富士通初有機ELノート『AH-X』はホーム向け15型。UHD BD対応、Office付きで約25万円
富士通クライアントコンピューティング(FCCL)が、2019年冬モデルのPC新製品を発表しました。今回の中心機種は、15.6インチ・4K/HDR対応の有機ELパネルを搭載する家庭向けノートPC『FMV LIFEBOOK AH-X/D3』です。店頭予想価格は25万円強(税別:Microsoft Office Home&Business 2019搭載)、発売時期は「現在調整中」。

ノートPC向けの有機ELパネルは採用モデルがじょじょに増加しつつありますが、これまではヘビーユーザー向けということもあり、ゲーム向けモデルやモバイル性も追求した高級モデルが中心でした。対してAH-X(エーエイチテン)は、同社初となる有機ELの採用ノートPCであると同時に、実質日本初となる「有機EL画面のホームノートPC」市場を狙うモデルです。

本機が搭載する有機ELパネルの仕様は、サイズは15.6インチで解像度は4K(3860×2160/アスペクト比16:9)、HDR動画ソースにも対応する仕様。


▲ファーストインプレッションでは、やはり有機ELパネルならではの黒の引き締まり方が印象的です

特徴は、HDR映像の表示品質認定として『DisplayHDR 500 True Black』規格を取得していること。同規格は、映像技術の標準化団体であるVESA(Video Electronics Standards Association)が提唱するもので、いまだに基準がわかりにくい「(デバイスレベルではなく)製品レベルでのHDR表示品質」を明示するもの。


▲記者説明会の会場では輝度最大ということもあり、少し画面を閉じるとキーボード面に強烈な照り返しが。輝度とコントラストの高さが伺えます

まずHDR映像で重要な画面輝度に関しては、DisplayHDR 500 True Blackの場合、HDR映像を表示するときの最大輝度が500nit、四隅における最低輝度値が0.1nit、黒の最低輝度値は0.0005nit(これがTrue Blackの由来)と規定されています(ただしFCCL側は「同仕様の認定は受けているものの、AH-X仕様としての輝度は非公開」とのこと)。

さらに全画面白状態と全黒状態でののコントラスト比を955:1以上とし、sRGB色空間カバー率が99%、かつDCI-P3でのカバー率も90%以上を確保――など、ノートPCとしては(一部はデスクトップ用ディスプレイに照らし合わせても)かなり厳しい条件が定められているもの。本機はこの条件を製品レベルでクリアするというわけです。


▲UHD BD対応のBlu-ray Discドライブは右側面に。なお開発チームの間では、「昨今では、光学ドライブの採用可否自体が大規模モデルチェンジごとの検討課題になる」との話も

そしてもう一つの特徴は、こうしたHDR映像ソースの表示能力を活かすべく、Ultra HD Blu-ray(UHD BD)の再生にも対応した記録型Blu-ray Discドライブを搭載する点。

他社の有機EL搭載ノートではUHD BD再生対応は見られないだけに(というよりも、光学ドライブを搭載するノートPC自体が少数派のため)、「映画などを有機ELの高画質で楽しめるノートPC」というコンセプトから見ると、かなり重要なアドバンテージと呼べるポイントでしょう。


▲昨今のトレンドであるナローベゼル(狭額縁)設計も、もちろん導入。とくに天面側は2018年モデルに比べて2.8mm細くなっています

そして隠れた特徴が、有機EL搭載機としては意外なまでのお買い得度。絶対価格としては25万円(予想値)と決して安価とは呼べず、またホームノートPCとしても実質的な最上位となります......が、実は15.6インチの有機EL搭載ノートは、Office非搭載モデルで20万円前後からが相場。Office搭載で25万円という価格付けは、意外と競争力がある設定なのです。


▲いい意味でFMVのホームノートとは思えない、1TBのSSDと強力なCPU。とくにSSDは、いよいよホームノートでもSSDシフトが? と予感させます

また基本性能も、CPUはTDP 45Wのインテル『Core i7-9750H』(6コア12スレッド、標準2.6GHz、ターボ時最高4.5GHz)、RAMは標準8GB(SO-DIMMスロットにより最大32GBまで拡張可能)、ストレージは1TB SSD(NVMe-PCI Express接続)と地味に強力。GPUこそCPU内蔵ですが、いい意味でFMVのホームノートらしからぬハイパワー指向です。

なおこうした仕様は、同時発表されたフルHD液晶搭載の弟的モデル『AH77/D3』とほぼ同じなのですが(ただしAH77のストレージは256GB SSD+1TB HDDで、UHD BD再生には非対応)、同機の予想価格は22万円強。

つまり本機の「有機EL(上乗せ)代」は3万円以下......という計算もできるわけです。このあたりからも、FCCLの有機EL搭載モデルに対する本気度の一端が伺えるのではないでしょうか。


▲本機の兄弟モデルとなる、AH77/D3の内部。同機はSSD+HDDのデュアルドライブ構成ですが、マザーボードはAH-X/D3とほぼ共通です


▲キーボードバックライトがかなり美しいのも特徴。側面が透明な『プリズムクリアキー』との相性が良好です。ただし輝度が調整できず、オン/オフのみなのが残念

他の特徴としては、有機ELパネルの焼き付き問題を回避すべく、人感センサーにより「前にユーザーがいる場合のみに明るくする」輝度制御機能の搭載や、Windows Hello対応の顔認証機能、AHシリーズの店頭モデルとしては珍しいキーボードバックライトの搭載などが挙げられます。

店頭販売モデルの基本仕様は、
本体サイズ......361×244×27mm(幅×奥行き×厚さ)本体重量......約2kgディスプレイ......15.6インチ、4K解像度有機EL(DisplayHDR 500 True Black認定)CPU......インテル製 Core i7-9750H(TDP 45W、6コア12スレッド、標準2.6GHz、ターボ時最高4.5GHz)メモリ......標準8GB(デュアルチャンネル)、最大32GB(SO-DIMM×2:標準では空きなし) DDR4-2666ストレージ......1TB SSD(PCI Express接続/NVMe)光学ドライブ......UHD BD&BD-XL対応Blu-ray Discドライブバッテリー駆動時間......最大約4時間(JEITA 2.0測定法)USB端子......10Gbps USB Type-C×1(映像出力およびUSB PDには非対応)、USB 3.0 Type-A(5Gbps)×2、USB 2.0×1拡張端子......フルHDMI、有線LAN(RJ-45/1000BASE-T)、3.5mmヘッドセットジャック、フルサイズSDカードスロットWi-Fi......802.11ac(MU-MIMO対応)生体認証機能......顔認証(Windows Hello対応)標準搭載OS......Windows 10 Home 64bit版

といったところ。




▲左側面(写真1つ目)と右側面(2つ目)の端子類。USB Type-CやHDMIといった主要な端子が左手前側に来るレイアウトです

なお、先日発売されたNHシリーズ(17インチノートPC)で好評を博しているHDMI入力端子は、本機では残念ながら非搭載。せっかく有機ELパネル搭載なのだから、ゲーム機などと組み合わせて使いたい......というニーズはありそうなので、惜しいところです。

ただしこの点に関して開発チームに質問したところ、チームの間でも最後まで搭載が検討されたが、技術的な点と、マーケティング的な点の双方で見送られたとのこと。

またカラーキャリブレーション(色較正)に関しても「出荷時にはFCCL側の規定はクリアするように調整している」(開発担当者談)ものの、いわゆるクリエイター向けノートPCのような高度な較正はなされていない......との解説もありました。


▲記者説明会では、有機ELパネル単体の展示も。15.6インチの面積でこの薄さは、液晶でもなかなか難しいレベルです

こういった少し惜しい点もありますが、それを差し引いても、AH-Xは有機ELパネル搭載ノートPCとしてはユニークな立ち位置の製品です。

ノートPC向け有機ELディスプレイは、もし将来的に価格面での不利が解消された際には、消費電力が重要視されず(ここは液晶に比べて不利なところ)、なおかつ動画の画質がアピールしやすいホームノートでこそ採用が進む......という見たてもありますが、本機はそうしたトレンドを先取りするかのようなモデルとなっています。

そしてなによりも、本機はFCCLの店頭モデルであるため「(海外勢の高級機を扱っていない)ロードサイドの家電量販店で展示機が並ぶ、初めての有機EL搭載ノートPC」になる点も見逃せません。ともすれば、ホームノートPCの有機ELシフトの旗振り役ともなり得る存在でしょう。