リオ五輪「選ばれなかった」このU−23選手がJ1で大暴れ
"託された者"たちの戦いが、いよいよ始まろうとしている。
手倉森ジャパンが出場するリオ五輪の初戦、ナイジェリア戦が8月4日(現地時間)に迫っている。代表メンバーに選ばれた選手たちは7月21日、落選した選手たちから託された"リオ五輪への思い""日の丸を背負って戦うプライド"を胸に、開催地ブラジルへと旅立った。
もっとも"託す者"たちの戦いは、すでに始まっている。
「"託す側"と"託される側"に分かれるだけで、決して落とされたり、外されたりという話じゃない。"託す側"になった選手は、ここからA代表を目指すだけなんだ」
五輪代表の手倉森誠監督が、選手たちにこんなメッセージを送ったのはメンバー発表前、最後のテストマッチとなった6月29日の南アフリカ戦だった。
選ばれるのは、わずか18人。その中にはオーバーエイジの3人が含まれるため、五輪世代である23歳以下の選手は、15人しか選出されない。そうした人数制限に加え、ポジションやチーム戦術との兼ね合いもあるため、たとえ落選したとしても、力不足だけが理由ではない。
実際、"託す側"に回ったメンバーの中には、J1のクラブでレギュラーとして活躍している選手たちが何人もいる。そんな男たちの中から、この夏注目の3選手を紹介しよう。
1人目は、サガン鳥栖のMF鎌田大地(19歳)だ。
身長180cm。背筋をぴんと伸ばし、柔らかくボールをコントロールする姿には、スケールの大きさが感じられる。トップ下から前線へ、鋭いスルーパスや柔らかいパスを使い分けて配球するだけでなく、2トップの間に割って入ってフィニッシュも狙う。
7月13日の湘南ベルマーレ戦でも、鎌田は存在感を放っていた。右足アウトサイドから繰り出した絶妙のスルーパスでチャンスを作れば、ペナルティーエリア右サイドに自ら飛び出して右足のシュートを見舞う。さらに、相手のペナルティーエリア付近で相手ボランチに激しく襲いかかったり、味方GKがキャッチした瞬間、全力でダッシュして速攻を狙ったりするなど――オフ・ザ・ボールでの動きでも輝いていた。
手倉森監督も、鎌田に対して大きな期待を寄せていたはずだ。ルーキーだった昨季、公式戦に出場し始めた鎌田を8月の京都合宿で早速招集。その後もコンスタントに呼び続け、トップ下だけでなく、トップ、サイド、ボランチなど、適性を見極めていた。
今年1月のアジア最終予選には選ばなかったものの、3月のポルトガル遠征、5月のトゥーロン国際大会には招集している。最終的に選ばなかったのは、戦術的な理由だろうか。いずれにしても、ぎりぎりまで呼んでいたのは、そのポテンシャルを高く評価していたからに違いない。
2人目は、アビスパ福岡のFW金森健志(22歳)だ。
「博多のネイマール」という異名のとおり、左サイドからのドリブル突破が武器で、フィニッシュワークにも優れたアタッカーだ。2014年1月の手倉森ジャパン初期メンバーで、2015年3月のアジア1次予選では落選したが、福岡でコンスタントに出場機会を得ると、再び招集されるようになり、同7月に行なわれた親善試合のコスタリカ戦では、代表初ゴールを叩き込んでいる。
シュートのうまさはJリーグでも発揮されている。例えば、結果的に川崎フロンターレのファーストステージ優勝を阻むきっかけとなった、6月18日の第16節。前半に迎えた2度のチャンスを、いずれも左サイドからゴール前に飛び出す形で仕留めてみせた。ゴール前に飛び出すタイミング、利き足ではない左足でもコースを突けるシュートのうまさが光ったゴールだった。
金森にとって残念だったのは、最終予選を目前にした昨年12月末の石垣島合宿で負傷離脱してしまったことだろう。J1での実績は、メンバー入りしたMF矢島慎也(ファジアーノ岡山)やMF中島翔哉(FC東京)よりもはるかにあったが、最終予選を経験できなかったことが響いたかもしれない。
3人目は、FC東京のMF橋本拳人(22歳)だ。
2013年、2014年と期限付き移籍したJ2のロアッソ熊本で経験を積み、2015年に復帰したFC東京では、シーズン終盤になってインサイドハーフのレギュラーを獲得。今季はシーズン開幕からコンスタントに出場機会を得ている。
右サイドハーフや右サイドバックもこなすが、本職はボランチで、ダイナミックな"ボックス・トゥ・ボックス(自陣のペナルティーエリアから敵陣のペナルティーエリアまで広範囲にわたって仕事をする)"の大型ミッドフィールダーとして大成することが期待されている。
橋本にチャンスが訪れたのは、今年4月の静岡合宿だった。ここで手倉森ジャパンに初めて選出されると、5月に行なわれた親善試合、ガーナ戦で先発出場。メンバー発表直前の、6月の南アフリカ戦でも途中出場を果たした。
ボランチとしてのボール奪取力や推進力はもちろん、ユーティリティーな能力は、18人と少人数の五輪メンバーの構成においては重宝されると思われたが、今回選出されたボランチは、MF遠藤航(浦和レッズ)、MF大島僚太(川崎フロンターレ)、MF原川力(川崎フロンターレ)、MF井手口陽介(ガンバ大阪)。やはり最終予選を経験したことが重視されたようだ。
J1で活躍しているU−23選手は、この3人だけではない。
すでに昨季から浦和レッズでレギュラーの座をつかみ、「この夏注目」などと言っては失礼なMF関根貴大(21歳)はじめ、五輪代表立ち上げからのメンバーで、こちらも昨季、横浜F・マリノスでレギュラーの座を奪い取ったMF喜田拓也(21歳)。今はリハビリ中だが、ケガさえしていなければ間違いなく選出されていた川崎フロンターレのDF奈良竜樹(22歳)に、手倉森監督も最後までジョーカーとしての選出を悩んだに違いない、柏レイソルのスピードスターFW伊東純也(23歳)など、"託された"メンバーに勝るとも劣らない選手たちは少なくない。
J1で今なお輝きを放っている各クラブのバンディエラ、ガンバ大阪の遠藤保仁、鹿島アントラーズの小笠原満男、川崎フロンターレの中村憲剛に共通するもの――それは、五輪への出場経験がないことだ。それでも、彼らはリーグを代表する選手へと成長し、日本代表としてW杯を戦った。
五輪で世界の同世代と戦って自分のレベルを知り、その肌感覚を糧にA代表選出、W杯出場を目指すのは、ある種の王道ではあるが、五輪に出られなくても、代表への道が閉ざされるわけではない。むしろ、五輪に出られなかったというリバウンドメンタリティーが、その後のサッカー人生で大きく花開かせることが往々にしてある。
オリンピック期間中もJ1は開催されている。この夏、リオを経由せずにロシア行きを狙う男たちのプレーにも注目したい。
飯尾篤史●文 text by Iio Atsushi