光発電で世界最高精度、年差±1秒の腕時計がシチズンから
シチズンが、光発電では世界最高精度の年差±1秒を実現した腕時計を発表しました。電波塔や人工衛星から発信される時刻情報に頼ることなく、定期的な電池交換も必要とせず、わずかな光さえあれば正確な時を刻み続けます。

我々にとって身近な存在のクオーツ式腕時計ですが、その仕組みは水晶に交流電圧を加えると一定の周期で規則的に振動する特性を利用して、正確な時間を得るというもの。従来は持ち運びが困難なほど大きかったこの水晶振動子を、音叉型と呼ばれる新たな構造で小型化し、腕時計の中に世界で初めて収めたのが、1969年12月に諏訪精工舎(現在のセイコーエプソン)から発売された「セイコー クオーツアストロン 35Q」でした。その価格は45万円。ちなみに当時、トヨタの「カローラ」は50万円台で販売されていた時代です。その後、時計技術者たちの多大な苦労と挑戦によって小型化と低価格化が進み、時計は今や100円ショップでも買える時代になりました。

ゼンマイで動く機械式腕時計と比べればはるかに正確なクオーツ式腕時計ですが、水晶振動子は温度や重力などの外部要因によって周波数が変化し、これによってクオーツ式腕時計でも僅かながら誤差が生じます。一般的な腕時計であれば1年間に十数秒から30秒程度、正確な時間から遅れたり進んだりするのが普通です。

年差±1秒という目標を掲げたシチズンは、一般的なクオーツ式腕時計に搭載されている音叉型水晶振動子に替わり、携帯電話から自動車まで様々な工業製品に搭載され、タイミングデバイスとして機能している「ATカット型水晶振動子」を採用することに決めました。腕時計用の音叉型水晶振動子が、25℃付近で温度係数がゼロになるような角度で切り出されている(だから腕から外して寒い部屋に放置しておくと遅れたりします)のに対し、ATカット型水晶振動子はシチズンの提示したグラフによれば-20℃から+60℃あたりまで安定しています。つまり、季節や朝夕の寒暖差による影響を抑えることが可能になります。また、中空で"脚"が大きく振動する音叉型水晶振動子は姿勢変化や重力加速度による影響を受けやすく、時計の向きを変えるだけで僅かな誤差が生じますが、ATカット型水晶振動子は"脚"がないので、姿勢変化による影響もほとんど受けません。



しかし、水晶振動子がいくら正確でも、我々が実際に目にするのは、電子回路によって制御され、機械によって回転する針の動きです。シチズンはこのムーブメントのIC回路に、1分ごとに温度を計測し、温度変化によって生じる水晶振動子の周波数の変化を補正する「温度補正機能」や、衝撃を受けると瞬間的にローターをロックして、針ズレを防止する「衝撃検知機能」、そして一定時間ごとに針の位置をチェックし、ズレを確認すると自動的に針を正しい位置に戻す「針自動補正機能」などを搭載しました。直流磁界4800A/mまで耐えられる「JIS1種耐磁性能」も備えます。



通常はプレスや切削加工で製造される歯車やバネなどの部品も、LIGA工法(微細構造物形成技術:フォトリソグラフィと電鋳を利用した加工技術で、極めて高精度な部品や微細形状の部品の製造が可能)によって、さらに高精度に製造されています。また、形状の特殊なバネを歯車に組み込んだ「三番戻し車」を開発し、歯車の進行方向と逆の方向に押し付けることでバックラッシュ(歯車が噛み合う際にできるあそび)を抑制しました。これによって針はブレることなく、文字盤に描かれた切分の同一線上にぴたりと重なりながら、1秒1秒を刻み続けます。



この「美しい1秒」を表現するため、シチズンはぎりぎりまで長くデザインした真鍮製の秒針を採用しました。その先端がゆるやかな放物線を描いているのは、「秒針と切分が互いに1秒の純度を求め合っているかのような美しさを表現」したとのこと。通常のアルミ製秒針より重い真鍮針を正確に動かすため、パワフルな専用の高保持トルクモーターも開発されました。



通常の音叉型水晶振動子(3万2768Hz)の250倍以上にあたる838万8608Hzで振動するATカット型水晶振動子は、当然ながら消費電力も大きくなります。さらに温度補正機能や衝撃検知機能、針自動補正機能、そして真鍮製の秒針、これらをシチズン独自の光発電「エコ・ドライブ」で長時間駆動させるためには、徹底した省電力化が必要でした。その結果、一度フル充電すれば約6カ月間(パワーセーブモード時は8ヶ月間)、暗闇でも動き続けることが可能になりました。

この「Calibre 0100」と名付けられたムーブメントを搭載する腕時計は、シチズンの最高峰ブランド「ザ・シチズン」から3種類のモデルが発売されます。ホワイトゴールド製のケースにアイボリーの文字盤、ブラックのワニ革ストラップを組み合わせたモデルは世界限定100本のみで価格は180万円(税別)。



純チタニウムに表面硬化技術デュラテクトを施したシチズン独自のスーパーチタニウムをケースとブレスレットに採用したモデルは、金属製のブラック・ダイヤルが世界限定500本。白蝶貝の文字盤は世界限定200本。価格はどちらも80万円(税別)となっています。



電波時計なら数千円で買えるのにとか、機械式の高級ブランド時計に比べたらイバリが効かないとか、人によって思うところは色々あるでしょう。しかし、真っ当な時計メーカーとして、精度に挑戦しようとするの自然なことです。簡単に買える値段ではありませんが、せめて機会があれば店頭で、技術者魂が込められた時計の針が、世界最高精度の正確さで1秒ごとに動く様子を、実際にこの目で見ておきたいものです。発売は2019年秋。特定店のみの取り扱いとなります。