急激な店舗拡大があだとなり、「いきなり!ステーキ」を運営するペッパーフードサービスの業績が急失速している(記者撮影)

暗中模索から抜け出せるのか――。不振店舗を大量退店することを公表していたペッパーフードサービス傘下の「いきなり!ステーキ」は、2019年12月にホームページ上で撤退する店舗名を一部発表した。

現在展開している国内489店舗(2019年11月時点)のうち、2020年春までに44店舗を閉店する方針をすでに発表している。このうち、2020年1月13日に閉店する26店舗の店名が明らかになった。都心部の店舗よりも北海道や愛媛など地方店舗が目立っている。

店舗網の急拡大で目立つ顧客離れ

いきなり!ステーキは2013年末の初出店以来、分厚いステーキを手頃な価格で立ち食いするビジネスモデルが当たり、2017年ごろには都心を中心に多くの店舗で行列ができるほど人気を集めた。2014年末に30店だった店舗数は、2015年末に77店、2016年末に115店、2017年末に188店、2018年末に397店と急速に拡大させてきた(海外店舗含む)。

しかし、店舗網の急拡大があだとなる。2017年5月に群馬県と埼玉県のロードサイドへ初出店して以降、家族層など新たな客層の来店を期待して郊外出店を強化したが、比較的低価格志向の強い郊外では、300グラムで2070円(税抜き)というリブロースステーキの価格は受け入れられなかった。都心でも当初の目新しさが薄れ、顧客離れが目立つようになっていった。

2018年4月以降、既存店売上高は前年割れを続け、2019年11月には前年同月比マイナス32.8%と、記録的な落ち込みとなった。


既存店の低迷を受けて業績も悪化。当初、今2019年12月期の業績を売上高935億円(前期比47.3%増)、営業利益55.9億円(同44.8%増)と見込んでいたが、期中に2度も下方修正。2019年12月時点では売上高665億円(前期比4.8%増)、営業損失7.3億円を計画している。

業績悪化につれて財務体質も悪化し、2018年12月末に13.6%だった自己資本比率は2019年9月末時点では4.8%まで急低下した。さらには、年末ぎりぎりの2019年12月27日になって、約69億円が調達可能だとする第三者割当による新株予約権発行のリリースを公表した。新株予約権の行使による潜在的な希薄化率は最大24.75%と高く、予約権が行使されずに資金が予定通りに調達できないリスクもある。

いきなり!ステーキのテコ入れ策は次々と打ち出されている。

2019年5月には都心の店舗で生牡蠣を提供。同じ月にはロードサイドを中心とする一部店舗で、子ども用メニューや牛たんなどのサイドメニューを開始した。内装工事にも着手し、7月にはロードサイドの36店舗で家族連れがゆったりと食事できるよう、低いテーブルやいすを設置した。

11月にはディナー時の定量カットメニューを導入。以前はディナータイムには「1グラム6.9円」(税抜き)などを「量り売り」で販売していたが、現在は「300グラム2070円」(税抜き)など、注文しやすい定量メニューを取り入れている。

SNSの反発を受けた「社長からのお願い」

12月にはサントリーホールディングスの「黒烏龍茶」の提供を再開した。いきなり!ステーキでは食べた肉の合計に応じた「肉マイレージ」と呼ばれる会員カード制度があり、3キロ以上食べた「ゴールドカード」以上のランクの会員は、通常税抜き300円で提供されるソフトドリンクが1杯無料となる。

黒烏龍茶は無料ドリンクの1つで人気が高かったが、2018年6月から提供を取りやめ、代わりに原価率が低いプライベートブランド(PB)のウーロン茶に変更していた。だが、顧客からは不評で今回、サントリーの黒烏龍茶とPB商品を両方取り扱うようにした。


「社長からのお願い」と題したはり紙を店舗に貼り出し、SNS上で話題となった(記者撮影)

世間の注目を集めたのが「社長からのお願い」と題したペッパーフードサービスの一瀬邦夫社長直筆の貼り紙だ。12月4日から都内の店舗で順次貼り出されたその内容は、「お客様のご来店が減少しております。このままではお近くの店を閉めることになります」と情に訴えかけて来店を促すもので、SNS上で「上から目線」といった反発の声があがり、12月22日には取り外された。

なりふり構わず、あらゆる施策を試みているいきなり!ステーキだが、ほとんどが不発に終わり、既存店売上高に回復の兆しはみられない。

2019年まで拡大路線を突っ走ってきたいきなり!ステーキにとって、2020年は原点回帰の年になりそうだ。「新しいことをやるのではなく原点に回帰し、目の前で焼かれる柔らかい肉を安価に食べられるといういきなり!ステーキのいいところを磨く」と、ペッパーフードサービスのIR担当者は語る。

2018年には211店、2019年には112店と大量出店を続けてきたが、2020年は出店に急ブレーキをかける。2018年や2019年初のように年200店出店などの目標は設けない。総店舗数の約3分の2を占める直営店では土地代や家賃をすべてペッパーフードサービスが負担するため、「直営店の出店を抑える」(IR担当者)。一方で、2020年は閉店数をさらに加速すると見られる。とくに、不振の郊外店の閉店の動きが加速しそうだ。

売れ行きが悪い牛たんなどのサイドメニューは今後提供する店舗数を縮小していき、いずれ全店で提供を取りやめる可能性がある。「量り売り」という、いきなり!ステーキの特長が薄れるため、定量カットメニューも今後の動向次第では、継続するかどうかの判断を迫られる場面もありそうだ。

マイスター制度復活で料理の質を確保

並行して商品やサービスの改善に力を注ぐ。これまでは急速な出店に対して、従業員の調理技能や接客サービスの向上が追いついておらず、「チェックがおろそかな部分があった」(IR担当者)。

いきなり!ステーキでは、筆記試験と実技試験により調理人として認定する「マイスター」制度を2015年に開始。肉をカットしたり、焼き上げを担当するのは、この社内資格の保有者のみとしていた。

だが、出店ラッシュが続いたことで、マイスター制度は事実上頓挫。マイスターの資格がなくても調理場に立つ従業員が増えた。その結果、カットや焼き加減の質にばらつきが生まれ、顧客から不満の声が上がっていた。

こうした点を改善するため、マイスター制度を2020年2月をメドに再開する。一瀬社長は「素材を生かす焼き方の技術の習得と指導の強化を主眼に置く」とコメントしている。

また、売り上げ悪化に伴って従業員を減らし、顧客が入店した際のあいさつや席の案内が遅れるケースも散見されるようになった。2020年は閉店する店舗の社員を異動させるなど、従業員を柔軟に配置換えすることで、接客の質を確保する。

手薄になっていた元々のファン層を重視したテコ入れ策を行うものの、都心の店舗閉店が続いており、原点回帰策の成否は不明だ。2019年まで突っ走ってきた拡大路線から、原点回帰による既存店の立て直しへ。いきなり!ステーキは2020年に存続の正念場を迎えることになる。