金正恩が「幼児にお菓子とクレヨン配布」で見えるヤバイ経済事情

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〈娘の幼稚園の先生が訪ねてきた。「チンギョンのお母さん。意義深い『光明星節』を迎えるにあたり、敬愛する金正恩元帥様が全国の学齢期前の子どもへ贈ってくださった学用品です」。私は贈り物のリストを何度も読んだ。胸の奥から湧き上がる激情で泉のように吹き出した熱い涙が、私の両ホホを音もなく伝わった〉

これは北朝鮮の雑誌『青年文学』に掲載された、文学通信員(見習い作家)リ・ヘギョン氏の「恩返しの心」というエッセイの一節だ。

「光明星節」とは、2月16日の故・金正日総書記の生誕日。その記念すべき日に、指導者である金正恩氏が子どもたちへ贈り物をし、リ氏は感動の涙を流したという。光明節では子どもへキャンディやスナックなどお菓子が配られるだけでなく、大人にも米や酒が贈られる。毎年恒例の特別配給だ。ところが、今年は事情がかなり違うらしい。『デイリーNKジャパン』編集長の高英起氏が語る。

「例えば北部・会寧市で配られたお菓子の袋は、合計で6個。他にも鉛筆72本、12色セットのクレヨン、同じく12色セットの絵の具、消しゴム8個、筆箱など、10種類の学用品の配給もありました。

一見、豪華なプレゼントのように感じますが、内実は例年とまったく違います。恩恵を受けたのは、新学期から小学校に入学する子どもたちだけだったんです。中高生や成人には、なんの配給もナシ。新型コロナウイルスによる国境封鎖や、長引く経済制裁の影響でしょう。中身も粗末そのもの。一時は質が向上したと評判だったお菓子を満足に調達できないほど、北朝鮮の不況は深刻なんです」

配給により起きた深刻な問題

雑誌では金正恩氏の優しい気遣いが宣伝されたが、実際は感動の涙を流すような状況ではないようだ。光明星節の配給は、さらなる問題を引き起こしているという。

「物価が高騰したんです。米国の『ラジオ・フリー・アジア』によると、北部・新義州市場では輸入品の砂糖の値段が1kg5万朝鮮ウォン(約750円)と史上最高値を記録したそうです。物価が高騰し始めたのは、昨年12月から。子どもたちへ配るお菓子セットの生産が始まった時期です。生産のために食品工場が砂糖を買い占め、品薄に。砂糖だけでなく、小麦粉、大豆油の価格も高騰しています。

さらに当局は、お菓子の生産費用を税金として人民に課しました。通常の2倍の負担です。新義州の市民は現地の情報筋を通じて、こう不満を漏らしました。『なぜお菓子の生産費用を私たちに押しつけるのか理解できない。我々からカネをとって作った粗末なキャンディが、最高尊厳(金正恩氏のこと)からの贈り物だというのか。冗談にもならない』」(高氏)

指導者からの心温まる贈り物と称し、実際には市民へ負担を強いる。なぜ金正恩氏、ムリをしてまで特別配給にこだわるのだろうか。高氏が続ける。

「光明星節は、父親である正日氏の生誕日ですからね。経済的に苦しくても、なんとかして配給を続けようという切迫感があったのでしょう。贈り物をストップすれば、建前上うまくいっているとされる国内政策に疑問を持たれかねない。『子どもたちへの愛を忘れない指導者』という体面を保つための、苦肉の策と言えると思います。

一方で自身の誕生日といわれる1月8日は、記念日として奨励していません。奨励すれば、民衆へ贈り物をしなければならない。負担が増えるだけだと、正恩宇治もわかっているんです」

人民へのプレゼントを人民に負担させるーー。そんな矛盾を押し通すほど、北朝鮮の経済は逼迫しているのだ。