■空っぽになったから、充電したい

バルセロナでは「とうとうこの日がやってきた」という反応が一般的だが、27日バルセロナのグアルディオラ監督が今季限りでの退団を発表した。会見の席でペップ自身が明かしたように、退団の一番の理由はバルセロナという常勝軍団を4シーズンに渡り率いたことによる心身の疲労。彼の状態を最も適切に表していたフレーズが、「空っぽになったから、充電したい」というものだった。

「バルサのファーガソン」を望む声はファンのみならずロセイ会長をはじめとするフロント陣からも出ていたのだが、固くなにグアルディオラが単年契約で指揮をとってきたことについて以前、彼自身がインタビューでこう説明している。「毎日、『明日辞めてもいい』と思いながら働いている。監督のように責任ある立場でチームを率いる時でも常に現在進行形で辞める選択肢を手にしながら働きたいし、契約によって長期間拘束されることは避けたい。私にとってそれはパッションの喪失を意味することだから」。自分勝手な理由に映るかもしれないが、彼ほどパッション、セルフモチベートを高いレベルで維持し続けたプロフェッショナルというのはサッカー界のみならずどの世界でもそうはいないだろう。

■サパテロ前首相のコラム

さて、そのペップ退団の報を受けて28日の『マルカ』紙にスペインのサパテロ前首相のコラムが掲載された。熱狂的なクレ(バルサファン)として有名な政治家のサパテロ氏は、「ペップのチームのフットボールを楽しませてもらった。彼はわれわれに新しいものが生み出せる可能性を示してくれたし、それは人生にも通じるものがある。また、彼はわれわれに模範的であることがどういうことかも教えてくれた」という賛辞を送っていた。

そのサパテロ氏のコラムで面白かったのが、「実は数カ月前にペップとモンクロア(首相官邸などがあるマドリッドの政治地区)でお茶をした」という密会の話について。あくまでプライベートな付き合いとしてサパテロ氏とペップは会ったようで、二人は互いに相手の専門分野の質問を休む間もなく投げ続けたのだという。サパテロ氏はペップに対してバルサの状態や選手個々のコンディションについて質問し、ペップはサパテロ氏にメルケル、サルコジ、ラホイといった政治家について、それから深刻な経済危機をどう乗り切るのかについての質問を行なったとコラム上で紹介されている。

■サッカーの枠に留まらない活動

元々、ペップは選手時代に「異なる文化、言語を学びたい」とイタリア、メキシコ、カタールでプレーしているように、知的好奇心のある人間。よって、サッカー界以外の人脈も豊富で、昨年には珍しく映画監督のフェルナンド・トゥルエバとの対談も行なっている。バルサの監督を務めながら、ましてやシーズン真っ只中にマドリードでサパテロ氏とお茶を飲む時間などあるのかと疑問に思うが、彼が一流の監督たる所以というのはサッカーの枠に留まらない視点や活動にあるのではないだろうか。

一方で、スペイン、欧州においてサッカーが社会的、文化的地位を確立している理由もペップのような人材がいるからだと私は考えている。例えば、ペップの退団報道が出た直後、レアル・マドリードのサポーターとしてしられるテニスのラファ・ナダルが「グアルディオラが率いたバルセロナのサッカーというのは夢のようなもので、過去に見たことがないものだった。率直に彼の成し遂げたこと、これまでの模範的な言動に敬意を評したい」とコメントを出していた。日本では、トップアスリートといえどもなかなか他の競技や社会的出来事へのコメントを出すことはないが、スペインではこれが日常的。