JR東日本が最高360km/hの営業運転を目指して計画した新幹線試験車両のE956形電車「ALFA-X(アルファエックス)」全10両が完成。運転室から見えたのは、かすむほど遠くにあるように思えた「鼻」の先端でした。

新青森寄り先頭車は「ほとんど鼻」

  JR東日本が2019年5月9日(木)、新幹線のE956形試験電車「ALFA-X(アルファエックス)」を車両基地の新幹線総合車両センター(宮城県利府町)で報道陣に公開しました。5月から走行試験が始まります。


10両編成のE956形「ALFA-X」。手前の新青森寄り先頭車(10号車)はノーズの長さが約22mあり、客室が小さい(2019年5月9日、草町義和撮影)。

「ALFA-X」は最高速度360km/hでの営業運転を実現するため、JR東日本が開発した10両編成の試験車両です。現在の東北新幹線の営業最高速度は320km/h(宇都宮〜盛岡)ですが、「ALFA-X」はこれを40km/h引き上げることを目指し、地震発生時に列車を早く停止させる機能や車体の揺れを抑える装置、騒音を軽減させる形状などを検証します。

 公開されたのは「ALFA-X」の外観と運転室。車体の塗装はメタリックをベースに、側面の上下には緑の帯を配置しています。1、3、7、10号車は上下の帯を交差させてアルファベットの「X」を表現。5号車はこれに「ALFA」のロゴマークを組み合わせて愛称を表現しています。

 編成両端の先頭車はノーズ(鼻)を長くした流線型ですが、その長さと形状は、東京寄りの1号車と新青森寄りの10号車で大きく異なります。1号車は「はやぶさ」などで使われているE5系電車のノーズ(約15m)より少し長い程度で、その後ろにある客室もE5系と同等の空間を確保したといいます。


1号車のノーズはE5系より少し長い約16m。

「ALFA-X」のロゴが描かれた5号車。

10号車の運転室からの景色。ノーズの先端が遠くに見える。

 一方、10号車のノーズは1号車より約6m長い約22m。そのため、後方にある客室は大幅に縮小され、「ほとんど鼻だけ」という状態です。運転室から前方を見ても、ノーズの長さの違いがよく分かります。10号車の運転室から見たところ、ノーズの先端が少しかすむほど遠くに感じました。

非常用の空力ブレーキも「復活」

 列車が高速でトンネルの入口に進入すると、進入時に発生した圧力波がトンネル内を伝わって、反対側の出口で大きな騒音と振動(トンネルドン)が発生します。ノーズを長くすればするほど圧力波を抑えることができ、騒音も軽減できますが、その分、客室に使えるスペースが減ります。


中間車は車両によって窓の大きさが異なる(2019年5月9日、草町義和撮影)。

 そこでJR東日本は、「ALFA-X」の1号車と10号車でノーズの長さや形状を変え、比較検討を行うことにしました。ノーズの短い1号車では、E5系と同等程度の客室スペースを確保しつつ、圧力波をどこまで抑えられるかを調べ、10号車はノーズを最大限まで長くして環境性能を追求するといいます。

 中間の2〜9号車も、車両によって窓の大きさを変えており、特に5号車は窓がほどんどありません。これは窓の有無や大きさによって客室環境などがどう変わるかを調べるためといいます。

 JR東日本は2005(平成17)年にも、最高360km/hの営業運転を目指した新幹線試験車両として、E954形電車「FASTECH 360 S」とE955形電車「FASTECH 360 Z」を開発。両車の試験結果を反映させた東北新幹線用のE5系電車と秋田新幹線乗り入れ用のE6系電車が2011(平成23)年から2013(平成25)年にかけてデビューしましたが、コスト面などの課題があったことから、営業最高速度は320km/hに抑えられました。

 JR東日本は「ALFA-X」を使った試験を行い、再び360km/hの営業運転を目指すことに。「FASTECH 360」の大きな特徴だった、「ネコミミ」こと非常用の空力ブレーキ(車両から板を出すことで空気抵抗を増やして速度を落とす装置)も、「ALFA-X」で再び搭載されています。

「ALFA-X」の走行試験は2022年3月まで、東北新幹線の仙台〜新青森間を中心に週2回程度、夜間に行われる予定。まず2019年5月10日の深夜に仙台市内を走り、5月中には試験運転の区間を仙台〜新青森間に広げます。最高360km/hまでの走行を行うほか、最高400km/hの走行も数回程度行われる予定です。