9月21日、静岡県浜松市に上陸した台風15号は、強い勢力を持ったまま北上し、各地に大きな被害をもたらした。土砂崩れなどの被害にあった地域では、現在も復旧作業が続いているが、実はこの日、東日本の広範囲にわたりもうひとつの“災害”が起こっていた。それが、台風による放射性物質の大量飛散だ。

 各自治体のウェブサイトで公表されている空間放射線量の計測値をつぶさにみていくと、21日の夕方、つまり台風が通過したタイミングで異常な高まりを見せていることがわかる。特に関東地方の多くの観測地点では、9月の平均的な値と比較すると、実に約50〜80%も放射線量がハネ上がった。本誌が毎日行なっている東京都千代田区神田神保町の屋外測定でも、この日の午後2時頃に0.10マイクロシーベルトだった放射線量が、午後7時頃には約 0.23〜0.25マイクロシーベルトまで上昇した。

 環境放射能の専門家である琉球大学の古川雅英教授は、この現象について次のように解説する。

「大気中には主にラドンなど、自然界に存在する放射性元素が漂っているので、それらが雨で地上へと流れ出し、一時的に20〜30%の線量増加が観測されることはあります。しかし50%以上となると、自然状態の放射性物質の降下だけでは説明がつきません。それに、そもそも雨による自然由来の線量増加は降り始めに起こる場合が多い。つまり、21日の夕方に数値が急上昇したことは、一般的な自然現象とは考えにくいのです」

 福島第一原発事故による放射性物質の拡散被害を研究している物理学者の日沼洋陽博士は、この原因を「間違いなく、原発事故の影響と見るべき」として、こう語る。

「私が21日の異常に気づいたきっかけは、いつも観察している神奈川県横浜市のモニタリング数値に3月以来最大の変化が現れたことでした。注目すべきは、横浜や川崎地区での放射線量の極大(ピーク)時刻が、東京・新宿よりも30分以上早く現れたことです。この地域ごとの差は、放射性物質を大量に含んだ雨雲の移動と関係があるのではないかと思い、東日本各地の放射線量測定値を細かく調べてみました。すると、やはり放射能を帯びた巨大な大気の固まりが雨を降らせながら動き回った形跡が見られたのです。これほど高い自然由来のラドン数値が広域で記録されるとは思えないので、やはり線量を上げた放射性物質の大部分は自然界の産物ではなく、福島第一原発事故で断続的に発生しているセシウム137でしょう」

 台風15号は関東一帯のみならず、日本海や中部地域など広い地域で猛威を振るった。はたして、そのとき降っていたのは“黒い雨”だったのだろうか。

(取材/有賀 訓)

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