macOS Mojaveの基調講演では語られなかった秘密に迫る(本田雅一)
![macOS Mojaveの基調講演では語られなかった秘密に迫る(本田雅一)](https://image.news.livedoor.com/newsimage/stf/0/7/07936_1186_2ad5f6f2_a03b716d.jpg)
今回は、いくつか筆者が疑問に感じていた部分についての、アップル側の回答を紹介しましょう。
実は"すごく芸コマ"なDarkモード
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▲Xcodeでのソース編集も見やすく、と紹介した時には歓声も上がっています
「えっ?表示の色が変わるだけ?」
はい! そこのあなた! まったく同じ事を、サンノゼコンベンションセンターの会場で思っている人はたくさんいましたよ。なにしろ、昔のブラウン管時代、多くのコンピュータはほとんどDarkモードで動いていましたからね。
年寄りも多いMac系デベロッパーの中には、MacOS Xが生まれるはるか前、1994年にアップルが発表した当時の次期Mac用OS計画「Copland Project」のアピアランスマネージャーを思い出した人もいるでしょう。
......と、懐かしい話はともかく、開発版をインストールしているWWDC参加者のMacBookを見せてもらうと、その見た目はなかなか魅力的なものでした。
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▲基調講演の紹介では、時間に合わせてこのように壁紙の昼夜も変化していました
まず目に付くのは、時間とともに連続的に変化する壁紙です。基調講演では、同一箇所と思われる風景写真が、時刻に合わせて朝から夜へと変化していました。
この変化が演算によるものなのか、あらかじめ複数の写真をひとまとめにしたものなのかは質問し損ねましたが(ごめんなさい)、ウィンドウを始めとする様々なユーザーインターフェイス要素は、従来の白を基調とした配色のLightモードとDarkモードのふたつのモードのみで、その間のグレーはありませんでした。
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▲写真編集などでは意外なほど見栄えが異なってきます
Darkモードでは写真や動画などのコンテンツがより引き立って見えるなどの効果があるとのことですが、これは写真現像ソフトなどでも暗い背景を用いた全画面モードを持っていたりするため、効果が想像できる人は多いでしょう。
昼と夜では使う環境、部屋の照明環境などが変わることもあるので、時間連動で自動的に切り替える設定にもできますし、同じような照明環境下で使う人、好みが確定している人などはいずれかに固定しておくこともできます。
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▲変化がわかりやすいのは右のカレンダー。黒地に紫やオレンジ系での強調といった、ネオンサイン的な色調になります
このDarkモードが「新機能」として紹介されているのは、実は単なる一般的な視覚効果のカスタマイズのみならず、幅広い範囲で明るさが変化し、画面全体のバランスを取っているためです。単にストップライン(ウィンドウ上部のバー)やスクロールバー、メニューバーなどの配色が変わるだけでなく、アプリケーション全体の色調がバランス良く変化します。
たとえば、カレンダーに登録した予定も、ダークモードではまるで夜のネオンサインのようになり、地図もまるでカーナビの夜間モードのように様変わりした表示になるというわけです。
ではサードパーティー製のアプリケーションはどうなるんでしょう? トリッキーなプログラム作成をせず、AppKitの機能でユーザーインターフェイスを構築しているならば対応できるというのがアップルの説明でしたが、アプリケーション側は少なくとも、それぞれのモードに適した配色を要する必要がありそうです。
また、この回答では、言い換えればイレギュラーな開発方法をしている場合はその限りではないということです。Windows版とのクロス開発ツールを使っている場合など、あるいはDarkモード時に配色バランスが思い通りにならない場合もあるかもしれません(もっとも時間が解決するでしょうが)。
iOSとmacOS統合にあえて
No.を打ち出した意味合いとは
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▲このNo.は天から降ってくるアニメーション効果付き。思いっきり強調されていました
今回の基調講演において、Mac関連でもっとも注目を集めたのは「iOSとmacOSは統合されない」というメッセージでしょう。アップルは"噂"に対しては、何の答えもしません。あらゆる噂に対して沈黙する会社ですから、今回例外的に、わざわざ声明を出したことに驚いた人もいるのではないでしょうか。
では、なぜわざわざ統合の噂に対して「No」と応えたのでしょう?
アップルの担当者は「iOSの利用者が増加しiPadの適応範囲が拡がってくると、macOSがなくなるのでは?という噂が拡がってきました。"本当になくなるの?"という不安をMacのユーザーに与えたくありませんし、開発者にもmacOS向けのソフトウェア開発を躊躇する必要はないというメッセージを与えたいと考えたからです」と応えています。
基調講演でも話していましたが、iOSデバイスとMacは、それぞれ得意分野、使われるシーンや目的が異なります。もっとMacが使いやすくなるよう、macOSに工夫を施していくことこそあれ、辞めてしまうことなんてありませんよ! というのが、今回のメインメッセージだったわけです。
Mojaveの新機能は、Macの機能性を根本的に改革するようなものはありません。なにしろMacOSは30年以上をかけて熟成させてきたものですし、そもそもパソコンという道具そのものが成熟したジャンルなのですから。
しかし、それでもなお使いやすさに関して磨き上げる要素を見つけながら工夫していると見るなら、今回のアップデートへの見方も変わるのではないでしょうか。
macOS上でのiOSアプリ動作、
UI設計はどうする?
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さて、そんな想いが込められているMojaveの新機能で、いちばん「どうなってるの?」という疑問が湧いているところ。それは、iOS向けに開発されたアプリをmacOSでも動かせるようにする、という部分です。
iOSアプリはタッチパネルを用いたユーザーインターフェイスが用いられますが、Macにはタッチパネルはありません。キーボードとマウス(トラックパッド)を使って操作しますから、画面レイアウトから操作手順から、あらゆることが違います。
スクロールバーの有無もありますし、そもそもiPadに画面分割モードがあるとはいえ、基本的に画面サイズ、縦横比の自由な変化は考慮されていないことがほとんどです。また操作に関しても、例えばドラッグ&ドロップはiPadとiOS 11で可能となったものの、対応アプリは限られる状況です。
こうしたユーザーインターフェイス要素は、macOSではAppKit、iOSではUIKitというクラスライブラリが受け持っています。そこでUIKitをmacOSでも動作するよう移植することで、iOS向けに開発されたアプリをMacでも動かそうというのが、今回の発表の骨子です。
もちろん、iOSデバイスはARM、Macはインテルのプロセッサを使っていますから、Mac用にコードは生成する必要があります。ではXcode上では、ユーザーインターフェイス設計はどうするのか?
現時点ではアップル社内で使われているだけのため、来年、一般の開発者に公開されたときにどうなるかはわかりませんが、アップルの担当者によると、現在はXcode上でiPad向けアプリとして設計したものを、macOS向けに再コンパイル(プログラム実行用バイナリファイルの再生成)するようになっているとのこと。
ここから先は推測ですが、背景としてiPadアプリでスプリットウィンドウをサポートするようにしたことも、macOS向けに再コンパイルできるようになった理由かもしれません。
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▲基調講演でもSneak Peek、つまり"予告"である点を強調していました
ただし、iOSデバイス向けのアプリは数100万の単位で存在します。それらのすべてが、再コンパイルしただけで、macOS上のUIKitで正常に動作するのか?と言えば、そこには様々な問題が横たわっているに違いありません。もちろん正常に動作しないケースもあるでしょう。
そこで今年は「自分たちで毒見をする(アップルの担当者談)」意味で、iOSの代表的なアプリをいくつかmacOS上でも動作する形で再設計したわけです。その開発を通してmacOSでも互換性のあるiPadアプリの設計ノウハウを溜め、WWDCやデベロッパーネットワークを通じて発信することで、来年以降の一般公開に備えようということですね。
一般論として、生産性を高めるツールはMacのようなパソコン用アプリケーションの方が使いやすいものですが、ウェブサービスを受け身で使ったり、特定の情報を集めて整理、表示したり、決まったシナリオの中で選択肢を選んでいくことで結果を得るようなアプリケーションなどは、iOSデバイスの方が使いやすいものです。
"パソコン"という意味では、MacもWindowsパソコンも、その生産性に大きな違いはなくなってきていますが、iOSの数100万というアプリがMacでも利用可能になるのであれば、Macならではの大きな魅力へとつながっていくかもしれません。
また開発者側から見たビジネス機会として考えても、macOSとiPadの両方が顧客ターゲットとなりうるため、アプリマーケットの活性化という面でも魅力的となるのではないでしょうか。
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▲一般開発者向けの公開は2019年となります
もちろん、この取り組みはまだスタート地点。きちんとこのプロジェクトが機能するかどうかは、来年の一般開発者向け公開を待つ必要があります。
便利なiOS連携機能は
カメラにまで拡大
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もうひとつ。iOSデバイスの大きなモメンタムを、Macの魅力へと繋げる取り組みが「Continuity(コンティニュイティ)」です。
Continuityは、これまでアップルのウェブページ上で「連携」と訳されていましたが、WWDCで日本語訳を担当している方に尋ねると、今回はあらかじめ「コンティニュイティ」とカタカナ語で訳すようにして欲しいと依頼があったそうです。
コンティニュイティは新しい機能ではなく、以前から存在しているiOSデバイス、Mac、Apple Watchなどのアップル製品を、ユーザーに特別な設定や作法を強いることなく連携させるための複数機能のことです。
具体的には、閲覧中のウェブページや作業中の文書作成などをデバイス間で引き継げるHandoff、Apple Watchによるログイン、デバイスを跨がってコピペできるユニバーサルクリップボード、FaceTimeのインフラを使った通話連携、iMessageを用いた複数デバイスに跨がったSMSの送受信、同じくデバイスを跨がった単一プラットフォームによる決済を実現するApple Pay、ファイル転送のAirDropが該当します。
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▲macOS上から「Take Photo」コマンドを選ぶとiPhoneのカメラが自動的に起動。撮影すると自動的にMac側に写真が転送されます
今回、これにカメラが加わります。
これまでも、iPhoneで撮影した写真をコピーし、macOS上でペーストすれば、ユニバーサルクリップボードを通じて写真をペーストできました。しかし、今度はMacから直接、iPhoneのカメラを呼び出して撮影ができます。しかも、iOS12で追加されるドキュメントモードを使えば、書類を簡単に取り込むこともできます。
つまりiOSとmacOSを統合するのではなく、iOSデバイスが持つ大きなモメンタムを活用し、知的生産性を高める道具としてのMacの魅力を高めようとしている、ということですね。
Web上のユーザー情報保護強化で
さらに安心して使えるOSへ
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▲今回の重要テーマの一つがユーザーデータの保護
さらにもうひとつ。エキサイティングな機能というわけではありませんが、"フィンガープリント"を追跡できないようにする機能や、利用者に許可なくウェブ上での行動を追跡するサイトを警告する機能が追加されます。正確にはOSではなく、Mojaveに搭載するウェブブラウザのSafariの機能として搭載されます。
フィンガープリントとは指紋のことですが、ウェブ開発者の世界では固有の端末を特定する"要約値"のことを言います。システムのスペックやブラウザに組み込まれているプラグインなど、さまざまな固有の情報をブラウザ経由で取得し、その特徴を"指紋"とすることで、どのPC、どのブラウザからアクセスされているかをサーバ側が認識する......というイメージです。
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▲意図しないサイトへの情報トラッキングが検出された状態。このような警告ダイアログが表示されます
ウェブサイトの中には、いいね!ボタンを押したり、コメントを残したり、あるいは何らかのボタンを押して意思表示する......といったユーザーの行動を追跡し、ユーザーが意図しないサーバに送信している場合があります。
Mojave版の新しいSafariでは、もしそうした行為を検出すると、利用者に情報を送信してもいいかどうかを尋ねるようになるとのこと。またホッピングという手法で、意図しないサイトに送り込まれるといった手法に対しても警告を発します。
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▲フィンガープリントに使われるデータも曖昧化。たとえばインストール済みフォントなどは、OS標準の書体のみを使うようになります
そしてフィンガープリント自体にもメスが入り、要約値を作るために使うデータを曖昧なものにすることで、フィンガープリントを不正確なものにマスキングするそうです。フィンガープリントを収拾している側は、利用者を特定することが困難になるため、そこで収拾したデータで何かをしたり、転売するといったことが不可能になります。
トランプ大統領が勝った選挙では、ネットで様々な情報操作が行われたと報道されていますが、ウェブで特定の発言や行動をしている一群に対して広告を打つなどのターゲティングで投票行動に影響を与えたと言われています。そうした行為も、Safariの対策によって困難になると期待できるでしょう。
なおSafariの機能として実装されるため、iPhone、iPadのSafariも、同様にフィンガープリントが曖昧になるそうです。
デスクトップアイコン整理や
新App Storeなど、基本機能も強化
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▲昨今のmacOSは自動整理機能を充実させていますが、デスクトップ上のアイコンにも適用されます
このほか、デスクトップ上のアイコンを分類してスタック(重ね合わせ)してキレイに並べ直してくれる機能も、デスクトップ上を日常的に散らかしている筆者のようなユーザーには便利そうですね。並べ替え方法は、数種類の分類方法から選択することができるそうです。
スタックされたアイコンはクリックすると展開され、そこでクリックするとそのアイコンが一番上に。そして一番上になった状態にすると、そのスタックをドラッグ&ドロップすることで、そのアイコン(書類)を扱うことができます。もちろん、複数アイコンの選択もできます。
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▲ファインダーのギャラリーモード表示はついに画像ビューワーのようなレイアウトに
さらにファインダーのギャラリーモードで、画像以外のファイルも含めてサムネイルが表示されたり、クイックビューで文書や画像、動画の簡単な編集が行えるようになったり、あるいはスクリーンショットの作成や、アプリ動作の様子を動画記録する機能なども入ります。
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▲App Storeもメニューなどが一新。iOS 11のStore的に、紹介記事などを前面に推し出すデザインです
さらにMac版のApp Storeが強化され、よりアプリの内容を詳しく把握できるようになるほか、マイクロソフトやアドビの加入型アプリケーションもMac AppStore経由で購入、アップデートなどの管理が行えるようになります。
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▲基調講演でサラッと発表されたその他の機能。「開く」「保存」パネルのデザイン変更など、実は使い勝手への影響が大きそうな箇所も
Mojaveベータ版の一般公開は6月下旬とのこと。すでに開発者向けにはリリース済みですから、近いうちにもっと多くの情報が揃ってくるはずです。使いやすさに関する感想やレポートは、そう遠くないうちに集まってくるでしょう。