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1980年のコートジボワールで1・2フィニッシュ

text:Martin Buckley(マーティン・バックリー)photo:Luc Lacey(リュク・レーシー)translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
1979年の世界ラリー選手権(WRC)を戦った、メルセデス・ベンツ450 SLC 5.0。軽くない車重と大きなサイズが足を引っ張った。

【画像】ホモロゲ仕様の450 SLC 5.0 フェラーリ308にも存在したラリーカー 全68枚

アクロポリス・ラリーでは、重いボディがタイヤをバーストさせた。ラリー・ド・ポルトガルでは狭い道に手を焼き、完走したものの5位と6位。優勝はフィアット・アバルト131ラリーが奪っている。


メルセデス・ベンツ450 SLC 5.0(1977-1980年)

サファリ・ラリーでは2位に入賞するが、メルセデス・ベンツとしてモータースポーツに参戦する以上、優勝以外の結果はプラスではなかった。リスクやコストに見合う結果ではない、と判断された。

1980年には1000台以上のSLC 5.0が生産され、グループ2へ昇格。エンジンはレギュレーションに合わせるために4973ccへ小さくなり、トランスミッションは4速ATが組まれている。

最高出力333psを獲得し、4800kmを戦った1980年のコートジボワール・ラリーでは、1位と2位を奪取。耐久性を世界へ知らしめた。時に走行速度は200km/hを超え、一部では区間平均で120km/hを越えるほど。

1980年のWRCマニファクチャラー・ランキングで、メルセデス・ベンツは16メーカー中4位に入っている。トップはフィアットだった。

続く1981年は、生産終了を迎えるSLCに変わり、500 SLをラリーマシンとして選出。4台が用意され、ワクセンバーガーはドライバーの1人としてヴァルター・ロールを招聘する。高額の報酬を提示し、フィアットから引き抜いた。

しかし、322psの500 SLを試乗したロールは、ラリー・モンテカルロで全力を尽くしても4位か5位が良いところだと気づく。アウディとランチアは、ラリーへ特化したマシンを準備し戦いに挑んでいた。

当時の価格はフェラーリ308GTB並ぶ

1977年から1981年までに生産された軽量版SLCは、述べ2769台。1977年から1980年に生産された450 SLC 5.0が1636台で、1980年から1981年の500 SLCが1133台となっている。

どちらのクルマにも、控えめなエアロパーツが付いていた。アルミ製のトランクリッドを選ばなければ、リアスポイラーを省く選択もできた。ボディはサイドモールの下側が、濃いめのグレーで塗られるツートーンだ。


メルセデス・ベンツ450 SLC 5.0(1977-1980年)

メキシカンハットと呼ばれたアルミホイールは、標準のSLやSLCと同じものに見えるが、幅は0.5J広い。サンルーフのほかヘッドレストやヘッドライト・ウオッシャー、集中ドアロックもオプションで追加できたという。

ホモロゲーション・モデルの450 SLC 5.0や500 SLCが販売されたのは、主にドイツを中心とする欧州。左ハンドルのみの設定で、当時の価格はフェラーリ308GTB並ぶ金額だった。

500 SLCは、40台が北米市場にも並行輸入されたと考えられている。英国にも正規導入されなかったが、購入したドライバーはいたようだ。

ポール・ディーコンは、今回ご登場願った450 SLC 5.0を20年以上所有している。しばらくの間はレーシングバイクに夢中になっていて、シルバーのクーペにさほど乗ってこなかったことを、最近後悔しているという。

「このクルマとの出会いは、子供の頃に目にしたメルセデス・ベンツの広報誌がきっかけです。5.0Lエンジンがアルミ製だと触れられていました」。とディーコンが回想する。

1999年に9万9000kmの走行距離で、ドイツから英国にやって来た。その翌年ディーコンが、英国のメルセデス・ベンツ専門ショップから購入している。

ホモロゲ・モデルだという刺激が薄い

「以前は標準の450も運転していて、それは会社からの貸与車両でした。この450 SLC 5.0は、わたしにとっては2台目のSLCになります。5.0Lエンジンのトルクは太く、普通のSLよりはるかに扱いやすいです」

SLCの見た目は月日が経つにつれて、どんどん魅力度を増していると思う。過去にやんちゃなドライバーによってレース仕様へ改造されることもなく、エレガントな容姿は汚れていない。


メルセデス・ベンツ450 SLC 5.0(1977-1980年)

もっとも、1970年代風のグリーンのベロア内装と肉厚なタイヤ、繊細な木目の張られたインテリアを見る限り、これが軽量なホモロゲーション・モデルだという刺激はない。BMW 3.0 CSLへ乗り込んだ時の気分とは異なる。

SLCは一般道を走る限り、静かでたくましく、快適。ゆったりとしたシートは見た目以上にサポート性が高く、視認性はどの方向にも良好。すぐにスピードを上げて運転できる親しみやすさがある。

しかも、より年代の新しくノイズのうるさいエキゾチックモデルより、速く感じる。硬めのアクセルペダルを踏み込むと、V8エンジンの唸り声が遠くに響き、シルクのように滑らかに速度を上げる。興奮するほどではないが、充足感は高い。

大きいステアリングホイールの感触はしっかりしており、正確にボディを導ける自信が得られる。グリップの限界は、さほど高くはないようだ。もしメルセデス・ベンツがMTを採用していれば、今以上に高い価値が認められていたことだろう。

過去の輝きを知るほど驚く現在の価格

3速ATは、1970年代のクルマとして優れている。レスポンスはシャープで、トルクコンバーターがパワーを無駄にしていない印象を受ける。活発な走りを引き出すように、高回転域まで扱ってくれる。

ブレーキは、特に印象が残らなかった。つまり、よく効くということだ。乗り心地には張りがある。ロードノイズが大きめで、SLという2文字からイメージするほどの高級感は感じられなかった。


メルセデス・ベンツ450 SLC 5.0(1977-1980年)

このホモロゲーション・スペシャルモデルにも、光り輝いていた時代があった。その過去を振り返えれば、450 SLC 5.0の現在の取引価格が非常に手頃だという事実に驚く。

メルセデス・ベンツが与えたモデル名の、450の5.0という数字がわかりにくいことも、理由かもしれない。R107型SLのモデルライフが長く、見た目の違いが限定的ということも影響しているはず。

SLC全体で見れば、通算6万6000台が製造され、5.0Lエンジンを搭載したSLも少なくない。販売での成功という面で、450 SLC 5.0と500 SLCの功績は大きかったといえる。

最高を求めるメルセデス・ベンツだからこそ、少量生産のホモロゲーション・スペシャルでも親しみやすく実用的で、興奮度の低いモデルに至ったのだろう。しかも最高だからこそ、量産モデルに限りなく近い内容で実現できたのだと思う。

メルセデス・ベンツ450 SLC 5.0(1977-1980年)のスペック

価格:6万2272ドイツマルク(新車時)/3万5000ポンド前後(507万円/現在)
生産台数:1636台
全長:4740mm
全幅:1778mm
全高:1300mm
最高速度:225km/h
0-97km/h加速:8.5秒
燃費:5.3km/L
CO2排出量:−
車両重量:1515kg
パワートレイン:V型8気筒5025cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:243ps/5000rpm
最大トルク:38.3kg-m/3200rpm