肉汁が出る/出ない、どちらがおいしい?

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 テレビのグルメ番組でよく、熱々の鉄板にのせられたハンバーグをナイフで切ると、中から肉汁がジュワっとあふれ出る映像がアップで映されます。グルメリポーターが「見てください、この肉汁!」と肉汁があふれ出るハンバーグこそが一番おいしいと言わんばかりに伝える光景はおなじみです。

 しかし、そもそも、肉汁はハンバーグのうま味であり、それがあふれ出ることはハンバーグからうま味が逃げ出していることではないのでしょうか。洋食のシェフの中には、切ったときに「肉汁が出ないハンバーグ」を推奨する人もいます。

 切ったときに「肉汁があふれ出るハンバーグ」「肉汁が出ないハンバーグ」では、どちらがおいしいのでしょうか。料理研究家で管理栄養士の関口絢子さんに聞きました。

アミノ酸や脂肪などの成分

Q.そもそも、ハンバーグからあふれ出る肉汁の中には、どのような成分が含まれているのでしょうか。

関口さん「ハンバーグからあふれ出る肉汁の成分はアミノ酸と脂肪、アミノ酸が複数結合したペプチド、そして、タマネギなどの野菜と肉から出た水分です。つまり、ハンバーグからあふれ出る肉汁は“うま味成分”と言えるでしょう」

Q.切ったときに「肉汁があふれ出るハンバーグ」「肉汁が出ないハンバーグ」では、どちらがおいしいのでしょうか。

関口さん「肉汁があふれ出るか出ないかで、ハンバーグのおいしさが変わることはありません。肉汁があふれ出るということは、うま味のもとであるアミノ酸や脂肪がハンバーグ内にそのまま残っている状態であることから、おいしいハンバーグと言えます。

一方、肉汁が出ないということは肉汁が消えたわけではなく、肉やつなぎが抱え込んで流れ出ない状態ということなので、こちらもおいしいハンバーグと言えます」

Q.ハンバーグから肉汁が出るか出ないかの違いは、どのようにして起きるのですか。

関口さん「ハンバーグの作り方に関係しています。どちらも肉汁が閉じ込められているのですが、肉から離脱するか、肉が抱え込むかの違いで、焼き方がポイントとなります。先に中火で表面を焼き固めてから、弱火でじっくり中まで火を通す方法だと、中心部に水分が多く集まり、切ったときに肉汁が出やすくなります。

一方、冷たいフライパンの上にタネを置いて、ひたすら弱火で焼き上げる方法は肉の凝固が緩やかに起こるため、タンパク質の収縮が起こりにくく、水分が同じ場所にとどまっている状態で焼き上がります。しかも、焼き終わってから余熱で1分程度落ち着かせることで、離脱が少なくなります。

当然、焼き方によって食感も変わります。肉汁のあふれ出るハンバーグは比較的、周りは香ばしくしっかりとしており、中はふっくらジューシーに、肉汁の出ないハンバーグは全体的にふっくらやわらかに仕上がります」

Q.なぜ、「肉汁があふれ出るハンバーグこそがおいしい」という考えが一般的になったと思われますか。

関口さん「ハンバーグのおいしさを分かりやすく伝えるのが、肉汁があふれ出るという“視覚”に訴える方法で、そうした光景を繰り返し見ることで『肉汁があふれ出るハンバーグこそがおいしい』という考えが定着したのではないでしょうか。

ただ、一部には、見た目の演出から肉汁を人工的に作り出そうと脂肪分を多くしたり、水分を注射器で注入したりするような作り方もあるようです。そういう手法は、脂っぽくなったり、肉の中に含まれるうま味が水で薄まったりするので、あまり意味がありません。

また、中華料理の小籠包はスープを皮の中に閉じ込めるため、ひき肉にスープを吸わせたり、ゼラチンで固めたスープを混ぜたりして脂を多くします。この手法をハンバーグにも取り入れ、肉汁があふれ出るように工夫されたものもあります」

Q.外食をしてハンバーグを注文し、目の前に出てきたハンバーグが肉汁があふれ出るものだったとします。こうした場合でも、肉汁のおいしさ、ハンバーグのおいしさを逃さずに味わう方法はあるのでしょうか。

関口さん「そもそも、肉汁は肉の内部に含まれる水分がタンパク質の凝固によって縮んだことで押し出され、ハンバーグ内部に漏れたものが流出する現象です。ハンバーグを小さく切れば切るほど肉汁は流れやすいので、大きめにカットして口の中で肉汁を楽しむとよいでしょう。

あるいは、流れ出た肉汁をソースと一緒にハンバーグに絡めながら食べるとよいのではないでしょうか。付け合わせの野菜やマッシュポテトなども、ソースや肉汁と一緒に食べることで、ハンバーグのおいしさを逃さず食べることができると思います」

Q.家庭で食べるとき、できるだけ肉汁があふれ出ないハンバーグを作るにはどうしたらよいでしょうか。

関口さん「ひき肉をこねる作業と焼き方が重要です。こねる作業では、ひき肉の内部にうま味をしっかり蓄えるため、ひき肉に塩を振ってしっかりと粘りが出るまでこねる工程があります。塩とタンパク質を一緒に混ぜることでタンパク質の凝固が起こり、弾力が出てきます。

凝固し始めたひき肉の繊維の網目に水分が収まることで保水力が高まります。そこにパン粉や卵を加えることで、水分を内部に定着させ凝固も助けます。

焼き方では、ハンバーグはとても焦げやすいので、火加減は中火〜弱火で焼き固めてからじっくり火を通すか、または、初めから弱火でゆっくりにするかは、出来上がりの好みで選んでください。

焼き過ぎると、卵の膨張作用で表面が割れ、焼いている途中で肉汁が外に流れ出てしまいます。ひっくり返した後は、ハンバーグが膨らんできたあたりで焼き上がりの目安にするとよいでしょう」