就労者の多くが医療費の3割を負担しているが、今後も続くのだろうか(写真:siro46 / PIXTA)

日本の医療保険制度は、必要な医療は公的保険でカバーするという基本方針のもとで成り立っています。

医療費の財源は、保険料負担(被保険者保険の場合、事業主負担分と従業員負担分)、公費負担(国庫負担、地方負担)、患者の自己負担(窓口負担)です。かかった医療費の多くは、保険料や公費で給付され、患者の窓口負担が過度にならないよう考えられています。窓口負担が高すぎることによって、患者が医療機関の受診を控えてしまうと、国民の健康を脅かすだけでなく、病状が悪化してから治療を始めるため、かえって医療費も高くなってしまいかねないからです。

現在、就労者の多くが医療費の3割を負担しています。この負担は、年齢と所得によって異なり、小学生から70歳未満が3割、就学前の子どもと70歳から74歳が2割、75歳以上が1割(現役並みの所得がある70歳以上は3割)となっています。


自己負担の改定が患者の受診頻度に影響

この割合は、これまでに、何度か改定されてきました。就労世代についてみると、国保加入者は、初期から3割負担でしたが、協会けんぽや組合健保など企業に勤めている被用者保険加入者は徐々に負担が増加して、2003年に国保と同じ3割となりました。


就労世代の医療費負担のここ20年の変遷(筆者作成)

一方、2002年10月から3歳未満が2割負担に軽減され、2008年4月から就学前の子どもにまで2割負担が拡張されました。さらに、子どもの医療費に関しては、子どもの保健・福祉を充実し、子育て世帯の経済的負担を軽減するために、2016年時点ですべての都道府県および市区町村に、子どもにかかる医療費の自己負担分を最長で22歳まで助成する制度が設けられています(乳幼児医療費助成制度)。

高齢者についてみると、1973年に老人医療費支給制度が導入され、10年間にわたって医療費が無料でしたが、現在は年齢と所得に応じて1〜3割を負担しています。

老人医療費子宮制度導入当時を振り返ると、導入後の1975年の70歳以上の受療率は、導入前の1970年と比べて1.8倍にまで増加するなど、無料化によって必要以上に受診するケースが増え、「病院のサロン化」等と揶揄されることがありました。

このように自己負担が改定されると、その影響を受けて患者の受診頻度が変わることが知られています。医療費無料化の例とは逆に、自己負担が増えると、医療費の高さを理由として、特に低所得の高齢者で受診を控える傾向があるという報告もあります。こういった場合、不適正な受診だけでなく、適正な受診も控えてしまう傾向があります 。

負担能力に応じた窓口負担に

現在、高齢化と医療技術の高度化にともなって医療費は増加しており、現役世代の医療費負担が大きくなっています。国では、医療保険制度の持続性を高め、世代間・世代内での負担の公平を図るために、年齢による区分だけではなく、負担能力に応じた公平な負担を求めるよう制度を見直しています。

たとえば、今年度以降、現在1割(現役並み所得者3割)である75歳以上の後期高齢者の窓口負担の引き上げについて議論が始まります。また、現在は、負担能力を所得で判断していますが、今後は、所得だけでなく、金融資産等も考慮すべきとの議論があがっています。

ただし、金融資産の保有状況を把握する方法は、現在は自己申告しかなく実効性がありません。金融資産を把握するためには、マイナンバー等の環境整備が必要となります。

また、現在すべての市区町村で設けられている乳幼児医療費助成制度についても、所得制限を設けるべきであるとの議論が行われています。限りある財源の中から、どういった人に対して、どの程度の自己負担を求めるかは、今後も議論が重ねられていくでしょう。