「これからのロボット」像を予言する179.99ドルのおもちゃ「Cozmo」

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ちょこまかと動き回り、喜んだり怖がったり、すねたりする。投資家マーク・アンドリーセンが「最高のロボットスタートアップ」と評するアンキが手がけるオモチャのロボット「Cozmo」は、まるでピクサー映画『カーズ』に登場するキャラクターのようだ。感情をもつこのオモチャがいま、ロボット研究の可能性を大きく広げようとしている。

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ハンス・タペイナーは、自分のノートパソコンで数行のコードを書き、「return」キーを押した。彼のノートパソコンの背後には、まるでピクサーの映画『カーズ』に出てくるクルマのキャラクターのような小さなロボットがいる。「Cozmo」と呼ばれるこのロボットは、キーが押されたのとほとんど同時に目を覚まし、テーブルの上を走った。

Cozmoは、サンフランシスコを拠点とするスタートアップで、ロボティクス人工知能(AI)を採用したカーレースゲーム「Anki Drive」(日本語版記事)で注目を集めたAnki社(アンキ)が6月27日(米国時間)に発表した、AI搭載型のおもちゃロボットだ(10月、米国で179.99ドルで発売予定)。

タペイナーはアンキの共同創設者のひとりであり、この小さなロボットに新しい動作をさせるためにプログラムを書いている。

そのプログラムはシンプルだ。タペイナーはCozmoにブロックを積み重ねる方法も教えているが、そのコードも難しくはない。彼が使っているのはアンキのソフトウェア開発キット(SDK)で、経験の少ないプログラマーでもこのSDKを使えばこのロボットの動作を調整できるという。

同社はこのSDKを、誰もが「知性のあるロボット」──すなわち人の顔を認識し新しい環境に適応し感情を示すロボットを、プログラミングしてつくれる初めての製品だと言う。

「最高のロボットスタートアップだ」

「(このキットを使うことで)ぼくらはロボット工学を進化させようとしています」と語るタペイナーは、自身の取り組みを、iPhone向けアプリをユーザーが開発できるようにしたアップルのそれになぞらえる。

こうしたキャッチコピーは、シリコンヴァレー発の新しいアイデアによくつけられるものだ。だがアンキにはとりわけ大きな「お墨付き」がある。著名なヴェンチャーキャピタリストで、アンキが2013年に行った5,000万ドルの資金調達を主導したマーク・アンドリーセンは、彼らのことを「これまでに見たなかで最高のロボットスタートアップだ」と評しているのだ。

Cozmoが、クリスマスプレゼントとして靴下の中に入っていてもおかしくない180ドルのオモチャであることを考えると、アンドリーセンの発言は奇妙に感じられるかもしれない。だがその言葉が意味するのは、Cozmoが最先端の知性をもったロボットであるという事実である。

カーネギーメロン大学でロボット工学の博士号を取得したタペイナーと仲間たちは、この分野に関わっている多くの人々と同じように、ボストン・ダイナミクスが開発した数々のロボットを賞賛している。ロバや人間に似たこれらのロボット(日本語版記事)はカリスマ性を放っていると。

だがタペイナーは、このようなロボットが本当に役立つようになるまでどれくらいの時間がかかるのだろうかと問う。「ロボットが本当の意味で実装されるまでにはあと20年かかるのだろうか? ぼくらにならそれができる」。タペイナーはそう言うと、Cozmoを見てうなずいた。「本当に、信じられなくらいにうまくね」

さらにタペイナーは、Cozmoがロボットの未来に向けた土台を提供できると確信している。CozmoのSDKのような、子どもでも使えるツールを提供することは、新世代のロボット研究者の育成に役立つ可能性があるからだ。さらにこのSDKのおかげで、ヴェテラン研究者たちもこのロボットの核心部にアクセスできるようになる。それは現在のロボット研究の発展に役立つだろう。

「わたしたちが大学院にいたころなら」とアンキのCEOボリス・ソフマンは言う。「Cozmoの機能の10〜15パーセントしか実行できないプラットフォームにも1万ドル払わなければならなかったでしょう」

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ロボットの新しい「賢さ」

オープンソースロボティクス財団のCTOでヴェテランのロボット研究者であるネイト・ケーニグは、Cozmoのような安価だが柔軟で、多少の知性をもったデヴァイスは、新しい研究方法を提供するだろうと指摘する。「基本的な感情をともなったやり取りを人間と行うようにプログラムできるロボットは、どんなものであれ優れた研究ツールになります」

なぜCozmoよりはるかに賢いロボットがこれまで生まれてこなかったのか? ビジネスの世界では、ロボットはたいてい組立ラインで仕事をしているか、倉庫で荷物をあちこちに運んでいるからだ。これらのマシンは特定の作業に大きく特化したものだ。アマゾンの配送センターにはKiva Systems(現在のAmazon Robotics)が開発したロボットがあるが、それらは容器をピックアップして運んでいるにすぎない。休憩時間中に、チェスの遊び方を自分で学んだりすることはないのである。

それに対して現在開発されようとしているのは、環境に対応したり、自分で新しいことを学習したりすることができるロボットだ。

テキサス州オースティンにある研究所では、IBMがさまざまなロボットをIBM Watson」に接続し、ロボットが質問や要求を理解し、対応できるようにしている。米国防総省高等研究計画局(DARPA)の研究部門は2015年、多額の賞金を提供して、知性をもつロボットのコンテストを開催(日本語版記事)。さらにグーグルは現在、囲碁のトップ棋士を負かしたAI「AlphaGo」(日本語版記事)の進化に役立った強化学習技術を用いて、ロボットにさまざまな物体を拾い上げる方法を教えている。

また、カリフォルニア大学バークレー校の研究者は、AlphaGoのもうひとつの主要テクノロジーであるディープニューラルネットワークを利用して、ビンのフタを回す方法をマシンに教えている。ただし、これらのプロジェクトはいまのところどれも実験にすぎない。DARPAの壮大なチャレンジも面白い試みではあったが、つまずいたり、倒れたりするロボットも多かった。

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1/7Cozmoのプランニングは、ピクサーの映画制作のようにストーリーボード形式で行われた。
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2/7Cozmoの感情や反応のほとんどは、人間のそれに基づいている。アンキのスタッフたちがモデルとなった。
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3/7Cozmoは時間の経過とともに学習するので、同じ行動に対しても違う反応をするようになる。
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4/7Cozmoにとって、ブロックがオモチャだ。
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5/7Cozmoの口に隠されたカメラは人の顔も認識できる。
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6/7Cozmoの開発環境。
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7/7Cozmoには感情がある。「幸せ」「自信がある」「興奮している」といった異なる感情の組み合わせをもっていることが、このオモチャをユニークな存在にしている。
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未来という名のオモチャ

いくつかの点では、Cozmoがロボット研究の最前線に追いついていないところもある。まず、Cozmoはディープニューラルネットワークを利用していない。さらに、Cozmoには処理能力は求められていないのでインターネットに接続しておらず、遠隔でアップデートすることはできない。

だが、Cozmoは人間の顔を識別できる。きれいに並べられていないブロックでも、拾い上げて動かすことができる。そして、なんといってもCozmoには感情がある。テーブルから落ちそうになると、Cozmoは怖そうな表情を見せる。ゲームで人間に負けると、すねた素振りを見せてほかの遊び相手を探したりするのだ。

SDKのおかげで、研究者たちはディープニューラルネットワークをもつほかのAIエンジンにCozmoを接続できるようになるかもしれない。タペイナーによれば、アンキ自体がその可能性を探求することも考えているという。

最終的にはハードウェアが進化することで、Cozmoのようなロボットがクラウド上のビッグデータに接続することなく、ディープニューラルネットワークのようなAI技術を利用できるようになるだろう。グーグルやIBMといった企業は、すでにこの方向に舵を切っている。

たしかに、Cozmoはオモチャである。しかし同時に、これは未来でもある。その未来が訪れるのはまだまだ先かもしれないが、わたしたちはその未来をどこかで始めなければならないのだ。