【J1クラブ通信簿】長崎の航海は始まったばかり…J1初挑戦で得たものを未来へ《V・ファーレン長崎》

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優勝争いから残留争いまで手に汗を握る接戦、熱戦が続いた2018シーズンの明治安田生命J1リーグ。超ワールドサッカー編集部は、J1全18クラブの通信簿(トピックやチームMVP、補強成功度、総合評価)をお届けする。第1弾は18位のV・ファーレン長崎を総括!

◆シーズン振り返り
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2017シーズンの明治安田生命J2リーグで2位となり、クラブ史上初のJ1昇格を果たした長崎。チームは2017年4月に就任した高田明社長に牽引されるように、J1でものびのびとしたプレーを見せた。

J1を戦うにあたり、長崎県に所縁のある選手を中心に大型補強。GK徳重健太(ヴィッセル神戸)、DF徳永悠平(FC東京)、MF中村北斗(アビスパ福岡)と国見高校出身の3選手の他、FW鈴木武蔵(アルビレックス新潟)、MF黒木聖仁(ヴァンフォーレ甲府)、MF中原彰吾(北海道コンサドーレ札幌)を補強。経験値の足りないチームを補うべく戦力を整えた。

開幕戦は同じく走力を武器とする湘南ベルマーレ。3バックの一角を務めたDF田上大地がクラブのJ1初ゴールを記録したが、2-1で敗戦。第2節では隣県のサガン鳥栖との対戦となり、クラブ史上初のJ!ホームゲーム開催となったが、2点リードを追いつかれ引き分けとなった。第3節ではホームに浦和レッズを迎えるが、リードを守りきれずにドロー。その後は3連敗と、シーズン序盤からJ1の厳しさを痛感することとなった。

昨シーズンまでのエースだったFWファンマがJ1で得点を奪えず、チームの攻撃力に不安を抱えることに。ここで気を吐いたのは、新加入のFW鈴木武蔵だった。2節、3節とゴールを決めてチームに勝ち点をもたらせると、第7節の清水エスパルス戦でもゴールを奪い、チームのJ1発勝利に貢献。その後は苦しい時期も続いたが、自身初のハットトリック(第26節、名古屋グランパス戦)を記録するなど、チーム最多の11得点を記録した。

初勝利の勢いに乗った長崎は、持ち前の堅守を取り戻し4連勝を記録。しかし、サンフレッチェ広島、鹿島アントラーズ、セレッソ大阪と力のあるクラブの前に再び連敗。ロシア・ワールドカップ開催による中断期間を前に5勝2分け8敗で終えた。

守備面の改善を求め、シドニーFCからオランダ人ヨルディ・バイス、新潟からMF磯村亮太らを獲得。しかし、なかなかチームを立て直すことはできず、第23節のC大阪戦で敗れるとついに最下位に転落し、その後一度盛り返すも、第32節の横浜F・マリノス戦で敗れたことにより17位以下が確定。1年での降格となってしまった。

◆MVP

FW鈴木武蔵(24)

明治安田生命J1リーグ29試合出場(先発21試合)/11得点
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初のJ1挑戦となった長崎。結果として最下位に終わったが、チーム内のMVPを挙げるならばFW鈴木武蔵だろう。

シーズン序盤は2シャドーの一角として、シーズン途中から1トップとしてもプレー。これまで所属した新潟、松本ではなかなか活かせなかった自身の能力を遺憾なく発揮した。

シャドーの位置からの裏への抜け出し、前線での体を張ったプレー、スピードと強さを兼ね備える鈴木は、得点以上にチームの攻撃を牽引。FWファンマ、MF中村慶太、MF澤田崇らとのコンビも良好なものを見せた。

自身にとってキャリアハイとなる11得点を記録。エースと呼ぶにはコンスタントに得点を決めてほしいところだったが、高木監督の下で輝きを取り戻すことに成功。J1でも戦える能力があることをしっかりと見せ付けた。

◆補強成功度 《C》※最低E〜最高S
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期限付き移籍、中断期間での途中加入を含め、16名の新戦力がチームに加わった。前述の通り、J1を戦うための戦力を整えること、経験のある選手を揃えることが重要視され、その中でも徳重、徳永、中村と長崎に所縁のある選手を補強した。

徳重(28試合)、徳永(27試合)、黒木(21試合)、鈴木(29試合)、ヨルディ・バイス(16試合)と補強選手が主力としてプレー。結果こそ最下位だが、18チーム制になってから最多勝ち点での最下位ということを考えると、決して悪いサッカーをしていたわけではない。

徳重、徳永、ヨルディ・バイスという守備陣を補強したものの、J1クラブの攻撃を抑えることはそう簡単ではないことも痛感したはず。夏に加入したFWハイロ・モリージャス(エスパニョール)が途中出場2試合に終わったことは誤算だっただろう。攻撃面にテコ入れが進んでいれば…という印象は拭えないが、チームとして機能させた高木琢也監督の手腕は評価すべきだろう。

◆総合評価 《C》※最低E〜最高S
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長崎の目標はJ1残留だった。そのことを考えれば、最下位、そして1年でのJ2降格は結果としては評価できない。

しかし、18チーム制で最多となる勝ち点30での降格。シーズンが違えば残留圏で終えられる勝ち点ということを考えれば、初挑戦で見せた長崎の戦いは評価すべきだろう。

初勝利まで時間がかかったこと、また連敗をなかなか止められなかったことは、チームとしての経験不足が否めない。また、局面での選手個々のクオリティには不安があり、リードを守り切れない、押し込む時間帯に押し切れない、接戦で勝ち点を拾えないという形で、勝ち点を積み上げられなかった。

初のJ1挑戦で感じた差は少なくないが、下を向くべきではない。高田社長の下、クラブとしてこの先大きくなるための一歩と考えれば、J1を戦い抜いた1シーズンは決して無駄ではなかったはず。そして、何よりも他クラブに与えた影響は大きい。

6年間指揮を執った高木監督が退任。来シーズンはJ2での戦いとなり、新指揮官にはU-23日本代表を率いてリオ・デ・ジャネイロ・オリンピックを戦った手倉森誠監督を招へいした。

高田社長を船頭とした長崎の航海はスタートしたばかり。クラブとして夢を持ち続けることは、クラブの発展、選手の慰留にも繋がるはずだ。この1年で得たかけがえのない経験値を、来シーズン以降の飛躍に繋げてもらいたい。