異なる文化背景を持つ相手にビジネスメールを発信するときに気をつけるべき点は、相手の立場に立ってものを見て、考え、そのうえでメッセージを伝えるように努めることです。そのためには、(1)相手は自分とは同じ知識を持っていないかもしれないと思い、(2)言葉の意味は人にあって、発信者がその言葉に託した意味とは別の意味を、受信者はその言葉に与えるかもしれないと思いメールを書くことです。

(1) 相手は自分とは同じ知識を持っていないかもしれない ある時9ヶ国から来ている10人の留学生に次の英文を見せ、この文章の意味が分かる者は手を挙げるよう指示したことがあります。 They have bought a condominium of 150 square meters in Azabu、 Tokyo.

 ところが、誰一人として手を挙げた者はいませんでした。なぜでしょうか?英国の女子学生はコンドミニアムとは何かと質問してきました。米国の学生が、150平米とはどのくらいの広さかと質問してきました。

アメリカ人でメートル法が分かるのは10人に1〜2名ぐらいと言っても過言ではありません。メートル法が分かる外国人であっても、一般的な日本の住居の広さが分からなければ、150平米が平均よりも広いのか、狭いのか理解できません。麻布が東京の高級住宅地であることを知っていた留学生はいませんでした。この文章が表す意味、すなわち、麻布という高級な住宅地にある、ふつうの1.5倍近い広さの億ションを最近購入した彼らは大変なお金持ちである、という事実は彼らには分からないからでした。

 この英文の意味を外国人に正しく伝えるためには、相手は日本の住宅事情を知らないであろうし、メートル法が分からないかもしれないと思い、以下のような補足説明を相手にして上げることが必要です。最初の補足説明が論拠であり、2番目が判断です。もしアメリカ人が相手であれば、フィートに換算してあげるぐらいの思いやりも欲しいところです。

The standard size of an apartment here is about eighty to ninety square meters.(当地のマンションの一般的なサイズは約80〜90平米です)

It is really a spacious apartment for an ordinary Japanese family.(ふつうの日本人家族にとっては本当に広いマンションです)

(2) 相手は自分が使う言葉に違う意味を与えるかもしれない 発信するときも、受信するときも「言葉には意味がなく、意味は人にある」ということを知るべきです。貿易取引におけるdelivery(引渡し)の意味はshipment(船積)と同じであり、ふつうは輸出港の本船上、またコンテナー船であれば、船会社など指定された運送業者に貨物を引渡すことです。

 国際商取引の世界では誰もが知っているはずのこの常識を相手は知っていないかもしれません。相手の「現地着」の意味で使用しているかもしれないのです。自分が知っているから、相手も知っているという保証はありません。deliveryという言葉に意味があるのではなく、その言葉の意味は、それを使う人にあるのだということを知り、使用する言葉の確認を怠らないことがお互いの認識ギャップを埋めることにつながります。

 この種の問題は、英語と米語の違いにもよく出てきます。オーストラリア政府機関からメルボルンで近々開催するアジア地域会議に、現地滞在費とreturn ticketは負担するから技術者を1名参加させて欲しい、と招待を受けた日本企業がありました。同社の取締役会で「なぜ、帰りの切符だけなのだ。往路の旅費を払ってまで社員を行かせるだけの価値はあるのか」という声が上がり、同政府機関の東京出張所の係官に経費支弁の確認をすることになりました。

 すると、相手のオーストラリア人との話し合いがうまく進みません。どうも様子がおかしいと思い始めた担当者が、英語では、return ticketは往復切符を意味するものと知るまでに数分かかり、その後で大笑いになったそうです。米語で往復切符はround ticketといい、アメリカ英語に慣れていた日本人側の早とちりであったというわけです。(執筆者:亀田尚己 同志社大学商学部・同大学院商学研究科後期課程教授 編集担当:サーチナ・メディア事業部)