大気中の炭素汚染による地球温暖化の進行が、国際会議で定められた温暖化の制限目標がクリア不可能となるレベルにまで進んでいることが、新しい研究で明らかになりました。

Greater committed warming after accounting for the pattern effect | Nature Climate Change

https://www.nature.com/articles/s41558-020-00955-x

CO2 already emitted will warm Earth beyond climate targets, study finds | CBC News

https://www.cbc.ca/news/technology/climate-targets-1.5861537

何十年もの間、科学者たちは、いわゆる「将来的に起こり得る温暖化」や、過去の二酸化炭素の排出量に基づいた将来の気温の上昇について議論してきました。

1992年に作成され155カ国が署名した気候変動に関する国際枠組では、産業革命以前からの温暖化を2℃以内に抑えるという目標が設定されており、2015年のパリ議定では1.5℃に抑えるというより厳しい目標に改定されました。パリ議定が発表された時点で、既に産業革命以前と比較しておよそ1.1℃の温暖化が進んでいるとみられていました。



しかし、学術誌「Nature Climate Change」の2021年1月4日号に掲載された研究によれば、すでに大気中に放出されている「二酸化炭素汚染」が、産業革命以前の時代と比較して世界の平均気温を約2.3℃上げるだろうという予測が出されています。

研究の共著者であるテキサスA&M大学の大気科学科のアンドリュー・デスラー教授は、「本質的に我々が計算しているのは、気候システムを温暖化させ続ける『地球温暖化の慣性』です。例えば、気候システムをタイタニック号として考えてみてください。氷山を見ることは簡単でも、避けるために船を動かすのは難しいものです」と述べています。

デスラー教授によれば、世界のさまざまな地域で温暖化がさまざまな速度で進行しているとのこと。例えば、南極大陸を囲む南氷洋のような場所は、緯度が高く雲が分厚いために太陽から受ける影響が小さく、温暖化の進行は他の地域よりも比較的少ないと考えられています。しかし、南氷洋のように現時点ではそれほど急速に温暖化していない地域も、やがて温暖化が進んでいる地域に追いつく運命にあるそうです。



しかし、デスラー教授は「現実の温暖化が国際会議で定めた目標を既に追い越してしまったといっても、地球温暖化の戦いで全てが失われてしまうわけではありません」「もし世界が炭素排出量をすぐにゼロにすれば、地球温暖化は何世紀も起こらないように十分遅らせることも可能で、社会に適応する時間を与えたり技術的な解決策を考え出たりする時間稼ぎにもなります」と述べています。

さらにデスラー教授は「気候変動を本当に恐ろしいものにしているのは、温暖化のスピードです。10万年の間に数℃の温暖化があってもそれは大したことではありませんが、100年間で数℃の温暖化があることは本当に悪いことです」と語りました。