著名タレントの勝俣州和さんは、なぜYouTuberデビューしても再生回数が伸びなかったのか?(写真:勝俣州和YouTubeチャンネル「勝俣かっちゃんねる」より)

レギュラー番組多数、誰からも愛されるキャラクターでおなじみの勝俣州和さん。日本では知らない人はいないと言っても過言ではない勝俣さんが、YouTuberデビューしても再生回数が思うほど伸びなかった理由とは?

神田伯山、関暁夫、島田秀平などさまざまな人気タレントのYouTubeチャンネルの運営を担う関口ケント氏による『メディアシフト YouTubeが「テレビ」になる日』より一部抜粋・再構成してお届けする。

「俳優の佐藤健がユーチューブチャンネル開設3日で登録者数100万人突破!」

「ジャニーズ退所の手越祐也、ユーチューバー転身でチャンネル登録者数100万人超」

「石橋貴明完全復活。チャンネル登録者数100万人超えの大盛況!」

こんな記事が賑わいを見せた2020年上半期の芸能界。大物タレントや俳優、アイドルによるユーチューブ挑戦と盛況ぶりがいくつも報じられ、話題になりました。ただ、こうした成功事例は目立ちはするものの、実際には少数派。その陰で、まったく話題にも上らない芸能人チャンネルが、雨後のタケノコのように乱立状態です。

また、一時的に人気を得た企画動画があってもその後が続かないなど、安定したチャンネル運営ができる芸能人は意外なほど少ない。ユーチューブでもテレビ同様に成功する芸能人と、うまくいかない芸能人とで明暗が分かれ始めています。その差はどこにあるのか、業界的にもみなさん気にしているところです。

テレビとユーチューブの「評価軸」は違う

ミュージシャンなのか、俳優なのか、タレントなのか、お笑い芸人なのか。その立ち位置によっても考慮すべき点はいくつもあります。ただ、多くの芸能人、そして芸能事務所が気づいていない点。それは、テレビとユーチューブとでは求められる評価軸が違う、ということです。

その評価軸とは、〈認知度〉か〈人気度〉か。実は、芸能人・タレントにとっての大きな評価軸は、この2つしかありません。テレビというメディアでは基本的に認知の層を獲得できる人やコンテンツが求められ、ウェブメディアではどちらかというと人気を取っていくコンテンツが求められる。

言い換えれば、一方的に与えられるのがテレビというメディアで、視聴者・利用者が自ら選びにいくのがユーチューブをはじめとしたウェブメディア。


(図表:『メディアシフト YouTubeが「テレビ」になる日』より)

そのメディア特性の違いが〈認知度〉〈人気度〉という評価軸の違いになって表れます。この違いに気づいていない人がテレビ関係者にも芸能関係者にもとても多いのです。

テレビタレントがユーチューブに挑戦してもなかなかうまくいかない場合、大きな原因はここを意識していないことにあります。逆に、人気のあるユーチューバーがテレビに出てもハマらない、というのも同様で、評価軸の違いに気づかずに苦しんでいるのです。

2014年、TBS系のバラエティ「水曜日のダウンタウン」で、おぎやはぎの矢作兼さんが提唱した「勝俣州和ファン0人説」という企画がありました。この視点がテレビとユーチューブの違いを理解するうえでも好材料だったのでご紹介します。

ユーチューブの看板獲得に成功した勝俣さん

勝俣州和さんといえば、テレビで活躍している芸能人の代表格。あちこちの番組にゲストで呼ばれていますし、レギュラーも多数。朝・昼・晩、どの時間帯の番組にも起用されるので、世代を問わず、勝俣さんを知らない人は、テレビを見ている人にはほとんどいないのではないでしょうか。つまり、認知度はとても高い。

しかし、勝俣さんのグッズを持っている人、と言っては失礼ですが、見たことがありません。あれだけテレビに出ているということは、勝俣さんを嫌いという人がいない証拠とも言えますが、逆にものすごく好きな人もいない。

それを裏づけるように、勝俣さんが2020年4月に開設したユーチューブチャンネルも当初は苦戦続き。2カ月経過した6月時点ではチャンネル登録者数は2000人ほどで、動画再生回数も1本が1000回に満たないものが目立っていました。

勝俣さんの場合、勝俣さん自身がつまらない、ということではもちろんありません。むしろ面白いんです。ただ、勝俣さんが何か始めるということに対して、アンテナを張っている人が少ないため、気づかれていないだけ。

「勝俣州和、実はユーチューブやってます!」とウェブメディアの大通りに看板を出せていない、ということを意味しています。


ちなみに、勝俣さんのチャンネルはその後、「ファン0人説を裏づける不人気ぶり」という形で話題になり始め、少しずつチャンネル登録者が増加中。勝俣さん自身も「ファン0人説」に言及する動画をアップして視聴回数を稼いでいます。ユーチューブで人気がないタレント、というポジション取りが成功しつつあるのでしょう。

コロナ禍の4月だけで芸能関係者からユーチューブチャンネル開設について100件以上の相談がありました。そのうち、この「認知度」と「人気度」の違いについてわかったうえで相談に来た人は、たった1人。その1人というのは20代の新人マネジャーでした。そして、現場担当者はわかっていても、上の決裁が下りないと結局うまくはいきません。

その結果、100件以上の相談でも実際に僕らが動くことはありませんでした。なぜなら、コンテンツとして戦ううえでの前提条件がそろっていないわけですから。これこそが、「あの有名芸能人がこれしかユーチューブで数字を取れないのはなぜ?」現象の根幹なのです。