感が全然違うんですよね。学生時代はいろんなことを経験しようというスタンスで、責任ということについて深く考えませんでしたが、社会人になると、絶対に代表に入らなくてはいけないという気持ちになりましたし、プライベートの部分でもしっかりしなきゃいけないなという意識になりました。

 結果を出していないのに、プライベートで遊んでばかりいたら、信頼関係が崩れてしまいますから。それに結果を出していればいいという意識にもなりませんでしたから、練習でもプライベートでも責任のある立場として過ごすようになりました。

伝え方を学びたい

――これまで競泳選手として、苦労をしつつも素晴らしい日々を送ってこられたと思います。今後はどのような目標をお持ちですか。

 引退して1年くらい経ちますが、水泳に関することを第一に考えて、いろんなことにチャレンジしていきたいですね。少しずつ、自分のよさを出せるようになったかなと思いますが、経験しないとわからないこともありますので、まずはやってみて、自分のやりたいことを明確にしていきたいですね。

――水泳教室はこれからもやっていきますか。

 そうですね。子どもたちに水泳を教えることも好きなんですけど、大人の方にレッスンをすることも大好きですね。おじいちゃんやおばあちゃんが笑顔になってくれることも、本当にうれしいんですよ。水泳によって生きがいを感じてもらえると、本当にやっていてよかったなと思いますし、私のレッスンや言葉で一人でもそう感じてくれる人が出てくれるといいなと思います。

――今後、チャレンジしたいことはありますか。

 最近では、新型コロナの影響や学校プールの廃止、教員の働き方改革などで、みんなでプールに入って水泳をやるのが、なかなか難しい時代になってしまいました。そこで現在、座学による「水のない水泳教室」を企画しています。私は個人メドレーをやっていましたので、クロール、平泳ぎ、背泳ぎ、バタフライと4種目の泳ぎのポイントを陸でのトレーニングを交えながらレクチャーする予定です。それは子ども向けだけでなく、大人にも役立つものにしたいと思っています。

 それから、これまで自分の競泳人生について人前で話すことがなかったので、それを伝えていきたいと思います。話し方によっても伝わる内容が変わってくると思いますので、まずは伝え方がうまくなりたいなと思います。そして、自分の競泳人生を社会にどう生かすことができるのか、これから考えていきたいと思っています。

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【Profile】
寺村美穂
1994年9月27日生まれ、千葉県出身。小学生時代から才能を発揮し、14歳で日本選手権に平泳ぎで出場。その後、個人メドレーに転向し、15歳の時に全国中学校水泳大会で中学新記録をマークして優勝。16歳の時にもインターハイで優勝した。2016年、21歳の時に200m個人メドレーでリオ五輪9位、26歳でも同種目で東京五輪15位の成績を残す。2021年9月に現役を引退した。