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VWゴルフがディーゼル搭載 大幅充実

text:Yoichiro Watanabe(渡辺陽一郎)

日本車と輸入車の違いに、クリーンディーゼルターボ搭載車のラインナップがある。

日本車でディーゼルを選べるのは、マツダのCX-5やマツダ3、トヨタランドクルーザープラド、三菱デリカD:5などに限られる。日本車ではハイブリッドが普及している代わりに、ディーゼルエンジン車は少ない。

新たに追加されたディーゼルのゴルフ「TDI」

しかし輸入車は逆だ。ハイブリッドも増え始めたが、ディーゼルが圧倒的に多い。特にSUVでは、ディーゼルの販売比率が80%前後に達する車種もある。

ディーゼルのメリットは、ターボと組み合わせることで実用回転域の駆動力が高まり、効率が優れているために燃料消費量も節約できることだ。

日本では軽油に課せられる税金がレギュラーガソリンよりも安いため、税込み価格も軽油が下まわる。

例えば軽油価格が1L当たり125円の場合、すべての税金を除いた本体価格は83.22円だ。レギュラーガソリンは、本体価格が77.66円でも、小売価格は1L当たり145円に達する。本来価格はレギュラーガソリンが安くても、税金が高いために小売価格では逆転するわけだ。従ってディーゼルの経済性が一層際立つ。

先に述べた通り、ディーゼルはSUVで人気が高い。SUVはボディが重く背が高いので、空気抵抗も大きく、燃料消費量が増えやすいからだ。

そのために既に売られているSUVのVWティグアンでは、ディーゼルの販売比率が80%に達する。ほかの車種も50%以上だから、VWにとってディーゼルは待望のバリエーションであった。

北米のVWディーゼル不正で導入遅れ

日本市場でディーゼルを発売すれば、売れ行きを伸ばせることは以前からわかっていたが、発売時期が遅れた。

クリーンディーゼルターボのTDIを最初に設定したのはパサートだが、日本での発表は2018年2月であった。

カモフラージュしながらテスト中の次期型ゴルフ。

もともとVWは、メルセデス・ベンツなどに比べるとクリーンディーゼルの日本導入に向けた立ち上がりが遅く、2015年には、北米でディーゼル車の排出ガス測定に関する不正問題も発覚した。

当時日本ではVWのディーゼルは売られていなかったが、2015年10月の登録台数は、前年に比べて50%近いマイナスとなった。

現行パサートは2015年7月に日本国内の販売を開始しており、この時点で販売店からは、以下のような期待の声も聞かれた。

「近い将来、パサートにはディーゼルも搭載される。その後はVWも、いよいよディーゼルを充実させる」

「最近の(2015年当時の)VWは国内販売でメルセデス・ベンツに追い上げられているが、主な原因はディーゼルを販売していないからだ。VWがディーゼルをそろえれば挽回できて、再び輸入車販売の1位を安定的に維持できる」という期待の声も聞かれた。

このスケジュールが、北米のディーゼル不正問題で乱され、その影響が今も続く。

「国土交通省が型式指定に慎重になり、時間を要するようになった」という声も聞かれる。これはVWだけでなく日本車も同様だ。「近年の燃費計測に関する不正問題などにより、以前に比べると審査が厳しくなった」といわれる。

しかも現行ゴルフは、いわゆるモデル末期の状態にある。ドイツでは2019年中に次期ゴルフが発表される可能性が高い。日本にも6か月ほど遅れて導入されるだろう。

VWゴルフに最終型を好むユーザーがいることも事実だが、一般的にいえば良好なタイミングとはいえない。

今になってディーゼル導入 メリットは?

欧州では、排出ガス規制のレベルがユーロ4程度にとどまるディーゼルも走っており、近年では大気汚染の原因とされている。

そのために欧州ではディーゼルのイメージが下がり、売れ行きも低下してきた。日本でも欧州におけるディーゼルの評判が報道されている。

ゴルフTDIが搭載するディーゼルエンジン。

このような状況で、VWがディーゼルの日本導入を活発化させるメリットはあるのか。その理由をフォルクスワーゲングループジャパンに尋ねた。

「確かにドイツなどの欧州では、ディーゼルに対する風当たりが強かったです。それが最近は、以前に比べると収まる傾向にあります」

「また日本では、依然としてディーゼルの人気が高く、ティグアンやパサートも好調に売れています」という。

日本国内のディーゼル人気を支える要因に、エコカー減税もある。日本で売られるクリーンディーゼルは、燃費数値などに関係なく、「クリーンエネルギー自動車」として自動車取得税と同重量税が免税になるからだ。

消費税率が10%に高まると、自動車取得税が廃止されて新たな環境性能割を施行するが、クリーンディーゼルの免税は継承される。自動車重量税も今と同じく免税だ。そして輸入車は価格が全般的に高いので、自動車取得税の税額も増える。

例えばメルセデス・ベンツE300ステーションワゴンアバンギャルドスポーツは、消費税8%の価格が893万円で、自動車取得税は22万3200円、自動車重量税は4万9200円だ。合計すると27万円を超える。

これがクリーンディーゼルなら免税だから、ディーゼルの価格がガソリンに比べて30〜40万円高くても、実質的な負担はほとんど変わらない。購入後に余裕のある動力性能を味わえて、燃料代も安くなれば、ディーゼルが明らかに買い得だ。

このような税制も影響して、日本ではディーゼルの人気が高い。今後も高機能と税金の安さは、メリットであり続ける。

従って日本では、VWがディーゼルを充実させる価値も高いわけだ。

ディーゼルへの視線 長所/短所を冷静に

販売店では「導入が遅れたこともあって納期が不明瞭な状態にあります。早ければ消費増税前の登録も可能だが、何ともいえません」

「それでもパサートなどではTDIの人気が高く、お客様の需要に対して供給が追い付かない可能性がある」という。

ディーゼルエンジン搭載のフォルクスワーゲン・パサート。

ディーゼルに対する風当たりの強い昨今ではあるが、技術には必ず長所と短所がある。

重大な短所を抱える場合、規制を設けてそれが露呈しないようにすることは大切だが、技術の否定はすべきではない。長所まで詰み取ってしまうからだ。

日本における乗用車のディーゼルは、規制によって一度は途絶えていた。それがマツダが力を入れたことで復活している。馴染みのあるVWゴルフにも用意されたことで、ディーゼルのイメージがさらに変わるかも知れない。