※この記事は2011年09月03日にBLOGOSで公開されたものです

　８月29日に行われた民主党代表選挙で野田佳彦が当選。新しい日本の顔となり、新内閣が組閣された。(*1)

　鳩山総理には期待し、菅総理には安易なカルロス・ゴーン批判をした時点で見放した私が、野田総理に期待することは何も無い。もっとも、民主党代表選挙で誰が当選したとしても大同小異、期待しないという点では同じだっただろう。海江田は小沢の息がかかっているだけ、馬淵は東電の法的整理を示唆しているだけ、まだマシだったかもしれないけれども。

　いずれにせよ、どうせ官僚組織や自民党の顔色をうかがうしか無いコバンザメ内閣になることは目に見えている。それに期待しろという方が無理だろう。大連立などという言葉を使わなくても、もう大連立したのと同じである。


　さて、つまらない愚痴はここまでにして、改めて代表選での政権表明演説(*2)を見返してみた。さすがに代表選に出るだけのメンツであり、各自それぞれの熱意が、しっかりそつなく表現されていた。それだけにどうしても、いかにも国民受けしそうなステレオタイプな表現手法は気になった部分はある。

　演説ではやはり「震災からの復興」や「家族の安全安心」といった言葉が並んでおり、一刻も早い復興や、放射性物質を不安に感じる家族を気遣っていた。

　しかしその一方で、貧困や格差といった、私のような「被災者でも、家族の一員でもない単身者」が抱えている不安に対して、積極的に発言をした代表候補はいなかった。

　彼らからすれば「国民全体の中に、単身者も含まれる」と考えているのだろうが、私からすれば「被災地や家族という単語がメインである以上、そこに私のような単身者は含まれていない」としか考えようがないのだ。


　こういうことを書くと、必ず「僻みだろう」と薄笑いを浮かべて非難する人がいるものだが、実際、弱い立場にある単身男性の不安や苦悩に対する支援は、「もっと困っている人がいる」という言い訳によって、いつも後回しにされてきた。

　今回の震災も全く同じである。特に放射性物質の害は長期に渡ると考えられ、その間またしても単身男性に対する支援は「不安に怯えている親子がいるから」として後回しにされるだろう。私たちに支援が回ってくるのは、果たして何十年後になるのだろうか？

　その不安は決して根拠がなく、自分勝手な「僻み」などではない。


　日本には、震災によって家族や家や仕事など、様々なものを奪われた人たちがいる。放射性物質によってガンになって早死にするのではと怯える人達がいる。しかし、私たちのような仕事や家族を得る機会をとうの昔に奪われ、将来への不安を抱えたまま生きるしかない人達だって存在するのだ。

　そうした前世紀から不安を抱え続けている人たちに対して、せめて何か一言、謝罪でも感謝でもいいから言うべきことはなかったのだろうか？

　そしてできるならば「復興のために誰かを犠牲にしてはならない」。そんな強い意志を示してくれる候補者がいて欲しかった。たとえその候補者が落選したとしても、それだけで十分だったのに。


　東日本大震災以降、かつての貧困や格差の問題は、もはや忘れ去られてしまったように、私は感じている。

　だから一言「忘れてないぞ」と言って欲しかった。そんなことすら、これからの政権、それは決して野田政権だけではなく、自民党が与党復帰した後の政権にも望むことはできないのだろう。

　私はそういう「不安」を抱かざるを得ない。

*1：新執行部は「ミッドフィルダー集団」（BLOGOS）http://blogos.com/theme/post_kan/
*2： dpj-channel: 民主党代表選挙 両院議員総会, 民主党代表選挙 両院議員総会 2011年8月29日（民主党）">http://www.ustream.tv/recorded/16947726

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赤木智弘（あかぎ・ともひろ）

1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。