アフターコロナの日本経済「半年後、1年後、5年後」一体どうなる
■「不気味」に盛り上がっている株式市場
新型コロナは既存の秩序をあっという間に破壊し、オンラインを中心とした新しいエコシステムを形成させました。国内ではデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速。また、コロナとの向き合い方を学び、対コロナのマネジメント方法も確立しつつあるかに見えています。一方、2020年6月24日に国際通貨基金(IMF)がコロナショックによる世界経済の見通しを一段と引き下げています。
日本は「法的な規制なくして感染拡大を抑え込んだ」という、ある程度の実績を残しています。これは、国民の一人ひとりがコロナとの向き合い方を真剣に考え、柔軟に対応した結果です。その日本は、アフターコロナでどのような経済を歩んでいくのでしょうか。
半年後(年末)、1年後、5年後を見通してみましょう。キーワードは「円高リスク」「DXの本質」「1900兆円の家計」です。
IMFは世界経済の見通しを、20年4月時点から一段と引き下げ、2年で損失1300兆円と試算し、2020年の成長率はマイナス4.9%、日本はマイナス5.8%予測となっています。世界の貿易量はマイナス11.9%の見通しとなり、これによる日本の貿易輸出への影響は大きく、マイナス30%となる見込みです。20年度の日本株全体の最終赤字は避けられない状況です。
歴史的な経済の見通しが悪化する中で、「不気味」に株式市場は盛り上がっています。その最大の理由は、アメリカの無制限の金融緩和と米連邦準備制度理事会(FRB)によるジャンク債の購入を行っている点です。22年末までゼロ金利政策を継続し、毎月1200億ドルペースで米国債などの買い入れを行い、欧州中央銀行(ECB)、日銀も緩和策を拡大しており、バランスシートはかつてない急拡大をしています。
■休業状態にある実質的な失業者数は、相当数に達する
リーマンショックのとき、当時、世界第4位の投資銀行が倒産した際、FRBは「リスクを取りすぎたために破綻しただけだ」と、即座に危機対応をしていなかったのです。この倒産はその後、世界に大きな衝撃を与えました。リーマンショックの経験を経て、金融危機が起きたらどのような事態に陥るのかが脳裏に刻み込まれました。
今回は、「金融危機を起こしてはいけない」というはっきりとした「命題」と「解決策」を中央銀行がわかっていることが今の株高につながっています。ただし、バブル化しすぎると、株価が崩壊するリスクが高まります。過度な株価上昇は必ず崩壊を招き、立ち上がれないほどのダメージを与えます。
20年11月のアメリカ大統領選挙の結果や新型コロナウイルスの第2波の拡大などにより、株価の「大幅な調整」の可能性は十分にあります。しかし、基本的には日米欧ともに、なりふり構わない金融緩和の政策を取っていることを大前提に、株価は一定程度下支えされると見ています。ただ、日本株に関して、20年の年末〜1年後にかけて円高のリスクが存在します。過去、FRBが最後の利上げを停止して約2年前後から、円高に振れています。
1989年5月、00年5月、06年6月の最後の利上げ以降それぞれ、24カ月経った頃から円高になっています。利上げを行ってきたドル高の効果が約24カ月頃から薄れる傾向があるということでしょう。直近の最後の利上げは18年12月です。そこから、24カ月後は20年12月です。つまり約半年後です。過去の値動きを見ると円高のリスクを拭い去れず、円高になれば、輸出企業を中心に日本企業は苦しくなります。
さらに、一部専門家の中には1年ではコロナが収束しないとの見解を示している人もいます。仮にそうなれば東京五輪が吹っ飛ぶ可能性も出てきます。そうすると、インバウンドなどの関連需要が落ち込むことになり、1年後は円高リスクも加えると、さらに厳しい経済状況になる恐れがあります。
「5年」先を見通しましょう。FRBがほぼゼロ金利の政策を取っているのは、リーマンショック時と今回で2度目になります。リーマンショックが起きてから、FRBは08年12月〜15年の7年間ゼロ金利を取りました。今回は22年までゼロ金利政策を約束しており、これが長引く可能性もあります。
リーマンショック後の08〜15年には、欧州危機、アメリカでは財政の崖の問題などいろいろありました。12年末に安倍政権が誕生し、アベノミクスで円安に動きましたが、それまでは東日本大震災を経て、1ドル=75円の円高の時期もあり、日本経済は閉塞感のある状況が続きました。ここから先の「5年間」も、同じような円高に苦しむ時代の再来には身構える必要があります。
アメリカの5月の失業率は13.3%と厳しい水準が続いており、20年の年末には失業率を約9%と予想していることから、雇用の回復は緩慢な戻りを見込みます。日本では、失業率そのものが2桁まで上昇することは考えにくいですが、失業者とは定義されないものの、休業状態にある実質的な失業者数は、相当数に達するでしょう。
隠れ失業者数はリーマンショック時には355万人、今回は517万人と推計され、隠れ失業者を含む失業率は11.3%まで上昇する計算となります。リーマンショックが起きた08年の失業率4%の水準に戻るのに約5年間を要しています。コロナ収束後も、経済の低迷は長期化し、元の経済水準を取り戻すまでにかなりの時間がかかるでしょう。実質GDPが19年7〜9月期の水準を取り戻すのは、24年10〜12月期になる見通しです。ここから先、いかに早く立ち上がることができるかは、政府による雇用維持の政策、企業の経営維持を図る給付金、家賃支援策などが十分に機能する必要があります。
税金に関しては、新型コロナによるダメージが大きい段階での増税は考えにくいでしょう。麻生太郎財務相は20年5月29日の閣議後記者会見で、新型コロナウイルス対策で国債を増発するなど悪化が懸念される財政への対応について「増税に頼るのではなく、景気回復によって税収が伸びることを目指す」と述べています。東日本大震災では当時の民主党政権が復興増税を行いましたが、今回は増税に否定的な考えです。
しかし、政府が大規模に国債を発行しており、借金を背負っているのは事実で、その回収を行うためにも増税は避けられません。上記で見てきたとおり、雇用やGDPの回復に約5年以上を要するとすれば、回復を見ての増税の可能性が高い。89年4月に消費税3%が導入され、97年4月に5%、14年4月に8%に引き上げられ、19年10月に10%と、増税の導入は景気回復期とすり合わせながら非常に慎重に行ってきました。次回の増税も景気回復期を見計らっての導入となるでしょう。
■日本を救う「倍返しの法則」
家計については、今までの海外消費分が国内での消費に移る時期が続くでしょう。19年12月末の家計の金融資産残高は1903兆円で、現金預金でも1000兆円を超えています。経済の見通しの悪化や将来の増税に備えて家計は貯蓄傾向にありますが、貿易輸出が減少し、インバウンドが見込めない今、「Go Toキャンペーン」などで、家計をいかに目覚めさせるかが、日本経済復活の「カギ」となります。
企業については、労働投入量を制限する中で、生産性と利益率の向上を迫られています。生産性の向上に関しては、コロナ以前より、日本の課題として大きく横たわっている問題です。ただ、日本ではDXの目的を生産性の向上に置いていますが、米国の優良企業は顧客の体験の向上に目的を置いています。日本も一歩先の「顧客」に視点を置いたDXを進めるべきです。
最後に、不況の副産物としてアメリカで定着したものが「直接金融」です。金融機関の体力が低下しても、資金調達が必要な企業は存在しており、企業が投資家から直接資金調達を行う様式で、これによって不況化でもイノベーションの成長を守ることができます。日本でも、株式投資型クラウドファンディングを通じて「家計」から「企業」に直接投資するスキームが15年に整備されており、この市場の拡大は日本経済の下支えのカギとなります。
日本が今まで成し遂げられなかった、進化を遂げる最後のチャンスなのかもしれません。一方で、インバウンドの復活、DXの推進、クラウドファンディングの定着が成し遂げられれば、コロナで日本経済が失った雇用や成長を「倍返し」で取り返せるかもしれません。
厳しい状況だからこそ、変化への対応力を見せた企業には「倍返しの法則」が当てはまります。外食産業のダメージは大きいですが、日本マクドナルドHDは「驚異の一人勝ち」をしています。株価はコロナ前よりも高い水準にあり、「倍返し」株価です。世の流れを察知し、変革を進める企業は優秀な危機対応力を示せるのです。
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馬渕 磨理子(まぶち・まりこ)
テクニカルアナリスト
京都大学公共政策大学院を卒業後、法人の資産運用を自らトレーダーとして行う。その後、フィスコで、上場企業の社長インタビュー、財務分析を行う。
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(テクニカルアナリスト 馬渕 磨理子 撮影=横溝浩孝 写真=朝日新聞社/時事通信フォト)