■多くの人が勘違いしている「所得税」の計算方法

確定申告の時期が近づいてきた。私のような芸人やフリーランスで仕事をしている人、そして個人事業主はもちろんのこと、給料から税金を天引きされているビジネスパーソンの方も、住宅ローン控除などがあれば確定申告をする必要がある。きっと、毎年訪れる「恒例行事」のように感じている人も多いのではないか。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Geobacillus

私は元国税局の職員で、法人税の調査をしていた。企業の申告漏れなどを税務調査するのが主業務だった。しかし、確定申告の期間中は確定申告作成会場に応援に行き、手続きに不慣れな高齢納税者の方などの申告書作成のお手伝いなども行っていた。そんなわけで今回と次の2回にわたり、数学的な観点からみた所得税に関する興味深い注意点などについて考えてみたい。

ご存じのように所得税とは、所得にかけられる税金だ。日本の最高税率は現在45%であり、給与所得からさまざまな控除を差し引いた「課税所得」が4000万円を超える人が対象だ。45%が高いか低いかはいろいろな意見があるだろうが、1983年には75%だった最高税率は、その後ほぼ一貫して下がってきた。そうした意味で、高所得者の重税感は緩和されてきたのではないか。

■富を再分配することを目的

その所得税の構造をグラフに示したものが別図である。所得税は課税所得に応じて段階的に増えていく。一番低い課税所得195万円以下の5%から、330万円以下の10%、695万円以下の20%……45%と7段階に分かれる。それゆえ「累進課税」といわれる。課税所得が高くなるにしたがって累進的に高い税率を適用することによって、富が一部に集中するのを回避するとともに、富を再分配することを目的としている。

さて、数学的な観点から最も注意したいのが、累進課税にともなう所得税の計算方法である。課税所得が190万円の場合、税率は5%なので「190万円×5%=9万5000円」が所得税となる。これは問題ない。厄介なのが、195万円を超えていった場合なのだ。

たとえば、課税所得が300万円だとどうなるか――。税率10%なので、「300万円×10%=30万円」が所得税になる、と考えた人は間違いだ。実際の計算方法について説明しよう。

課税所得300万円の場合、2段階に分けて計算する。「(195万円×5%)+(300万円−195万円)×10%=20万2500円」が所得税となる。横軸の300万円のところから上の10%の税率の線まで垂直の補助線を引き、縦軸の税率と囲まれた階段状の図形(図のオレンジ色の部分)の面積を求めるのと等しい、と言い換えたほうがわかりやすいかもしれない。

課税所得700万円の場合も同様である。「700万円×23%(税率)=161万円」ではなく、4回に分けて計算。「(195万円×5%)+(330万円−195万円)×10%+(695万円−330万円)×20%+(700万円−695万円)×23%=9万7500円+13万5000円+73万円+1万1500円=97万4000円」が所得税となる。

この所得税の計算方法については、一般のビジネスパーソンだけでなく、高額な報酬を得ているはずの企業経営者でも誤解している人が少なくない。これを機に、ぜひ頭の片隅にとどめておいていただきたい。

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さんきゅう 倉田(さんきゅう・くらた)
芸人・元国税局職員
大学卒業後、東京国税局に入局。法人税の調査を経て、よしもとクリエイティブ・エージェンシーに入る。お笑い芸人として、税務調査やガサ入れのネタなどでメディアやライブに出演。著書に『元国税局芸人が教える 読めば必ず得する税金の話』がある。
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(芸人・元国税局職員 さんきゅう 倉田 構成=田之上 信)