4月に運行開始する相鉄の新型車両12000系(撮影:梅谷秀司)

相鉄線沿線の誰もが夢見た都心乗り入れがもうじき実現しようとしている。3月28日、相模鉄道は、JR線と直通運転を行う新型車両「12000系」を報道公開するとともに、都心への乗り入れ開始日を発表した。

相模鉄道は横浜を起点に海老名や湘南台と結び、大手私鉄の一角を占める。ただ、都心に向かうには横浜でJR線や東急線に乗り換える必要がある。これが利用者増へのネックとなっている。

この問題を解消すべく、相鉄線西谷駅とJR東海道貨物線横浜羽沢駅付近に約2.7kmの連絡線の新設工事が進行中だ。工事はほぼ完成を迎えており、11月30日にこの連絡線を利用することで相鉄線とJR線の相互直通運転が実現する。相鉄線の利用者は乗り換えなしで新宿方面に向かうことができる。

さらに、横浜羽沢駅付近と東急日吉駅を結ぶ約10kmの連絡線も建設が進んでおり、2022年度下期には相鉄線と東急線の相互直通運転も始まる。JRと東急という2つの路線と直通することにより、相鉄にとって悲願の都心乗り入れが実現するのだ。

ブルーの電車は「広告塔」

今回、公開された12000系は総合車両製作所(J-TREC)製。列車の顔ともいうべき先頭車両の形状は、「能面の獅子口ををモチーフにしたダイナミックな形状」と相鉄側は説明するが、高級自動車のフロントグリルを連想させるデザインだ。


相鉄・JR直通線の開業日は11月30日と発表された(撮影:梅谷秀司)

車体には、「YOKOHAMA NAVYBLUE(ヨコハマネイビーブルー)」と名づけられた深みのある紺色の塗装が施されている。同社によれば、「横浜の海をイメージし、上質感のある普遍的な色、流行に左右されない色として決めた」という。近年、相鉄ではこの塗装の車両を次々と増やしており、「現在は41編成中7編成がヨコハマネイビーブルー。2022年度までには全編成の8割程度をヨコハマネイビーブルーにしたい」と相鉄の担当者は意気込む。

ブルーの電車は、都心で相鉄をPRする「走る広告塔」としての役割を担う。銀色の電車がほとんどの都心部で利用者の目を引き、乗った際には車内の広告などで相鉄がどこを走っているかを知ってもらう。さらには沿線を「住む場所」としての選択肢に入れてもらう、という狙いがあるのだ。12000系は4月20日に営業運転を開始する。

12000系より一足早く、2018年2月には東急線への乗り入れを行うために開発された「20000系」が営業運転を開始している。製造したのは日立製作所。「Aトレイン」という日立独自の軽量アルミ車両向け製造技術が用いられている。


12000系より一足早く、2018年2月に運行を始めた東急直通対応の新型車両20000系(撮影:尾形文繁)

こちらも「ヨコハマネイビーブルー」の塗装にフロントグリルが特徴だ。都心直通を機にデザイン面でも他社にないインパクトを持たせ、相鉄ブランドを印象付けようという意図がうかがえる。インテリアもグレーを基調としたデザインで、12000系と共通したイメージだ。

ただ、20000系が東急線に乗り入れるのはまだしばらく先の話だ。だとしたら、開発の順序はJR線に乗り入れる12000系が先になってもいいはずだ。

そうならなかったのには理由がある。相鉄線にはJRの標準的な通勤電車で、東海道線などで使われている「E231系」「E233系」をベースに開発された車両も走っており、JR線乗り入れはさほど困難ではない。一方、東急は車両の幅が相鉄線より狭く、信号システムなども異なるため、東急乗り入れ用車両は各種のシステムや保安設備への適合の確認に時間を要する。そのため、東急乗り入れ用の20000系を先に開発することになったわけだ。

「悲願」の都心直通には課題も

11月30日のJR線乗り入れ後は、相鉄線利用者は乗り換えなしで大崎、渋谷、新宿方面に向うことができる。しかし、相鉄・二俣川以西の海老名、大和、湘南台は小田急線と接続しており、新宿方面への利便性がもともと高い。一方で、東京、品川方面へは武蔵小杉駅などで乗り換える必要があり、横浜市は品川、東京方面への乗り入れも要望している。

JR直通線は運賃面で若干割高になるという課題もある。相鉄は2月下旬にJR直通線の運賃を国土交通省に申請したが、その際の発表では海老名―新宿間の運賃は860円。小田急の同区間は500円だ。二俣川―東京間も、現状の横浜乗り換えなら670円だが、JR直通線経由だと760円となる。

このようにさまざまな課題を抱えつつも、12000系登場で相鉄の都心乗り入れは秒読み体制に入った。実際の運行が始まれば、よくも悪くも相鉄の注目度がますます高まる。