在宅でも、誰でも運動会が作れる、オンライン運動会のススメ

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「運動会」、これほどオンラインと付くことに違和感のある言葉はないだろう。
運動会こそリアルでやるもの、オンラインって意味がわからない、誰しもそう思うところ。

そんなオンラインで運動会を実現してしまったのが、山口情報芸術センター(以下、YCAM)+運動会協会だ。

山口県山口市にあるYCAMはアートとテクノロジーを軸にさまざまな表現活動を扱うアートセンターで、年間、十数本もの展示や参加型イベントを開催している。
その1つとして、実は2015年から新たな運動会の種目を開発する「YCAMスポーツハッカソン」、そして、その種目を参加者と実際にやってみる「未来の山口の運動会」を継続的に続けてきた。

今年も5月3日から5日かけて現地で開催する予定だったが、外出自粛が求められる現状下にあってオンラインでやることになった。ここでは、スポーツハッカソンと運動会当日の様子をお届けしよう。ちなみに、筆者は2年前にこのイベントに参加しており、リアルイベントとの違いなどにも気づいた範囲で触れていきたい(今回は取材のみ、で参加はしていない)。


◎運動会は作るもの
さて、スポーツハッカソンではおよそ20名が参加し、4つのチームに分かれ、オンライン運動会のための新しい競技を開発(=デベロップレイ、「Develop:作る」と「Play:遊ぶ」をあわせた造語)する。
今回はオンラインということで、会場はオンライン会議システム「ZOOM」、オンラインホワイトボードサービス「miro」を使う形になる。

5月3-4日のYCAMスポーツハッカソンで作った種目を5月5日の「未来の山口の運動会」で参加者約30人とともに実施する。その模様をYouTube Liveで配信するというのが全体像だ。
参加者は、もともとリアルイベントとして予定していたので山口に行って参加する予定だった人、あるいはオンラインになったことで参加できるようになった人など、さまざま。
北は秋田、南は福岡から集まった。


全体像


当日、まずはZoom越しにみんな一緒に準備体操。リアルイベントと同様に準備体操から始まる。


運動会なので、やはり準備体操から


オンラインで行う運動会と言われても、何をどうすれば成立するのかイメージがなかなかわかないが、参考の種目を見ればなんとなくつかめてくるから不思議だ。
スクリーンショットで紹介したのは、出題者が出す「色」や「もの」を自分の家の中から探し出してカメラに映す速さを競う「オンライン借り物競争」。


ウォームアップのために運営が準備した競技を体験


1日目が種目の開発、2日目はほかのチームも含めて、自分たちで開発した競技をプレイしてみるという流れ。
実際のリアルイベントでは、これはもう少し細かなターンで設定されているのだが、ここはちょっとシンプルになっている印象だ。

リアルな空間で実施する場合、デバイスや大掛かりなシステムを競技に使うことも多く、作るのはかなり大変で、検証の時間も相当必要だった。今回はみんながZoomで参加する運動会であり、システム的にはPCやタブレットのカメラやスピーカーを通してできることが中心となる。どちらかというと、比重がアイデアやルールの作り方に置かれる。そうした違いなのだろう。

ちなみに、リアルイベントと同様、競技に使用可能なツールも用意されている。今回はYCAMが開発した、振動などをカウントできるスマートフォン用のアプリ「動かしマウス」。

ウォームアップや使用可能なツールの説明を聞いたら、アイデア出しに入る。Miroを使うこの方法は、リアルで紙に書いて並べるよりも閲覧性はよさそうだ。


miroに思いついたアイデアを書き出していく





アイデアソン、ハッカソンに参加した経験があれば、やっていることは「なるほどリアルと同じだ」と感じるはず。
ここから、4つのグループに分かれて、各チーム1つの競技を作ることが1日目の目標だ。Zoomのブレイクアウトルームを使って、チームごとにディスカッションをしていく。


レッドチームの様子。スマートフォンの振動をカウントするアプリを実際に試していく





こうして競技の内容、ルールなどを詰めていくのだが、チームメンバーだけではなく、運営側もブレイクアウトルームに現れて競技作りをサポートする。運営の犬飼博士氏(運動会協会)が、特に意識しなければいけない点として上げるのは、当日の参加者(プレイヤー)と、YouTube越しに見ている観客との間のインタラクションをどう考えるか、だ。

プレイヤーがプレイすることで楽しむのはもちろん、見て応援する観客をどう巻き込めるか。

この点が、1つの空間で行われるリアルな運動会とは大きく異なる。
1つの空間内であれば、自分が見て、声を上げることで、プレイヤーがもっとがんばるといったことが目の前で起こる。これは体験としてわかりやすいが、インターネット越し、画面越しの世界では、距離に負けてしまいがちだ。

それをどうデザインするかについて、運営側もそうだし、各チームでの議論のポイントの1つになっている。
たとえば、スマートフォンの振動を使う競技では、観客も同じアプリを入れて応援するチームの得点にできるよう振動数を加算できる仕組みは取れないか、などのアイデアがディスカッションされていた。

ただ運動会をやっている動画を配信することだけではダメで、リアルな空間で行われる運動会の競技を行う人も、応援する人も、同時に参加し一体感を実現できなければ、それはオンライン運動会ではないのだ。


◎運動会に参加する人と見る人
では、運動会当日がどうだったかというと、競技のデザインとして観客とのインタラクションを意識するのはもちろん、全体の形式として、YouTube Liveの配信時に実況担当をつける形が採用されていた。

運動会会場のZoomの会議室と観客を結ぶ、常に視聴者に寄り添う役割の人がいたことで、不思議なことに、視聴しながらチャットに書き込むその場にも一種のコミュニティ感が発生していた。

以降、運動会当日の様子をスクリーンショットで紹介していこう。


選手宣誓


選手宣誓から始まり、最初の競技はイエローチームプレゼンツの「タイトり」。自分の家にある本のタイトルでしりとりをしていく。得点はページ数の合計となる。



「タイトり」


「う」で始まるタイトルの本を探してきて画面に見せるプレイヤーたち。こうした本に対してのコメントがYouTube Liveのチャットで盛り上がるという展開になっていた。


YouTube Liveのチャットも盛り上がる


ブルーチームによる「グルグル What?」。
ものを持ったまま10秒間回転し、その持ったものを当てるゲームだ。


「グルグル What?」


ホワイトチームが提供する競技は「あつまれ!どうぶつのコラ」。
お題(どうぶつ)に対し、写真を合成してそのどうぶつを表すというもの。おのおの、自分はこの部分ができると申請して、スクリーンショットを撮影してもらい、それをコラージュしていく。これはかなり、ヤバいクリーチャーが生み出されていた。


「あつまれ!どうぶつのコラ」


トリはレッドチームの「ハッスルマッスル」。
決められた動作の中の動きをスマートフォンでカウントし、合計カウント数で競う。


「ハッスルマッスル」


4つの競技をそれぞれチームごとにプレイして、その合計点で優勝を競う。
もちろん、回転中や少々激しい動きに際し、十分に注意をすること、無理をしないこと、水分を取ることなど、注意をアナウンスしながらの進行だった。

結果はというと、優勝はホワイトチーム。大人だし勝ち負けにはこだわらないと思うかもしれないが、これが意外と当事者になるとそういうこともなく、非常に「勝ち」たくなる。これはぜひ参加して、実感してみて欲しい。

なお、YouTubeからのコメント賞、「あつまれ!どうぶつのコラ」のベストコラ賞をTwitter投票で行うなど、そういうところにも観戦(応援)側とのインタラクションがあった。


最後は記念撮影



◎遊び作りを取り戻す
見ている側にも「体験」として非常におもしろいオンライン運動会だった。
とはいえ、最初にオンライン運動会の話を聞いたとき、オンラインで競技を成立させ、応援する人も含めて「運動会の体験」にするのは至難の業ではないか、筆者はそう思った。

というのも、多数の人たちがかかわる場合、オンライン会議システムには双方向のコミュニケーションの難しさがある。セミナーなど1対多の形式ならいいが、声が大きい人たちを中心にタイムラインが流れるしかなく、そうした場に参加してもモヤモヤが残ってしまう。そういう残念な経験が多かったからだ。

今回、それがうまくイベントとして運営されていたのではないかと感じた。その理由として、運動会協会の西翼氏語っていた言葉がキーになる。「自分たちがやってきたのはもともと『運動会を作る』こと。だから会場がオンラインに変わっても、その条件の中で作ることができる」と。

実際、YCAMのスタッフも含め運動会協会が中心となったコミュニティで、どうすればオンライン運動会が可能なのか、議論と試行錯誤を重ねていたと言う。ここ1ヶ月の土日は運動会の予行練習(?)に徹したという話も聞く。

もちろん、まだまだ完成ではなく「運動会を作る&やってみる」活動は続きそうだ。しかし、オンラインで、という要素が加わったことは大きいのではないか。

この「オンライン運動会(競技種目)を作る」ことを広げたいということで、ドキュメントはウェブで公開されている。

みんなで目指そう!オンライン運動会

もちろん、オンライン運動会を一気にやろうとするにはそれなりの機材や知識が必要となるが、まずは小規模でも、自分たちで楽しむ感じでやってみることはできるだろう。

デジタルだけれど、子どもの頃に自分たちで遊びを作ったような感覚を取り入れる、こうした遊び作りを取り戻すことができるのは、まさに今の時代のおもしろさだ。


執筆 大内孝子