バルサの監督就任が近づいているとされるシャビ。(C)Getty Images

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 世界中から称賛を集めたバルセロナを支えたのが先読みして行動するマインドだ。ヨハン・クライフの到来が転機となり、独自のプレースタイルの採用やユニセフとの間のパートナーシップ契約締結など次代を先取りした戦略を次々と実行。「バルサ・ブランド」を構築し、そしてそのマインドを誰よりも体現したのがラ・マシア(バルセロナの下部組織の総称)の申し子で、クライフの愛弟子であるジョゼップ・グアルディオラだった。

 しかし、そのグアルディオラを皮切りに、同じく監督のルイス・エンリケやエルネスト・バルベルデ、あるいはスポーツディレクターのアンドニ・スビサレッタら近年、タイミングを逸した退団劇が相次いでいる。

 その間、代行委員会のラモン・アディとカルラス・トゥスケツを含めてサンドロ・ロセイ、ジョゼップ・マリア・バルトロメウという4人の人物が会長を務めたが、顕著なのが、その長所だったはずの革新的なマインドが消えていることだ。そんな中、その失われた時代を取り戻すべく、ジョアン・ラポルタが会長の座に返り咲いた。

 もっとも政権発足から7か月余りが経過したが、状況はまったく改善していない。ロナルド・クーマン監督の解任を先送りにするだけ先送りにし、結果的にピッチ内外に疲弊を招いたのはその最たる例だ。

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 クライフの信奉者であるラポルタは、クライフィスモ(クライフ主義)の復権に躍起になっている。しかしクライフの鬼才は、常に新しいことにチャレンジするそのマインドに支えられていた。著名な文筆家で、生前近しかったセルジ・パミエスも、「クライフは現状に決して満足しなかった。彼ならクライフィスモの復権だけに甘んじるはずがない」と指摘する。

 ラポルタは現在、クーマンの後任としてシャビの招聘に乗り出しているが、決断を先送りし続けてきた経緯から、その行動がどこまで信念の上に成り立ったものなのか分からなくなってしまっている。

 しかも問題は、バルサの発展に寄与してきた功労者が、そのキャリアに見合ったリスペクトや威厳が保たれないままバルサを去っていることだ。リオネル・メッシはもちろんそのふとりだし、クーマンにしても監督として欠点を抱えていたのは事実だが、そうしたクラブ体質の犠牲となったのは紛れもない事実だ。

 このようなデリケートな状況下で、シャビが監督に就任しようとしている。ラポルタの使命はチームのプレーモデルを改善することだけにとどまらない。ロッカールームを引き締め直し、メッシが退団した後の次世代のリーダー育成にも着手しなければならない。

 クライフはかつて、バルサの監督として従事する時間の60%は、フロントやメディアとの“バトル”に割かなければならないと語っていた。監督の本分であるはずの「プレーを満喫する」時間は残り40%に過ぎなかったわけだ。
 
 10月27日でバルトロメウが辞任してから早1年が経った。こうしてただ時間を無駄に浪費した結果、クラブとしての権威も信頼性も下落。バルサスタイルの“輸出”に歯止めがかからず、自らのフットボールの質を劣化させた。

 ラポルタはいかにこの「失われた時代」に終止符を打つか。その意味でシャビは格好の特効薬になりうる。即興的に行動することも決断を先送りすることももうご法度だ。シャビの到来を仕切り直しとしなければならない。

文●ラモン・ベサ(エル・パイス紙バルセロナ番)
翻訳●下村正幸

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