以前はエルグランドが王者でしたが、今は…(写真:トヨタグローバルニュースルーム、日産自動車ニュースルーム)

トヨタ自動車「アルファード/ヴェルファイア(通称、アル・ヴェル)」、日産自動車「エルグランド」といえば、背の高い大柄な車体のボディに加えて、押し出しの強いフロントマスクや最大8人がゆったり乗車できる広々とした室内、豪華な内装を備える高級ミニバンだ。

アル・ヴェル兄弟とエルグランドはコンセプトも似ていて競合の関係にあるが、日本自動車販売協会連合会(自販連)によると、2017年(1〜12月)の販売台数はアル・ヴェル合計で約8万8000台に対し、エルグランドは約8000台と10倍以上の差が開いている。

高級ミニバン市場では、エルグランドが王者だった

しかし、もともとは高級ミニバン市場では、エルグランドこそが王者だった。


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アル・ヴェルの前身は、ワンボックスカーを基にした後輪駆動の「グランビア」である。グランビアは1995年に生まれ、一世代のみで2002年に生産を終えている。

それまでのワンボックスカーの基本形であるエンジンを運転席下に搭載するキャブオーバーとは異なりエンジンを客室前方に配置したとはいえ、運転席はキャブオーバー時代とあまり変わらぬ高さで、走行感覚はワンボックスカーと同じように、重心が高いため落ち着かないような場面もあった。ただし、エンジンが運転席下から客室前方へ移されたことにより、静粛性は高まり、快適性が向上した。

グランビアの2年後である1997年に初代エルグランドが誕生する。こちらは顔つきのはっきりした強い存在感があり、高性能なV型6気筒エンジン搭載車も車種構成に含まれることで、豪快で迫力のある走りが特徴となった。ファミリーカーの上級車版といったおとなしい印象のグランビアに対し、技術の日産を彷彿とさせる走行性能の高いエルグランドという個性の差が販売に強く味方し、この時代の高級ミニバン市場はエルグランド優位で進んだ。

国内にミニバンブームを引き起こしたのは、1994年に初代が登場したホンダ「オデッセイ」である。トヨタと日産は、ホンダの後を追うかたちで2代目「エスティマ」(2000年)や「プレサージュ」(1998年)を登場させている。

トヨタ・エスティマの初代は1990年に誕生し、それはオデッセイの1994年より早い。しかし初代エスティマは、キャブオーバー型のワンボックスカーの進化版であり、エンジンが運転席下に横置きで搭載されたミッドシップ形式の後輪駆動であった。卵のような丸みを帯びた外観は独創的で、従来のワンボックスカーとは一線を画す乗用車感覚や静粛性が人気を呼んだ。しかしエンジンを床下に搭載する方式は、ミニバンではなくワンボックスに分類される。また、初代の車体寸法はアルファードの前身といえるグランビアに近い。

一方、2世代目エスティマの前身といえるのは、初代エスティマの5ナンバー版、ルシーダ/エミーナと見ることができる。そしてオデッセイの人気を受けてモデルチェンジをした2世代目エスティマから、フロントエンジン・フロントドライブ(FF)になった経緯がある。やや複雑な相関関係だが、ミニバン誕生の過渡期の変遷である。

日産の初代エルグランドは、今日でいうSUV(スポーツ多目的車)の「テラノ」をベースにしたミニバンであり、乗用車の「アコード」を基に生まれた初代オデッセイに比べると車高の高い、いかにもSUVが基であるような、ゆったりとした走り方であった。

そして一世代で終わったグランビアの後を受け、アルファードが2002年に誕生する。同じ年に、フルモデルチェンジにより2世代目となったエルグランドが後輪駆動(FR)を継承したのに対し、アルファードはオデッセイと同様に前輪駆動(FF)へ転換した。

人気を大きく分けることになったのは…

この、FR(フロントエンジン・リアドライブ)を継続するか、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)へ転換するかの決断が、結果的にその後の両車の人気を大きく分けることになったのではないかと振り返ることができる。要約すれば、走行性能を追求するか、同乗者の快適性を追求するかの違いである。

もちろん、上級ミニバンである以上、客室内の広さは両車とも十分に確保される。しかし、FF化することにより、客室の床は可能な限り低く、かつ平らにできた。それによって乗降性が向上し、室内の座席配列や位置調節の幅を広げることをよりやりやすくなる。また室内のデザインも、運転者中心か、運転者含め乗員全員の心地よさを求めるかの違いも生まれてくる。

日産は、「GT‐R」や「フェアレディZ」など技術力を背景とした高性能車の印象が強く、ミニバンといえども運転が壮快であることを求めたのだろう。

ミニバン本来の価値とは何か考えたとき、それは7〜8人で乗れ、乗員すべてが快適に移動できることだ。もちろん、グランビア当時のようにワンボックスカーの流れを引きずり、カーブや横風の影響などで走りがややふらつくような走行の不安定さが顔を出すようでは、快適な移動はできない。しかしミニバンに高性能車のような走りは多くの人が求めていないのも事実である。

エルグランドはそこを見誤ったのだ。

一方、アルファードは、ミニバン本来の価値を愚直に拡張していった。

まず上級車種としての静粛性や乗り心地が、クラウンやセルシオ(レクサスLS)の価値同様に改善され続けた。また、2列目の座席の前後移動量を増やし、足元を広々とさせることにより、あたかもストレッチリムジンに乗車しているかのような心地よさを味わわせた。それを実現するため、2列目のキャプテンシート(一人掛け座席)の左右をいったん内側へ寄せ、後輪の出っ張りを避けて後ろへさらに下げられるような機構も編み出した。

そのような2列目の快適性向上は、仲間や家族連れの同乗者向けというより、要人のための後席空間といった趣を与え、会社役員や政治家、あるいはハイヤーとしての活用などにも魅力をもたらした。

後席の快適性向上や新たな用途開拓のほかに、あえて走行性能は標榜しないものの、世代を重ねるごとにアルファードの運転感覚はより操縦安定性の高いものになっていく。操縦安定性に優れなければ、後席の乗り心地が改善されず、何のために快適な後席空間を演出したかわからなくなるからだ。

2世代目になるとヴェルファイアが加わる

2008年の2世代目になると、アルファードのほかにヴェルファイアが加わる。実は、初代のアルファード時代にも、販売店網の違いによって車名のあとにGやVのアルファベットを付け区別していたのを、車名として分けたのである。

同時に、顔つきを大きく変えた。ヴェルファイアは、よりきつい顔つきにして押し出しを強くした。それはあたかも、軽自動車で人気を得るようになったメッキを多用するドヤ顔を真似るかのようであった。しかし、それが功を奏する。

軽自動車の場合も、実はそのドヤ顔的な車種を女性が好む傾向がある。それによって軽自動車の存在感を高め、小さなクルマだからと無視されにくくなり、被視認性が高まることで安全や安心につながる効果が生まれた。

上級ミニバンとして、より存在感を強めたい顧客の志向にヴェルファイアの顔つきが的中することになる。同時に、控えめで落ち着きを覚えさせるアルファードとの差別化ができた。

日産のエルグランドも、2010年の3世代目でいよいよFF化された。アルファード同様に後席の快適性がより充実された。だが、アル・ヴェルによって志向の異なる上級ミニバン客をすっかり獲得されてしまったあとでは、エルグランドの付け入る隙は限られていた。

現行アル・ヴェルの登場は2015年。非公式ながら次期エルグランドのフルモデルチェンジは2019年ごろと自動車系メディアが報じている。内外装のデザインや快適性の向上などのほか、コンパクトカー「ノート」や中級ミニバン「セレナ」で先行した「e-POWER」や「プロパイロット」など、いま日産が市場で注目される技術による低燃費や運転支援を実現する最新技術の投入などにより、大きく魅力を増さない限り、エルグランドは当面、アル・ヴェルに圧倒される展開が続くだろう。