コロナで「売れた」商品ランキング

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上位に入ったのはどのような商品でしょうか(イラスト:emma/PIXTA)

新型コロナの感染が初めて確認されてから二度目の梅雨がやってきた。全国で変異株が猛威を振るう中、東京など9都道府県の緊急事態宣言は延長が検討されている。

市場調査会社のインテージが、新型コロナの影響を受ける直前から週次で全国のスーパー、コンビニ、ドラッグストア、ディスカウントショップなど、約6000店舗の販売動向を追っている「新型肺炎カテゴリー動向」。このほど公表した3月22日週までのデータでは、冬の終わりならではの動きが見られた。

コロナ時代の「新3種の神器」の動向

まずはコロナ時代の「新3種の神器」であるマスク、手指消毒剤、非接触型体温計の動向を見てみたい。

マスクは昨年は2月中旬から店頭での品薄状態が始まり、供給は3月2週目がボトムで前年比100%を割った。このあと、徐々に回復に向かうものの、4月中旬すぎに供給が戻り始めるまでは実需を大きく下回る110%前後で推移した。


その反動で、今年の3月22日週段階では前年比199.8%と、まだまだ高水準。4月のデータが出てくるとようやく反転に向かうのだろう。手指消毒剤はマスクよりも一足早く供給が正常化したので、今年はすでに3月1週目から前年比100%を割っている。

非接触型体温計は、供給が追いつき始めた時期が6月以降。公共施設や商業施設等が再開し、来所者や来店客の検温需要がじわじわ増えた関係で、人々の外出が増えた9月以降も上昇が続き、ピークは11月1日週の2757%。

1月中旬まで1000%を超えていたが、1月25日週に一気に295%に落ち、2月22日週は前年比88.4%まで落ちた。

が、昨年供給が追いつかなくなった反動で、今年3月以降は再度上昇が始まっている。このあと前年比100%を割ってくるのは6月頃になるだろう。

今回、直近の3月22日週で、全品目でマスクを抑えて1位となったのは麦芽飲料だ。

麦芽飲料といえばネスレのミロ。昨年7月にツイッターでその栄養価の高さが話題になると、爆発的に売れ、生産が追いつかず9月に販売を休止した。11月16日に再開するも、需要の伸びはすさまじく、12月8日に再度販売を休止。次の販売再開は3月としていた。

このため、それ以降は流通在庫を吐き出す形が続き、2月15日週には前年比1.3%、つまり98.7%減に達したが、公約どおり3月に販売が再開され、3月8日週には662.3%に。その後は週を追うごとに落ち着きを取り戻しているとはいえ、3月22日週でもまだ前年比444.8%と高水準だ。


今回は販売再開から1カ月半が経過しても十分な供給が続いている。生産体制を大幅に増強しての販売再開だから、供給の絶対量は昨年のブーム勃発当時よりも格段に増えているはずだ。

このあと、どこかのタイミングで反動減に転じるのか、あるいは今後も前年を上回り続けるのか、注目のしどころではないかと思う。

「しわとり剤」が急伸した背景

3月22日週で、全品目で麦芽飲料、マスクに次いで3位に入ったのが「しわとり剤」。顔のシワ対策用の基礎化粧品ではなく、衣類のシワをとるミストである。

昨年は2月24日週に前年比127%を記録したが、その後は前年割れが続き、ボトムは5月18日週の57.5%。それが3月8日週に突然139.5%に上昇した。翌3月15日週は153.4%。3月22日週は161.0%と急伸している。

これまでずっと停滞していたのに、なぜ3月に急伸に転じたのか。この時期、花王がおしゃれ着用洗剤エマールの姉妹品として、2種類のミストの新製品を出している。1つは除菌効果のある「リフレッシュミスト」。もう1つが振りかけて指でしごくだけでスカートのプリーツがきれいにつく「カタチメイクミスト」。花王は渡辺直美さんを起用したテレビCMを大量に打ったので、記憶している読者の方も多かろう。

いつもならそろそろ冬物衣料をクリーニングに出そうかというこの時期に、このCMの効果は絶大だったのではないか。近年はビジネスウエアのカジュアル化が進む一方、スーツですら洗濯機で洗えるものが増えている。

それでも夏物衣料に比べれば、ウールのスーツやジャケット、ボトムスなど、冬物衣料はまだまだクリーニング店のお世話にならざるをえないものが少なからずあったが、テレワークの機会が増えたことで、そもそもビジネスウエアを着る機会がいっそう減った。

何回も着ていないビジネスウエアをクリーニングに出すことには躊躇する心理が働く。財布の紐を締めたい気持ちに「密」を避けたい気持ちが重なって、クリーニング店に行かずに済むとあっては手が伸びるのではないか。

そして何より、アイロンかけは面倒くさいうえ、プリーツスカートに上手にアイロンをかけるハードルはけっこう高い。振りかけて指で伸ばすだけで女子中・高生の制服のスカートのプリーツがきれいに蘇るCMはかなりのインパクトだった。


そこで、同じく美容院に行かずに済ませるためのヘアトリートメントとともにグラフ化してみたところ、共通するのは、大量の人出が問題になった、9月のシルバーウィークに大きく落ち込んだ点のみで、他の時期は対照的な結果になった。

理由は明快で、クリーニングはまとまった需要が発生する時期が限られるのに対し、髪を整える需要は季節とは関係なく通年で発生するからだろう。

インバウンド需要消滅の影響が終焉

今回、最も興味深い動きを見せたのは医薬品だ。まずは3月22日週のトップ3。1位は酔い止めの鎮暈剤(ちんうんざい)で前年比149.0%。1年前は子ども連れの外出が激減したのでその反動増があったうえ、3月は社会全体の警戒感が緩み、外出が増えたことによるものだろう。

2位が鼻炎治療薬で140.9%。昨年よりも花粉の飛散量が増えたため。そして3位に入ったのが、女性用保険薬(124.8%)である。

女性用保険薬といえば小林製薬の「命の母」。Aが更年期用、ホワイトが生理前〜生理中の不調改善用だ。100%を超えたり下回ったり、一定方向ではない動きが続いていたが、2月頃から上昇が始まった。

事情を発売元の小林製薬に聞いたところ、「Aもホワイトもこの1年、国内需要は着実に増加していた」のだそうだ。とくに「ホワイトはAに比べ、全体のボリュームが小さい分、伸び率は大きい」という。

背景にあるのは、PMS(月経前症候群)に対する社会の理解が以前よりは進んだこと。かつては若い女性がPMSの症状を口外することすらはばかられたが、近年はそのタブー感が薄れ、多くの女性が抱えている症状であることや、改善薬が普通に市販されていることも広く知られるようになった。

国内は一本調子で伸びていた一方で、コロナ前は訪日外国人に人気が高かったため、インバウンド需要の落ち込みが、国内需要の伸びを相殺していたという。3月になってようやくインバウンドの反動減がなくなり、上昇に転じたようだ。

医薬品分野4位のビタミンB1剤、6位の小児五疳薬もインバウンド人気が高かった薬だ。同じくインバウンドの反動減影響がなくなり、上昇に転じたものだろう。

風邪をひかなくなった日本人

一方、医薬品部門のワースト1はうがい薬(前年比54.9%)、2位は鎮咳去痰剤(前年比74.3%)、3位は口腔用薬(前年比74.4%)、4位は総合感冒薬(前年比76.6%)。

まずはうがい薬と口腔用薬の動きを見てみよう。口腔用薬は口の中の殺菌、消毒、口臭除去用のスプレータイプの薬剤で、「のどぬ〜るスプレー」などが該当商品だ。


吉村知事の発言で8月3日週にうがい薬が急伸すると、類似商品との連想からか、一時的に急伸したが、それ以外ではコロナ時代に売れなくなった商品と言っていい。マスクを常時するようになって、口臭除去の必要性が薄れたこと、加えて、コロナ予防によって風邪をひかなくなり、のどが痛むこともなくなったのだろう。

2位に咳止め、4位に風邪薬が入ったことは、日本人が風邪をひかなくなった証左と言える。


コロナ対策でうがい、手洗い、手指消毒を徹底した結果、風邪をひかずに済んでいる、やればできるじゃないかと思っている人は多かろう。

何しろオチオチ風邪などひいてはいられない。新型コロナとの見分けが付きにくいため、自分自身がさまざまな制約を受けるだけでなく、周囲の人にも迷惑をかける。まだまだコロナは続く。今後も思わぬヒット商品が誕生することは間違いないだろう。