SUVブームの世の中だが、軽自動車に限定すると意外にも選択肢は少ない。主なモデルはクロスオーバーワゴンの「ハスラー」とクロカンの「ジムニー」くらい。うまくキャラを作り分けたスズキの独壇場といった様相だが、そこに参入の余地を見出したのがダイハツ工業の新型軽SUV「タフト」だ。

ダイハツの新型軽SUV「タフト」。グレードは「X」「G」「Gターボ」の3種類、価格は135.3万〜173.25万円。6月10日の発売から1カ月で、受注台数は月販目標の4.5倍となる約1.8万台に達したとのこと


○使い倒したくなる小さな相棒

タフトはハスラーのようなワゴンでもなく、ジムニーのような本格派4WDでもない。その中間ともいえる絶妙なポジショニングがタフトの身上だ。軽SUV市場の中で競合を回避できそうな領域を見つけたダイハツの眼力と、実際にクルマを投入することを決めた同社の胆力に、まずは拍手を送りたい。



これまで軽SUV市場を二分していたスズキの「ハスラー」(左)と「ジムニー」。「タフト」が割り込む余地はあるのか?


ダイハツは軽自動車「タント」から新しいクルマ作り「DNGA」を導入しているが、タフトはその第3弾モデルにあたるだけに、トータルでの完成度も高い。そんなタフトの開発コンセプトは「日常からレジャーシーンまで大活躍、毎日を楽しくしてくれる頼れる相棒」。実用的だけれど、遊び心も備えたレジャー向きの軽自動車というわけだ。

元気あふれるボーイッシュなスタイルが目を引く「タフト」。ボディサイズは全長3,395mm、全幅1,475mm、全高1,630mm、室内は長さ2,050mm、幅1,305mm、高さ1,270mm。このクルマのボディカラーは「コンパーノレッド」


SUVらしさを重視したという見た目は小さくも愛らしく、元気あふれるスタイルだ。まさに“やんちゃ小僧”といった感じである。かなりボクシーなデザインだが、窓を小さく見せることで肉厚感を演出。さらに、プロテクター風のコーナーバンパーやフェンダーモールなど、各部にブラック仕上げの樹脂パーツを配置することで、SUVらしい力強さも巧みに表現している。ちなみに、バンパーのコーナーは単独で取り外して交換することが可能とのこと。いろんなところへ連れ出したくなるクルマであるだけに、うっかりの時も、今までよりは安く修理できる。そんな経済的な工夫もあるデザインだ。

屋根には室内の開放感を高める「スカイフィールトップ」(固定式ガラスルーフ)や積載に便利なルーフレールを備える。ルーフレールはデザイン面でSUVらしいアクセントとなるが、キャリアを取り付ける際にはベースとなる部分なので、タフトの使い勝手を広げるパーツでもある。足元には、軽自動車としては大径な15インチタイヤを標準装備。大きなタイヤは見た目がいいだけではなく、最低地上高(地面から床下までの距離。悪路走破性に影響する)の拡大にも貢献している。

インテリアはギア感が満載だ。ダッシュボードは直線的なデザインでメカっぽい。オレンジのアクセントは時計のベゼルのようだ。メーターは見やすいアナログ2眼式。メタル調のオレンジのパネルを組み合わせた姿は高耐久のアウトドア向け腕時計、はっきりいえば「G-SHOCK」を彷彿させる。

キャビンはギア感が満載!


メーターパネルをご覧ください。「G-SHOCK」が思い浮かびましたよね?


デザインはキマっているのに、使い勝手は犠牲になっていない。ドリンクホルダー、スマートフォンなどを置けるトレイ、収納ボックスなどは、統一感のあるインテリアの中にしっかりと組み込んである。

タフトを買ったら、たまには遠出してみたくもなるだろう。そのあたりを考慮したのか、フロントシートは左右独立式のホールド性に優れたものとなっている。重要な情報ツールとなるナビの装着位置は高めで、操作性と視認性に優れる。頭上にある大開口ガラスルーフを開ければ室内が明るくなるだけではなく、運転席からの視界が広がるので運転のしやすさも向上する。

シートのホールド性は良好。これなら遠出しても疲れにくいのでは


多目的な軽自動車には珍しく、リヤシートにスライド機構は付いていないが、それも狙いのうちらしい。タフトでダイハツは、新提案の「バックパックスタイル」を採用。前席を乗員のための「クルースペース」、後席を乗車スペースとしても完全な荷室としても使える「フレキシブルスペース」と位置づけた。つまりは、「乗員を2名までと割り切れば、SUVスタイルの軽でもたくさんの荷物が積めるよね」といったような考え方だ。このため、後席ドアの内張りとシートバック、ラゲッジの床は、傷に強く掃除も簡単なハード樹脂仕様となっている。

後席を前に倒せば完全な荷室となるフレキシブルスペース。後席のシートバックを含めハード樹脂仕様となっており、簡単に拭き掃除ができるので、泥が付いたものでも濡れたものでもガンガン積み込める


○雰囲気SUV? それでもいいじゃない!

エンジンは2種類。高性能版となる660佞猟称3気筒DOHCターボエンジンは最高出力64ps、最大トルク100Nmを発揮する。トランスミッションはDNGAで新たに開発したギア付きCVT「D-CVT」だ。自然吸気仕様は660佞猟称3気筒DOHCエンジンで、最高出力は52ps、最大トルクは60Nm。CVTは従来型を採用している。燃費はターボが20.2km/L、ノンターボが20.5km/L(共にWLTCモード)とどちらも優秀。いずれも4WD車が選べるが、本格的なシステムではないのでメインはFF車(前輪駆動車)となるだろう。

ダイハツの安全運転支援機能「スマートアシスト」は全車で標準装備となる。衝突被害軽減ブレーキ、ブレーキ制御付き誤発進抑制機能、車線逸脱警報、先進ライト、コーナーセンサーなどは注文しなくても付いてくるし、ターボ車にはACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)やレーンキープアシストなどの高度な機能も加わる。

見た目、使い勝手、燃費は良好、安全運転支援システムも全車で標準装備。これならスズキの牙城も崩せるのでは……


タフトは確かに、雰囲気SUVだ。もし軽に本格的なSUV性能を求めるなら、ジムニーを選ぶしかない。ただ、それが万人向けの選択肢であるかといわれると、大いに疑問を感じるところだ。もしも乗用車ライクな優れたギアを望むなら、タフトかハスラーの2択となる。その中でもSUVらしさを求めるならタフトをチェックすべきだし、ワゴン的な要素を求めるならハスラーが魅力的に感じるだろう。自分のニーズが見えれば、自ずと選択肢は絞れる。これは、タフトがスズキの2台と異なる価値を追求した結果だ。まさに見事な住み分けで、互いにメリットがある。同カテゴリーの先輩に花を持たせたともいえ、クレバーな戦略である。「ニクイね、ダイハツ」といいたくなった。

大音安弘 おおとやすひろ 1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。主な活動媒体に『webCG』『ベストカーWEB』『オートカージャパン』『日経スタイル』『グーマガジン』『モーターファン.jp』など。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。 この著者の記事一覧はこちら