なぜ日本と同じように資源のないスイスが豊かな国になれたのか? (写真:bluejayphoto/iStock)

資源がなく、もともとは畜産業が盛んだった欧州のスイス。それにもかかわらず、今では世界中の富裕層から資産を集める金融国家になれた理由とは? スイスが超豊かな国になれた歴史事情を、ファイナンシャルプランナーの渡邊一慶氏の新刊『定期預金しか知りませんが、私、本当にお金持ちになれるんですか?』より一部抜粋・再構成してお届けする。

渡邊一慶(以下、渡邊):では、世界の富裕層がどのように資産運用をしているのかを紹介します。今回は、アメリカ型の攻撃的な資産運用ではなく、ヨーロッパ型の守備的な資産運用を一緒に学んでいきましょう。そして、ヨーロッパの中でも資産運用で有名なスイスに焦点を当てて、スイス流の資産形成方法を紹介しますね。

なぜスイスは「超お金持ちの国」になれたのか?

――スイス流の資産形成方法ですか! スイスって、アルプス山脈などきれいな景色が多く、観光のイメージがあるんですが……金融業も有名なんですか?

渡邊:もちろんです。富裕層の資産管理を専門に行っているプライベートバンクは、スイスが発祥です。しかし、スイスが昔から金融業を得意としていたわけではありません。かつてのスイスは、日本と同じように資源に恵まれず、畜産業を営んでいたんです。豊富な自然を生かして、チーズやバターの生産をして生計を立てていたんです。日本でも人気があるチーズフォンデュは、スイスの郷土料理なんですよ。

――スイスのチーズなんて、セレブ感があっておいしそうですね。あ、それと、スイスといえば時計のイメージがあります。

渡邊:たしかに、時計産業も有名ですよね。スイスの時計産業は、18世紀にブレゲの創業者であるアブラアン・ルイ・ブレゲによって、世界中に広まりました。ロレックスやオメガ、パテックフィリップなど、現在でもビジネスマンの多くが身につけている高級時計は、スイス製が圧倒的に多いです。

――そういう意味では、スイスは知的なイメージもありますね。

渡邊:はい。実際、スイスは優秀な人材が世界中から集まる国としても知られ、教育水準も世界最高峰といわれています。スイスのボーディングスクールは全寮制の寄宿学校で、世界中から富裕層のご子息やご令嬢が留学をし、高度な学力と国際的な教養を身につけます。1年間の学費が1000万円を超えるような学校も多数あるんですよ!

――そんなに高い学費を払ってでも、質の高い教育を受けさせたいってことですね。

渡邊:「わが子にいろんな経験をさせてあげたい」と思う親は多いです。グローバルな環境で教育を受けることにより、異文化への理解、協調性や自主性も身につきます。世界中の人脈も形成できるので、社会に出た後はきっと役立つでしょう。

プライベートバンクが発展した理由

――スイスでプライベートバンクが発祥したのも、教育水準の高さが関係していますか?

渡邊:もちろん、大いに関係しています。しかし、スイスでプライベートバンクが発祥した理由は、ほかにもあるんです。少しヨーロッパの歴史を振り返ってみましょう。実は、ヨーロッパは、紀元前の時代から紛争が多かったんです。

――紀元前……そんな昔から紛争が起こっていたんですか?

渡邊:はい。ヨーロッパは、各々の国で考えると小国が集まっていますよね。その結果、隣の国同士で争いごとが多かったんです。そんな中、1815年のウィーン会議でスイスが永世中立国として認められて以降、スイスはあらゆる戦争に参加せず、中立の立場を守っています。もしも突然、戦争が起こったら、丑久保さんなら自分の資産をどうしますか?

――どこか安全な場所に避難させますね。

渡邊:そうですよね。戦争などが起きると、自分の大切な資産が危険にさらされてしまいます。そのため、富裕層の資産が、永世中立国のスイスに大量に流れ込んだのが、プライベートバンクの始まりです。さて、もう一度お聞きします。富裕層がスイスのプライベートバンクに資産を預けた目的は何だったでしょうか?

――資産を安全な場所へ避難させるためですよね。

渡邊:はい、正解です。多くの人は、プライベートバンクと聞くと「資産をものすごく増やしてくれる」というイメージを持っていますが、それは間違いです。プライベートバンクの目的は、資産を安全に保全することです。そこから、スイスや欧州の資産運用は、資産を減らさないことに重点を置いた、守りの資産運用の文化が生まれたのです。

――なるほど、そうだったんですね! スイスの資産運用が、守りに重点を置いている理由がわかりました。

渡邊:世界中の富裕層から預かった大切な資産を、下手にリスクを取って減らしてしまっては大変です。安全なスイスに避難させたにもかかわらず、実はもっと減っていた……なんてことになったら、本末転倒ですからね。

――でも、何もしないで保管しているだけでは、お金の価値が減ってしまう場合もありますよね? インフレとかもそうですし、モノの価格が上がるとお金の価値が下がるって、先ほど教えてもらったばかりですが……。

スイスのビッグマックの価格はなんと…

渡邊:そうです。安全に、着実に増やさないと、守ったことになりません。ちなみにスイスは、世界でいちばん物価が高い国といわれています。物価を測る指標として、1986年にイギリスの経済誌『エコノミスト』が考案した「ビッグマック指数」というものがあります。ご存じですか?


――ビッグマック指数? あのマクドナルドの?

渡邊:はい、マクドナルドのビッグマックは、世界中で販売されています。同じ材料を使った商品がいくらで販売されているのかを比較することで、物価や購買力を測ることができます。現在、日本のビッグマックは390円ですが、スイスのビッグマックは6.5スイスフラン(CHF)で販売されています。2021年5月現在のスイスフランの為替レートが、約121円ですので、スイスのビッグマックは日本円換算で787円もするんです。

――そんなに高いんですね! つまりスイスでは、生活していくだけでも多くのお金が必要になるということですか?

渡邊:はい。物価が高いスイスでは、お金の置き場所を真剣に考えないと、大切な資産が減ってしまうのです。だからこそ、スイスでは資産形成は必須のスキルといえるでしょう。