タワマンが積立金不足でスラム化の可能性

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■莫大な資金が必要! 総額12億円の事例も

近い将来、多くのタワーマンションで顕在化してくるのが、修繕工事費不足の問題だ。タワーマンションの修繕コストは、通常のマンションの約1.5倍はかかる。55階建て、650戸ある首都圏のタワーマンションの場合、総額で約12億円かかったという報告もある。

ところが十分な修繕費が準備されていないタワーマンションは少なくない。原因のひとつは、デベロッパーが新築マンションを販売する際、とにかく売ることだけを優先させて先を考えず、修繕積立金を低めに設定する傾向があるからだ。

国土交通省のガイドラインによれば、大規模修繕の周期は12年程度だが、実際は15年前後で実施されることが多い。そして外壁の補修、防水が中心の1回目の大規模修繕工事は、積立金で何とか乗り越えられる確率が高い。問題なのは、築後30年前後で行われる2回目の大規模修繕工事だ。エレベーター、機械式駐車場、空調など設備機器の更新が必要になり、エレベーター1基につき数千万円、機械式駐車場は億単位の整備費がかかるなど、莫大な資金が必要になる。

修繕の時期を迎えても費用が足りない場合、一戸あたり50万〜100万円の一時金を徴収する、または管理組合全体でローンを組むなどの方法がある。その中で多くのマンションが選択するのが「積立金の範囲内でできることだけをする」というものだ。しかしこれだと必要な修繕がすべてなされるわけではないので、建物が劣化していく。ここ数十年のうちに建てられたマンションは、適切なメンテナンスがなされていれば100年以上は余裕でもつものも少なくないが、管理を怠れば資産価値は暴落し、ゆくゆくはスラム化することにもなりかねない。

現在、国土交通省は都市計画情報、取引価格、管理情報などを盛り込んだ不動産のデータベースづくりを行っている。これらの情報開示が進めば、一般の人たちにもマンションの管理組合の運営状況が可視化されていくだろう。立地、築年数、構造がほぼ同じマンションでも、管理の状況次第で価格に数千万円の差がつくなど、格差が広がるはずだ。

マンションの管理状況を見極めるポイントのひとつは、修繕積立金の額である。早くから修繕積立金を適正価格に上げる策をとっているタワーマンションは、住民のリテラシーが高く、維持管理が行き届いている可能性が高い。またホームページを持ち、管理組合が継続的に情報を更新しているマンションも優良であるケースが多い。

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長嶋 修(ながしま・おさむ)
不動産コンサルタント
1967年、東京都生まれ。業界初の個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」創業者・会長。マイホーム購入・不動産投資など不動産購入ノウハウの提供や、業界・政策への提言を行う。

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(さくら事務所 創業者会長 長嶋 修 構成=山田由佳 写真=iStock.com)