なぜ、ネガティブ思考の人ほど金をむしり取られるのか
■「あなたの人生は100点満点で何点?」
「人生に満足している」人は少数派に違いない。
容姿、収入……人は心のどこかに「こうだったらいいのに」という思いを少なからず持っている。普段は、こうした不満を意識していなくても(もしくは封印していても)、第三者から指摘されると、自分のなかの不満が一気に顕在化することがある。
高額な商品を売りつけようとする、街頭のキャッチセールスが行うアンケートには、次のような項目がある。
「あなたの生活の満足度は何点ですか?」
そう聞かれて、「100点満点です」と答える人はまずいない。たいがいは、60点とか、70点とか、無難な答えをするに違いない。
仮に70点と答えると、「足りない30点は何ですか?」と勧誘員は尋ねてくる。
「仕事をやめてから、次の就職先が決まらない」
「恋愛がうまくいかず、結婚ができない」
現状への不満や悩みを話すと、それを聞いた勧誘員らは、その足りない点数分を解消するための方法を指南してくる。
たとえば、高額な自己セミナーへ勧誘する業者は、有料の講座を受ければ、ものの見方が変わり、思い通りの不満のない人生を送ることができる、などと言ってくる。不平や不満といったネガティブな感情を聞き出し、それを埋め合わせてあげます、と言わんばかりに「商品」や「サービス」を売りつけてくるのだ。
■「あなたには40万円のブレスレットが必要です」
近年、高額な商品を販売する開運商法による被害が絶えないが、これもまた、本人の悩みや現状への不満につけこむ商法である。
私も以前に、ダイレクトメールに載っている金運アップのブレスレットを購入するために、電話をかけたことがある。しかし、相手の業者はなぜかすぐには注文を受け付けない。
「このブレスレットはオーダーメイドなので、あなたの悩みを聞いてからどの商品が良いかを判断します」
そのとき私は「安定した収入がない」などとつい正直に悩みを話してしまった。
業者は「お金がたまらないのは、お困りでしょうね」と、心配する素振りで、次のような提案をしてきた。
「あなたには金運アップのブレスレットが必要です。一番のお勧めするのは、ゴールデンルチルという石をあしらったブレスレットで40万円になります」
40万円という金額に、私が「高い! ムリです」と答えるも、しばらくはこの金額を押してきた。しかし男は諦めたのか、次に「パワーストーンを変えて、5万円ではどうか」と提案してきた。一気の35万円引きである。
ずいぶん、安くできるものだと思い、もう少し様子を見ていると、「4万円でどうでしょうか!」。それでも高いというと、次に3万円、1万円になり、最終的には、8000円になった。結局、注文するだけで30分以上の時間がかかった。
こうした悪徳業者らは、悩みを金額に置き換えて考えている。
「金額(数字)」を客が抱く不満や不安の大きさをはかる尺度にしているのだ。そして、同時にこの数字が大きければ大きいほどカモ度が高いと判断する。
私に対して最初にブレスレットの値段が40万円という高い値段を提示してきたのは、アンカリング効果(最初に高い金額を言って強い印象を与え、次にそれより安い金額を提示すると購入しやすくなる)を狙ってのこともあるだろうが、そこには悩みを数値化(金額化)して、私の深刻度をはかる狙いもあったのだ。
最初から安い8000円の商品をすすめてしまっては、深刻度はわからない。
結局、値切りに値切り、8000円で購入したので悩みは深くないと思われ、その後にはあまりしつこい勧誘はされなかった。
■「数値化」すれば誰でも儲けられる
先に述べたキャッチセールスは、100点中何点の満足度かを尋ねて、不満部分が30%と知ると、その内訳について、詳しく尋ねる。
「不足な30点分は何ですか?」
「仕事上の人間関係がうまくいっていなくて」
「それは大変ですね。その思いが大半を占めているわけですか」
「ええ」
30%のうち、15%が仕事関係に不満ありと知ると、さらに「○○さんは、気を遣うタイプのようにお見受けしますが、他にも何かご苦労がおありでしょうね」と残りの15%についても尋ねてくる。
こうして、相手の中にあるネガティブな感情を次々にさらけ出させてくるのだ。ここにあるのは、悩みなどのネガティブ情報をパーセンテージにした数値化である。
言うまでもなくビジネスにおいても、数値化にして考えることは大事なことだ。それにより問題点がはっきり見えてくるからだ。「営業所の売り上げがあがらない」という漠然とした意見ではなく、具体的に、どの商品の売上げがどのくらい減っているのか。
売上げを上げている人と、そうでない人とのパーセンテージはどのくらい違うのかなど、数字にして表すことで、説得力が生れてくる。
社内外に向けたプレゼンでも、不採用になったものの多くは、数値が曖昧になっているといわれる。そこには、どのくらいの期間に利益がどれくらい望めるのか、それに対するコストパフォーマンスはどれだけなのかなど、具体的な数字が欠落していうことが多い。
私たちは不満や不平はただのグチと思って聞き流してしまうが、使いようは十分にあるものだ。売り上げを伸ばした商品には、消費者からの不平・不満などの意見を参考に発想されたものも多い。心にあるネガティブな思いを利用することで、大きな利益をあげることは可能なのである。
(ルポライター 多田文明=文)