NTTドコモの世界初「窓を基地局化するガラスアンテナ」! 5G時代に向けて各社が「透明アンテナ」の開発に注力するワケを探る

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●NTTドコモがガラスアンテナの商用稼働を開始
NTTドコモは、AGC(旧:旭硝子)と共同開発したセルラー向け「ガラスアンテナ」の商用稼働を10月1日より開始したと発表しました。
ガラスアンテナを用いた「窓の基地局化」によるサービスエリアの提供としては、世界初となる製品です。

ガラスアンテナとは、その名の通りガラス板と透明な導電素材を用いたアンテナ装置です。
アンテナ素材自体が透明であるため、
・ビルの窓やショーウィンドウなどに設置しても視界を遮らない
・屋内外のレイアウトやデザインの妨げにならない
こういったメリットがあります。


アンテナ素材は僅かに色が付いているが、ほぼ透明で視界の妨げとならない


今回NTTドコモが商用稼働を開始したのは、LTEエリア向けの小型アンテナ装置です。
LTE方式がセルラー通信の中心となって10年近くが経ち、そのエリアカバー率も十分になりました。

しかし、
・都市部など過密地域で通信状態が悪くなる場所がある
・スマートフォンの普及により、より安定した高速通信が求められるようになった
これらの要因などから、大きなアンテナ基地局の死角となるような狭いエリアの補完として、その効果が期待されています。


オフィスや商業施設でLTE通信が届きにくい場所などに設置する


実はガラスやポリカーボネートなどを用いた「透明アンテナ」の研究や開発を行っている通信会社は、NTTドコモだけに限りません。
KDDIもLTE向けの可視光透過型アンテナを日本電業工作と共同開発し、2017年2月より運用を開始しています。


KDDIは2018年に開催された「CEATEC 2018」で5G通信用の可視光透過型アンテナを展示していた



●5G時代にこそ必要となる透明アンテナ
これらの透明アンテナは、2020年より商用サービスが開始される次世代移動通信システム「5G」で、その真価が発揮されるものと予想されています。

5Gは、
・超高速通信
・超多接続
・超低遅延
こういったメリットを持ちます。

一方で、電波の周波数帯特性などから、
・ビルなどの屋内に電波が届きにくい(電波浸透性が低い)
・壁などの裏側にも電波が回り込みにくい(回折性が低い)
こういったデメリットも併せ持ちます。

そこで有効なのが小型アンテナです。
小型アンテナは、屋外からの電波が届きにくい場所や、電波の死角となる場所へ設置することで、安定した5G通信を確保することができます。
しかし、アンテナを多数設置する必要があり、あまりに目立つアンテナ装置では景観やデザインを大きく損ねてしまう恐れがありました。

透明アンテナであれば、そういった見た目の違和感や利用上での不都合を解決できます。


KDDIはアンテナの透明化以外に、複数の周波数帯に対応させた集約型アンテナや小型化にも着目している



●通信の利便性と景観保護の両立がカギ
KDDIのように、屋内利用を主体としてガラス以外の素材によって可視光透過型アンテナを開発している企業もあれば、
NTTドコモのように屋外利用も視野に入れ、耐久性に富んだガラスアンテナを開発している企業もあります。

セルラー通信は、私たちの生活や仕事と切っても切れない重要なインフラとなりました。
通信が高度化し、より便利に使われるようになる一方で、生活圏にアンテナがあふれるという問題も徐々に生まれつつあります。

5G時代にはさらに多数のアンテナが必要となり、この流れは加速するでしょう。

NTTドコモは、5G向けのガラスアンテナの開発を2019年中に完了し、2020年中に運用を開始すると発表しています。
便利さと景観の美しさを両立させるための透明アンテナに期待がかかります。


執筆 秋吉 健