見るも無残な敗北を喫するイーノック(c)crim

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「大丈夫だ問題ない」――文意に反して"何かダメそう"な響きを持つこのセリフをご存じだろうか。3Dアクションゲーム「El Shaddai - エルシャダイ -」のプロモーションビデオで主人公が発したセリフで、10年超にわたりインターネット上を中心に多くの人々に親しまれている。

同作の生みの親として知られる竹安佐和記さんは2021年6月中旬、「エルシャダイ無料倉庫」というサイト上で当該シーンの画像や動画素材を無料で配布していると明かした。実は以前からひっそり公開していたのだという。

商業利用も可能という太っ腹対応が話題となり、インターネット上で再び「エルシャダイ」に大きな注目が集まっている。そこでJ-CASTニュース編集部は6月18日、竹安さんにセリフ考案の背景や発売から10年の思いを取材した。

「何かポジテイブな言葉が良いなと思って」

ゲーム「El Shaddai - エルシャダイ -」は2011年4月28日に発売されたゲームだ。プロモーションビデオでの"名言"が大流行し、発売前にもかかわらず関連ワードがネットユーザーの投票で決める「ネット流行語大賞2010」の金賞に輝いた。

プロモーションビデオでは、主人公・イーノックにサポート役のルシフェルが「そんな装備で大丈夫か?」と問いかける。イーノックは非常に晴れやかな良い笑顔で「大丈夫だ問題ない」と答え、戦地に赴いた。しかしそこで、見るも無残な敗北を喫してしまう。全く大丈夫でない衝撃的な展開が、多くのインターネットユーザーの心をつかんだ。

エルシャダイ」のディレクター兼デザイナーの竹安さんは、「大丈夫だ問題ない」というセリフを発案したのは2008年ごろだったとして、こう述べる。

「小学生の時に北斗の拳が好きで『お前はもう死んでいる』という言葉を濫用していました。そう言った意味不明な言葉って子供って好きですよね。でも"死んでる"とかじゃなくて、何かポジテイブな言葉が良いなと思って『そんな装備で大丈夫か?』『大丈夫だ問題ない』という言葉を考えました」

竹安さんはインターネット掲示板「2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)」で流行るのではないかと推測していたが、ニコニコ動画でも大きな注目を集めた。プロモーションビデオの動画や音声、画像を素材とした多数の二次創作作品が投稿され、一大ブームを巻き起こしたのだ。想定外の反響について竹安さんはこう述べる。

「まさか、動画で流行るとは、時の旅人ルシフェルも教えてくれませんでしたね」

公開当時は「対岸の火事」のようにブームを見つめていた

竹安さんは公開当時をこう振り返っている。

「2010年に散々勝手に(動画や画像を)使われて、二次創作という大量爆撃の波に『これが新しい時代の波か......』とチャンスと思って色々とどうすれば乗っていけるか考えました。しかし当時は関係者が多く、みんな新しい潮流を怖がり何をするにも反対され、結果として、物凄い数の女性ファンに囲まれながら、対岸の火事を見るように茫然と見つめるしかありませんでした」

インターネット上には、世界観やキャラクターはもちろん、キャラクター同士の関係性に興味を持ったファンも少なくなく、女性からも絶大な人気を誇っていた。

そして2018年4月1日、ようやくブームが落ち着いたところで竹安さんは一石を投じた。話題となったプロモーションビデオの動画や画像素材を無料で配布したのだ。

「すべてが落ち着いて、逆にオワコンと言われる中で無料公開した時、どういう反応が出るか?実験的な事がしたくて公開しました」

しかし公開したのはエイプリルフール。その後も公開が続けられていたことについては、意外と知られていなかったのかもしれない。

竹安さんは2021年6月17日、ツイッター上で改めて告知を行った。

「あまり告知していませんがエルシャダイの"あの動画"は無料素材として公開しています。わりと認知が低く今はブルーオーシャンなのでオススメ」

当該ツイートは22日19時までに約1万5000リツイートという大きな反響が寄せられている。

10年超の大反響、「罪悪感」もある

このように10年以上もセリフが愛され続けていることについて、竹安さんはどう感じているのだろうか。竹安さんは、「申し訳ないな......スミマセンと思っています」と意外な心境を吐露する。

「本当は世の中が、ポジティブになれば良いと思って考えたのですが、肝心のゲームが、リーマンショックの影響でスタジオ閉鎖し100%の完成度で出せなかったため、ストーリー未完とクレームが殺到しました。そのため今では、『大丈夫だ問題ない』=『大丈夫じゃない事』という、笑いになっています。本当は頑張っている人が使う言葉を、逆にしてしまったことは罪悪感しかないですね」

「大丈夫だ問題ない」が、一種の"死亡フラグ"となってしまったことに罪悪感があるようだ。しかし竹安さんは止まらない。

「僕にできる懺悔として、あえて笑われ続けようと、エルシャダイの世界は作り続けています。うまくいけば、しつこい人っていつか笑えなくなりますからね。それは今から何万年先になるかもしれませんが。キリストも十字架にかけられた時は、権力者(現ネット民)にはきっと笑われていたと思いますし、絶望を突き進むという生き方がいずれ笑えなくなれば『ふっふっふ、それは私にとって昨日の出来事だ』と言ってみたいですね」

エルシャダイ」発売元のイグニッション・エンターテイメントは、竹安さんの会社crimに、同作に関連する権利全てを譲渡している。そして竹安さんは現在、ゲームプラットフォーム「Steam」で、同作の完全再現版を発売するために準備を進めている。

「この夏にエルシャダイSteam版を発売予定です。ゲームはPS3、xbox版の完全再現、当時一番問題だったストーリー補完として、クリアした時に、その後の物語『ルシフェルの堕天』という小説が付属しています。挿絵が50枚くらいはあるかな?、すごく充実しているので読みやすいと思います」

アートブックやサウンドトラックもSteamで発売予定だ。発売日などは決まり次第、竹安さんのアカウントで公開される。

(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)