官邸前での抗議活動。既存のデモとは異なる発生の経緯を考えると、選挙以上に率直な“民意の発露”ともいえよう。

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専門家による1年もの議論でまとめた最新の知見で安全性を判断した」

野田佳彦首相はそう大見得を切って大飯原発3・4号機を再稼働させ、今後も政府の安全基準をクリアした原発を順次再稼働させる方針という。

だが大飯原発の安全性の妥当性を判断したのは「(電力)事業者の利益を図り、直接的責任を回避」(政府事故調査委員会=畑村洋太郎委員長)してきた経済産業省原子力安全・保安院だった。

そもそも大飯原発には、福島第一原発事故の対処拠点として大きな役割を果たした免震重要棟がない。また再稼働後、大飯原発の敷地内を走る断層が活断層である疑いが浮上したが、政府は原発を停止させることなく、関電に断層調査を指示しただけだった。まさに見切り発車だ。

首相官邸前では、60年安保以来という規模の抗議行動が毎週金曜日に繰り返されている。果たして政府・民主党は、こうした国民の声をどう聞いているのか。

PRESIDENT誌は、民主党原発事故収束対策プロジェクトチーム(PT)座長の荒井聰元国家戦略相と、PT事務局長の川内博史衆院議員を直撃。原発事故が問いかけた問題と今後の課題などについて聞いた。

――官邸周辺のデモが続いているが。

荒井「政府は、原発は安全で、事故が起きても対策は十分取られていると言ってきたが、明らかに問題があった。しかも3.11以後も原発の安全対策は事故前とほとんど変わっていない。政府事故調の報告書は、事故に備え、全国の原発に事故対処の拠点となる免震重要棟の設置を訴える一方、配電盤の水没による全電源喪失対策として配電施設に水密性の扉をつけることを求めているが、ほとんどの原発で、そうした対策は取られていません。それなのに政府は見切り発車。政府の判断に国民は不信感を募らせている」

――当初、首相はデモに対し「大きな音だな」と無視を決め込んでいた。

荒井「しかし毎週の抗議行動に“これはマズイ”と総理も感じたのでは。これまでのデモは労組や学生運動が中心で政治的目的を持っていたが、今回は自然発生的に起きた。極力政治性を排除し、子どもを連れた母親でもデモに参加している。ケガ人が出ないような対策が必要だ」

川内「首相は、本来なら事故調の報告に基づいて、事故原因の検証をしてから、再稼働の妥当性を判断すべきだった。再稼働前に、地域防災計画マニュアルに基づく当該地域の避難計画の改正や訓練も必要だった。ところが、首相は国会と政府事故調の最終報告書が出る前に早々と大飯原発を再稼働させた。経済的な要請だけで原発を再稼働させることを、多くの国民は決して許さないと思います」

■官僚のレールに乗って振る舞う人は困る

――新たな規制当局として9月3日に原子力規制庁が発足するが?

荒井「国会事故調の黒川清委員長は、規制当局が電気事業者の虜になっていたと指摘しています。これで規制できるはずがない。規制庁は原子力の専門家を集めることになるだろうが、重要なのは規制庁を動かす原子力規制委員会です。規制委員会は公正取引委員会と同じ独立性の高い三条委員会です。ただ、規制委員会の設置法は衆院環境委員長が提案し、質疑では“原子力ムラの人は規制委員会のメンバーにしない”との答弁がありました。これは尊重されるべきです」

川内「どういう組織になるかは、人事次第。規制委員長は閣僚と同じ権限を持つ。独立性も高く委員会メンバーは5年間変わらない。これまでのように原発推進の官僚のレールに乗って振る舞う人がメンバーでは困る。規制のための組織ですから、原発の危険性をしっかり把握し厳しく規制していくのが原則です」

――政府は田中俊一前内閣府原子力委員会委員長代理を委員長にするというが?

荒井「田中氏は原子力ムラの住人と思われている人。建設40年で原発を廃炉にする政府のルールを実行するかどうかを明言しておらず、再稼働についても“私が判断することではない”と発言。態度が曖昧だ。そもそも法案提出者の衆院環境委員長が田中氏の人事に反対している。たとえば事故調査委員のような高潔な人格と広い見識をお持ちの方であれば、必ずしも原子力の専門家でなくともよいのでは」

政府は、田中氏以外の委員に、中村佳代子日本アイソトープ協会プロジェクトチーム主査、更田豊志日本原子力研究開発機構副部門長、大島賢三元東電事故調委員、島崎邦彦地震予知連絡会会長を据える方針。規制委員会人事は衆参両院本会議での同意が必要な同意人事であり、今後の日本のエネルギー政策に決定的な影響を与えるのは確実だ。

(石橋素幸=撮影)