4月16日(現地時間)のカブス戦で8回を無失点に抑え、本拠地ヤンキースタジアムで初勝利を挙げた田中将大ヤンキース)への賞賛の声が止まらない。

 ヤンキースのジョー・ジラルディ監督が「投げるごとに適応の階段を上がっている。スプリットとスライダー、何より制球が良かった」と称えれば、ラリー・ロスチャイルド投手コーチは「3試合の中でいちばん良かった。スライダーが良くなったことがその要因」と説明した。

 そしてヤンキースの主将であるデレク・ジーターは、田中の投球についてシーズンが入って初めて言及し、「田中は投球術というものを知っている。いい投球だ。ストライク先行も素晴らしい。相手にとっては手強い投手だと思う」と、14歳年下のルーキーに賛辞を贈った。

 その一方で、10個の三振を喫し、バントでの内野安打2本に抑えられたカブスは、田中のピッチングに脱帽するしかなかった。2三振の2番打者ジャスティン・ルジアーノは「すべての球種が同じ腕の振りで、その上、コーナーと低めにすべてのボールを制球できる」とお手上げの様子。

 4番のネイト・シャーホルツは「すべての球種が良かったが、スプリットはやはりいいね。何もできなかった。スプリットはカウントボールとウイニングショットと投げ分けていたが、すべてがコーナーだけでなく、低めに集まっていた。厳しい相手だ」と語った。

 カブスは田中獲得を最後まで争った球団のひとつ。当然、彼らのスカウティング・レポートは、田中がその前に投げた2球団(ブルージェイズ、オリオールズ)よりも質、量とも豊富だったに違いない。その中で田中のウイニングショットはスプリットということも認識していたはずだ。だが、そのスプリットを意識するあまり三振の山を築いてしまった。

 3回までに田中が奪った三振は4つ。決め球はすべてスプリットだった。カウントボールでもスプリットを使いながら、ウイニングショットでも使った。この配球で打者は、余計に意識するようになった。そして4回からが田中の真骨頂。4番のシャーホルツに投じた5球は、田中が思い描く通りの結果となった。

 4球でカウント2−2としたのだが、そのうち3球がスプリットで、1球がカーブ。スプリットへの意識づけを終えると、5球目はアウトコースに93マイルのストレート。シャーホルツのバットはピクリとも動かず、球審がストライクのコールを言い終わらないうちにベンチへと引き下がっていった。まさに、田中が試合を支配した瞬間だった。

 田中のスプリットとスライダーは間違いなくウイニングショットである。しかし、この他にもストレート、ツーシーム、カーブ、カットボールと多彩な球種を扱う。カブス戦のようにすべての球種をうまく制球できれば、打者は混乱をきたし、狙い球を絞れなくなる。シャーホルツの三振がまさにそれで、ジーターが「投球術を知っている」というのもその部分である。

 デビュー戦から3試合連続して8奪三振以上は、1900年以降では2010年に全米をとどろかせたスティーブン・ストラスバーグ(ナショナルズ)以来、2人目の快挙となる。田中の株は上昇するばかりだが、本人に油断は一切ない。

「結果的にゼロに抑えることができましたけど、完璧ではありません。そこまで良かったのかなと思うと、どうなのかなというのもある。甘いボールもありましたし。もっと厳しく投げられないと。よりいいものを求めてやっていきたい」

 各球団とも、今は田中のピッチングを観察している段階に過ぎない。徹底的にデータを洗い出し、打者は対戦することでボールの軌道をインプットしようとしている。だがそれは、逆に言えば、打者への観察眼が鋭い田中にも当てはまること。田中が1年間をかけて適応しようとするメジャーでの投球に興味は尽きない。

笹田幸嗣●文 text by Sasada Koji