事故物件に5軒連続で渡り住んでいる「事故物件住みます芸人」松原タニシさん(筆者撮影)

「過去に人が事件や事故で亡くなった賃貸物件、通称『事故物件』は安く住むことができる」

という噂を聞いたことがある人は多いだろう。ただ実際に不動産屋で

「事故物件に住みたいんですけど!」

と聞いたことがある人は少ないのではないだろうか。

新宿で事故物件を借りたい

今回は、事故物件に5軒連続で渡り住んでいる、松竹芸能所属の「事故物件住みます芸人」松原タニシさんと一緒に、実際に事故物件を借りに出かけてみた。

松原さんが登場した『「事故物件住みます芸人」が見た壮絶な現場』(2018年2月12日配信)は、多方面から大きな反響を得た。そして6月に出版した自身の事故物件経験をつづった単行本『事故物件怪談 恐い間取り』は、1カ月あまりで11版を重ねる大ヒット作品になっている。世の中の事故物件に対する注目の高さがうかがい知れる。

前回のルポを参照してもらいたいが、松原さんはこれまでに5軒のさまざな事故物件に住んできた。

そして現在は関西と関東に2軒の物件を借りている。

「関東の物件を借りてそろそろ1年になるので、新しい物件を借りようと思ってるんですよね。交通の便の悪い場所だったので、新しい物件は東京の都心部がいいなと思っています。深夜バスで移動することが多いのでバスタ(新宿高速バスターミナル)のある新宿を狙っています」とのこと。

さっそく、新宿の雑居ビルに入っている不動産屋に入ってみた。自社では物件を持たない「不動産仲介業者」にあたる。

松原さんは担当についた男性に

「事故物件に住みたいんですが」

と正直に切り出した。担当者は少し困った顔になった。
しばらくやり取りをした後、奥からベテランっぽい人を連れてきた。いかにも“デキる”雰囲気の不動産屋さんだ。

「告知事項あり」物件はかなり特殊な探し方になる

「いわゆる事故物件を示す『告知事項あり』の物件のみを探す、というのはかなり特殊な探し方になるんですよ。そもそも『告知事項あり』というのは避ける物件なので、あえて探す機会は少ないんです。

不動産屋によっては『そういう探し方はできません』と断られる場合もあると思います。ただ私は不動産業界が長いので、調べ方を知ってますけどね」

そう言うとニヤリと笑って、パソコンにガガガガッとデータを打ち込んだ。さすがベテランである。


松原タニシ(まつばら たにし) /1982年生まれ。松竹芸能所属のピン芸人。 現在は「事故物件住みます芸人」として活動。 これまで大阪、千葉、東京など6軒の事故物件に住む。 日本各地の心霊スポットを巡り、インターネット配信も不定期に実施。事故物件で起きる不思議な話を中心に怪談イベントや怪談企画の番組など多数出演(写真:筆者提供)

調べているのは不動産仲介業の免許がないと見ることができないサイトだ。そのサイト内で客に紹介できる、全国の物件がほぼすべて載っているという。

つまり、不動産仲介業者で物件を紹介してもらう場合、基本的には日本全国どこの業者に行っても同じデータが参照されるのだ。

良い物件が探せるかどうかは、担当になった人のやる気やスキル次第である。

「『事故物件でいいから安い物件探してくれ』という人っていないんですか?」と松原さんが尋ねた。

「う〜ん。いないわけではないですけど、そういう人は少ないですね。むしろ『告知事項あり物件』ということを知らないで来る人が多いです。値段や条件を見て『借りたい』と言ってくるのですが『人が亡くなっている物件ですけどいいですか?』というとほとんどの人が帰られますね」

告知あり物件の多くは、人が亡くなった物件が多いが、それ以外の物件もあるという。

たとえば、アパートに住んでいて隣室の住人がひどいクレーマーであり、それを苦に引っ越した場合、新しい住人には「隣室にクレーマーがいます」と告知しなければならないという。

また、近隣に暴力団関係者が住んでいる場合も住人に告知しなければならない。ただし新宿・歌舞伎町のように暴力団関係者がいることが前提の街だと、問題にならないこともあるようだ。

「ちょうど今ある珍しい告知あり物件だと、『地盤沈下』の物件がありますね。家賃は下がってますけど、その代わり最長5年までしか住めない。ドアの開きが良くないなど、悪い点がありますね。ずっと傾いた家に住んでいると体調を壊すこともありますし、最悪の場合、倒壊の恐れもあります」。それは人が亡くなった事故物件より、よっぽど実害があるような気がした。

「検索した結果『告知あり物件』で家賃が7万円までで募集している物件は、東京都内で44軒ありました」

都内で44軒は正直少ないように感じた。

後から聞いた話だが、事故物件で値段が安くなった物件には、生活保護で生活する人が入居する場合があるという。

たとえば野宿生活者(通称ホームレス)が入居する場合、半強制的に物件が選ばれるため、そこが事故物件であることなど関係なく安い物件から選ばれることが多いらしい。

高い物件ほど凄惨な事件が起きやすい理由

もし値段の制限をつけなければ、もっと見つかったのだろうか?

「高い物件でも『告知あり物件』はありますよ。私見ですけど、凄惨な事件は高い物件で起きている印象があります。殺される人って人に殺されるくらい恨まれてるわけじゃないですか? そういう人ってお金稼いでいるんですよね。だから高い物件に住んでいる可能性が多い」

納得できるような、できないような話である。ただし、実例もあるという。

「東京でも有数なセレブな街で、駅前の15階建てのマンションの最上階1LDKの部屋の家賃が、月額18万円から13万円に値下げになっていたんですよ。5万円の値下げはすごいですから話を聞いたら前の住人、部屋の中でバラバラにされていたらしいですよ。相当恨まれてたんでしょうね」

その部屋はさすがになかなか借り手がつかなかったという。

また確かに事故物件であると告知はしているのだが、あまり安くなっていない物件も多かった。

「死体の発見までにどれくらいかかったかによりますけど、普通は5000円から1万円くらいの値引きですね。他殺や陰惨な事件だと2万円ほど安くなる場合があります。

通常は人が亡くなった部屋のみが安くなりますが、大きい事件だと建物全体の値段が安くなりますね。たとえばビルの地下のスナックで火事が出て、そのときスナックにいた人のほとんどが亡くなる大惨事があったんですが、その場合はビル全体が事故物件扱いになりましたね」

またどれだけ悲惨な事件、事故があったとしても、家が取り壊されて、いちから家が建てられた場合はチャラになる場合が多いという。

結局「5年前の大晦日に、住人が窓から飛び降りて自殺した部屋」などをいくつか紹介してもらったが、場所、価格で折り合いのつく部屋は見つからなかった。

いろいろあって、その不動産仲介業者ではない不動産屋の紹介で、オススメの事故物件を見せてもらうことになった。

若くてイケメンな不動産屋さんに部屋を案内してもらう。

新宿駅から2駅、駅からも近い場所にある6畳のワンルーム(ロフト付き)のアパートを内見させてもらえることになった。

僕も松原さんについていき、一緒に見させてもらった。

室内に入ってみる。床はフローリングで、まだ新しい。血のシミはもちろん、生活の汚れもない。臭いもない。

ロフト部分の天井は低いがとても広く、荷物をたくさん置くことができそうだった。

ただ、そのロフトで首を吊ったらしい。気になる人は、気になるかもしれない。

「これなら住んでもいいかな?」

と思うかもしれない。

2度、特殊掃除の現場を取材して…

ただ、僕は少し抵抗がある。

僕は2度、特殊清掃の現場を取材したことがある。どちらもかなり死体は傷んでおり、死体から出た液体が床を侵食していた。

頭蓋から剥がれた頭皮が髪の毛とともに、現場に残されていた。

1部屋は和室だったが、ベッドから垂れた液体は、畳に侵食し、そのまま床板まで染み渡っていた。アパートの2階だったのだが、もうしばらく発見が遅ければ1階に液体が垂れている可能性が高かった。

実際、液体やウジが天井から落ちてくるのを発見して、室内で人が死んでいるのがわかるケースが和室の場合はよくあるそうだ。

もう1軒は洋間だった。コンクリート製のアパートの1階で床はフローリングではなく、クッションフロア(塩化ビニールシート)だったため汚れた部分だけをカッターナイフで切り取って剥がせばよかったので、施工自体は楽だった。死体が倒れていたとき、頭が壁に当たっていたため、壁にも液体がついていたので、壁紙も剥がした。

クッションフロアを剥がしてしまえば、床はコンクリートだったため清掃はすぐに終わったが、和室と違い洋間は気密性が高い。

強烈な臭気が部屋にこもってしばらくは呼吸ができなかった。

気密性が高いのに、どこから入ることができたのか、室内には大量のハエがいて、殺虫剤をまいてもまいても、なかなかいなくならなった。

清掃を終えると臭いは薄くなったが、やはりそれでも消えない。殺菌作用の強い次亜塩素酸水を部屋中に撒き室内を消毒し、オゾン消臭器を数日間かけてやっと消える。場合によってはそれでも消えないことがあるという。

そういう事実を知っているので、パッと見が綺麗になっていても、どうにも安心できないのだ。ただ、松原タニシさんの場合は、住み始めてから起こるトラブルこそが飯のタネだ。

この部屋は、逆に綺麗すぎて不満な様子だった。家賃は5000円値引きされて5万5000円だった。その地域の相場と比較すると安めだ。

松原さんも、

「まあ、ここでいいかな? 」

という気持ちになったとき、不動産屋さんが口を開いた。

「あの、オススメはできないんですけど……。もう1軒、事故物件があるんですが」と、いかにも苦しそうな表情で話す。

「かなりヤバい部屋があるんです。場所は新宿の一等地なんですけど、すごい嫌な感じがして、正直僕は行きたくないんですが……。すでに予約は入っているのですが、中国の人なんです。オーナーはできれば日本人に入居してほしいと言っているので、入りたいと言えばねじこめると思います」

松原さんは聞くやいなや

「内見させてください!!」とお願いしていた。

担当者は苦悶に満ちた表情のまま、「ヤバい物件」に向けて車を走らせた。

その物件の住所をスマートフォンの地図アプリに打ち込んでみると、本当に新宿の一等地にあった。最寄り駅から徒歩1分である。

そして部屋は12畳(キッチン含む。部屋は10畳ほど)で月6万円という破格の値段だった。もともとは8万円の家賃が2万円も安くなっているのだ。

とんでもない亡くなり方でもしているのですか? と聞くと

「50代の男性が首吊り自殺をしています」

と言われた。

もちろんショッキングな話ではあるが、条件で言えば先ほどのロフト付きアパートと同じである。

なぜそんなに安いのだろう? と考えているうちに物件に着いた。

ビルの1階部分はレストランだった。ビルの外壁には看板が出ていたのだが、すべて外国語で書かれていて読めなかった。

共用スペースの壁はホラー映画のように汚れている。

ボタンを押すと、ボロボロのエレベーターが、ゴウン……ゴウン……と騒音を出しながら降りてきた。


入り口のすふまいっぱいにポスターや写真が貼ってあった(筆者撮影)

物件のある階に到着する。隣の部屋には、中国語の看板が出ていた。

どうやらマッサージ店のようだ。

後で知ったのだが、1階下にはヨーロッパ人が営む喫茶店が営業していた。国際色豊かなビルである。

室内に入って「ええ?」と思わず声が出てしまった。事故物件うんぬんの前に部屋としておかしかったのだ。

入り口のふすまにはビッチリとポスターや写真が貼られていた。大きいキリンのポスターが貼られていたのが印象的だった。

キッチンはペンキで真っ黄色に塗られていた。ヒューズボックスは真緑に塗られ、外国人のヌードポスターが貼られていた。

「自殺したおじさん、アーティストだったみたいですね……」と、松原さんがつぶやいた。

室内は確かに広かった。新宿で10畳の部屋に住める人とはなかなかのセレブリティな気分だ。

部屋には窓が3つあったが、この窓もおかしかった。まず窓枠が真っ赤に塗られていた。そして1つの窓は床スレスレの場所にあった。床にある窓なんて今まで見たことがない。


窓枠が真っ赤な窓。なぜか床すれすれにも窓が(筆者撮影)

そしてすぐ隣の高い位置にも窓があった。こちらはなぜか鉄柵がしてある。そしてこちらは押しても引いてもまったく開かない。開かずの窓だ。意味がない。

そしてメインの窓はとても大きくて、気持ちが良かった。しかしこの窓が途中までしか閉まらない。どうやら窓枠か部屋自体がゆがんでいるらしい。

階下からゴーッという換気扇の音が聞こえてきた。しばらく後に、肉を焼く臭いが漂ってくる。1階のレストランが営業を始めたらしい。

押入れは真っ白にペンキで塗られ、天袋のふすまは外されてどこにもなかった。

お風呂兼トイレに行くと、現在リフォーム中で壁に大きな穴が開いていて、配管が丸見えになっていた。ただこれは業者がしっかりと直してくれるのだろうから問題はない。

問題は壁にあった。


無数のキリンのスタンプ(写真:筆者撮影)

キリンのスタンプが無数にペタペタと押されていたのだ。

「え? ここにもキリンが?? 何これ……」

さすがに松原さんも少し動揺しているようだった。その様子をみて、不動産屋さんが、

「ね、やっぱりさすがにヤバい物件ですよね、ここは……。僕、1人だったら入れませんもん。やめときますよね?」

というとやはり間髪入れず、


「いや、ここに住みます!!」と答えた。不動産屋さんは目を丸くして「ええ? 本当ですか?」と驚いていた。

契約をするために、不動産屋の事務所に戻ると、中から別の職員が飛び出てきた。

「事務所に入らないで!! そこで止まって!!」

と怒鳴られる。職員は手に白い袋を持って近寄ってきた。そして僕らに、バサーっと塩を振りかけた。

「いやあ、何かあってからでは遅いですからね。たっぷり塩をかけたから、もう中に入っていいですよ」と言われた。いやいや、物件見せてもらって塩かけられることってありますか?

無事契約、新たな事故物件の住人に

そして松原さんは無事契約を済ませ、新たなる事故物件の住人になることができた。

しばらく経った後に、住み心地はどうなのか聞いてみた。

●部屋にクーラーがないため、死ぬほど暑い
●リフォーム業者が手抜きをして、施工の際に出た瓦礫を風呂桶の下に隠していった。そのため階下のヨーロッパ喫茶のキッチンに水漏れして大変だった
●何もいじってないのに、テレビのチャンネルがパチパチと変わる
●屋上に開かずの間があるのを発見した

と、順調に不可解なことや、困ったことが起きているようだ。

松原さんと一緒に行動して、

「頑張れば事故物件に住むことができる」
ということがわかった。

興味がある人は不動産仲介業者で、

「事故物件に住みたいんですけど?」

と聞いてみてはいかがだろう。