女性管理職を増やそうとさまざまな施策に取り組む企業もある中、なぜ女性管理職は増えていないのでしょうか?(写真:metamorworks/iStock)

「わが社では女性管理職が増えない……」と悩む経営者の声を聞きます。増えないということは増やそうとしているのに、成果が出ていないということなのでしょうが、その悩みはいったい誰が解決するのか? 人事部に責任が負わされているパターンが多いのではないでしょうか。

あるネット広告企業では、社長の指示により、人事部が女性管理職の比率向上を重要なミッションとして課されていました。その1年後には、

「同業のⅮ社では、女性管理職比率が20%を超えたそうだ。うちはどうなっているんだ!」

と厳しい叱責が飛んだとのこと。

人事部にすれば、これは経営陣との連帯責任じゃないか。さらに言えば、1年や2年で女性管理職が増えるものではない……と嘆きたいのが本音ではないでしょうか。

労働力として伸びるものの、増えない女性管理職

女性管理職が増えないのは、多くの会社で同じです。女性管理職を有する企業割合を役職別にみると、約6割で大きな変化は起きていません(平成30年度雇用均等基本調査より)。管理職全体における女性比率は国際労働機関(ILO)の発表によると12%で、主要7カ国(G7)のうち最下位。しかも平均の半分以下です。

女性管理職を登用する会社が増えていない、登用している会社でも女性比率はさほど上がっていないのが実態のようです。


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一方で管理職ではないものの、労働力として女性の存在は大きくなるばかり。総務省が発表している労働力調査によると、女性の就業者数は約3003万人で、就業者全体の伸びの9割近くを女性が占めています。

政府は2020年には女性管理職比率の30%超を目指しています。通称“2030(ニイマルサンマル)”と呼ばれていますが、どうしたら女性管理職は増えていくのか? 考えてみたいと思います。

そもそも、管理職になりえる「適齢期(30代〜40代)」の女性就業者は増えつつあります。30歳前後から結婚や出産を機に仕事を辞める女性は減っています。さらに休職しても、速やかに新たな職を探して仕事が見つかるようになってきたからです。その結果、M字カーブと呼ばれた就業率のグラフは大きく変化して台型になりつつあり、女性管理職候補は「見た目」増えています。

管理職志向の薄い日本女性

ところが、働き続けることと、出世することはまた別です。日本では管理職志向が薄い女性が少なくありません。さまざまな調査でも女性の管理職志向は低く、管理職適齢期でそれが顕著に下がることも指摘されています。

仮に、20代ではバリバリ仕事をしていて、将来は管理職になりたいと考えていたとしても、結婚・出産というライフイベントを経験して、

「マイペースで仕事をしたい。だから管理職にはなりたくない」

と志向に変化が出る場合もあるでしょう。

これは管理職適齢期の女性による転職活動からも垣間見ることができます。例えば、20代で大企業に勤務、それなりの仕事を任されて、将来を嘱望されながら、結婚、出産を機に退職したⅮさん。40代で仕事を探しているものの、

「専門性を生かして、一般社員として働ける職場を探している」

とのこと。管理職として十分に活躍ができそうなキャリアがあるにもかかわらず、それを望んでいません。今でなくても、将来は管理職になりたいですか?と質問すると「とんでもない……」と謙遜ではなく、否定的なコメントが返ってきます。

それでも人手不足の時代ですから仕事は見つかりますが、筆者は「もったいない」と感じてしまいます。管理職になれば、仕事の幅が広がり、収入が増えて、やりがいも増えると感じるからですが、この発想が間違っているのかとすらと感じてしまいます。

いずれにしても管理職適齢期で「抜擢したい」人材にもかかわらず「本人の志向」で候補者にならない女性は少なくありません。女性管理職の候補者がいないからだけでない、問題が存在していることは認識しておかなければなりませんね。

なかなか、解決の糸口が見当たらない女性管理職を増やすための施策ですが、会社にとって増えることはいくつものメリットがあると考えます。

例えば、意思決定に関わるメンバーが多様化することで、これまで出てこなかった意見や提案が生まれ、会社の方針に柔軟性が生まれます。消費財メーカーなど多くの会社で市場に合わせた意思決定ができる可能性も高まります。

あるいは女性社員にとって男性上司にはどうしても話しにくい、家庭環境や自身の体調など、デリケートな問題が相談しやすくなることもあります(プラスばかりとは限りませんが)。

女性管理職の比率が上昇した会社では業績も向上しているとのデータも発表されており、会社は女性管理職拡大に果敢に取り組まざるをえない状況になってきたといえます。

企業側の努力にもかかわらず、大きな成果が出ない理由

そこで各企業の人事部によって、

・女性社員の採用数を増やす
女性管理職候補がいれば「下駄」を履かせてでも推薦する
・家庭との両立をしやすくするため職場全体の長時間労働を是正する
・労働生産性を高める
・ワークライフバランスの施策を実施する

など、さまざまな施策が取り組まれるようになりました。経営から課せられたミッションに対して、手はいくつも打たれているのです。

ただ、こうした努力にもかかわらず、大きな成果はなかなか出ない。時間のかかる問題だからともいえますが、あと5年も経てば増えるのでしょうか? それほど、大きな変化が出ていない気がしてなりません。その理由は管理職になりたいという「意欲」が変わらず低いままだと思うからです。では、どうして低いままなのか。どうしたら上がるのでしょうか?

1つ象徴的なデータがあります。それは、いったん管理職になった女性のうち半数以上が管理職を続け、さらなる昇進を目指しているということ。

また、筆者がコンサルティングをしているクライアントの管理職インタビューで出会った女性管理職に「管理職を続けたいか?」と質問したとき、多数の人から「はい」と回答をいただきました。つまり、管理職になってしまえば活躍できるが、ならない段階ではそのイメージが湧かず、尻込みしてしまうのです。

こうした、状況を「食わず嫌い」と表現した人がいましたが、この食わず嫌いを「試しに食べたらおいしいかも」と気持ちを高揚させる機会をつくることで可能性がみえてくるのではないでしょうか。

ちなみにアデコの調査によれば、女性が管理職になったきっかけについて61.1%が「自身で希望していなかったが、上司からの打診があり、快諾した」と回答。「上司から打診があり仕方なく引き受けた」(24.7%)と合わせると、8割以上の女性が、上司からの働きかけをきっかけに管理職になっています。

だから、取りあえず食べさせてみる……と強引に管理職への抜擢をすればいいということではありません。

本人が前向きに選べる状況をつくること

例えば、リーダーの役割を頻繁に体験して管理職のプチ体験を重ねることで仕事の具体的なイメージを持つこと。あるいは適性テストを活用して管理職としての可能性に気づいてもらうといったことです。

適性テストというと入社の判断をするためのツールと限定的な利用価値しか知らない人もいますが、そんなことはありません。各人材のポテンシャルを引き出すために活用して、社内における新たな適所を探すことも可能です。

適性テストもさまざまなサービスが開発されており、性格検査、パーソナリティ検査、学力検査などに用いられますが、組織・職業適性を図るものなら管理職としての適性をみることができます。

入社選考の場合、受けたテストの結果は教えてくれないケースが大半です。でも、それでは本人にとって気づきの機会にはなりません。女性活用の場合は、可能であれば、適性テストを受けた結果を本人に伝えることに加え、それに対してしっかり専門家からフィードバックも受けられるようにし、本人が納得できるようにすることが重要です。それがキャリアカウンセリングにもなります。

こうした取り組みにより、管理職になるポテンシャルのある女性が、意欲的に管理職に手をあげる状態が生まれるのではないでしょうか。

力技で強引に管理職を登用したものの、退職してしまった。管理職を勧められて断るといづらいので辞めたという女性の話を聞くことがあります。あくまで、本人が前向きに選べる状況をつくることが、女性管理職を増やす近道ではないでしょうか。