3年内離職率が0%の企業のうち、入社人数が40人以上の企業

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苦心して採用した新人たち全員が優秀な戦力として活躍してほしいという思いでいっぱいだ(写真:chachamal/iStock)

2019年入社の新卒向け就活が本格化している。6月の面接解禁を前に、街でリクルートスーツの学生が目立つようになった。

就活で売り手市場が続く昨今は、苦心して採用した新人たちに対する期待はいやが上にもでも高まる。全員が優秀な戦力として活躍してほしい、そういう思いでいっぱいだ。

しかし、残念ながらそうなっていないのが現実だ。厚生労働省の最新の調査結果では、2014年4月に大学を卒業して就職した新入社員が3年目までに離職した比率は32.2%で、この5年間ほとんど変わっていない。もっといえば、最近の20年間をみても、リーマンショック直後の2009年入社を除けば、一度も30%を下回っていない。


もはや、「大卒新入社員の3割が入社3年以内で辞めてしまう」というのは定説といってもいいだろう。高校卒業の新入社員では2000年代前半までの50%弱という水準からは若干改善したものの、40%前後で推移している(2014年入社は40.8%)。

一方、こうした状況の中でも、新入社員がきっちり定着している企業は決して少なくない。

3年内離職率ゼロは108社

『CSR企業総覧』では、毎年、学歴にかかわらずすべての新入社員の3年後の在籍者数を調査している。今回2018年版の調査では、2014年4月に入社した社員が2017年4月に何人在籍しているかを答えてもらっている。この調査は、就職活動生を中心に注目度が高まっていることもあって年々開示企業数が増加、今回は1128社の回答を得られた(昨年は1110社)。このうち、本ランキングでは、新入社員が5人以上の企業を対象とした。

2014年4月といえば、31年以上も放送が続いたフジテレビ『笑っていいとも』が画面から姿を消し、消費税率が5%から8%に引き上げられた。このとき入社した新入社員が、その後3年間、1人も欠けることのなかった企業(離職者ゼロ=定着率100%)は108社で、昨年調査(2013年4月入社の2016年4月時点)の118社からは10社減となった。

このうち、新入社員数が最も多いのが日本新薬の66人で、男性が43人、女性が23人という内訳だ。同社は京都に本社を置く中堅医薬品企業で、肺動脈性肺高血圧症の治療剤や血液がんの一種である骨髄異形成症候群の治療剤などの開発・販売のほか、難病・希少疾患治療剤の開発にも取り組んでいる。また、香辛料や調味料、品質安定保存剤のほか、流動食、高タンパク食品、スポーツ栄養食といった機能食品分野も展開している。


同社の人材教育は「階層別研修」と「選抜型研修」の2本柱で構成されている。前者は、社員一人ひとりに合った能力向上を目的としており、2016年度からは社員自らが受講科目を選択できる方式に改めている。自分の成長に必要な能力を自ら考えることで、自分のキャリアを考え直す機会にする狙いもあるという。後者はコア人材育成を目的とするもので、「次世代リーダー育成」などのプログラムが準備されている。

次いで新入社員数が多いのが安川電機の62人(男性48人、女性14人)で、任天堂57人(男性47人、女性10人)、森永乳業55人(男性39人、女性16人)、アサヒグループホールディングス54人(男性37人、女性17人)と続く。

一方、108社のうち73社が新入社員15人以下の企業だ。その多くは“中堅企業”に分類される企業であり、そもそも全体の従業員数もそれほど多くない。したがって、新入社員一人ひとりにかかる期待値も高くなりがちだ。1人でも辞められると、ダメージは大きい。

昨年調査のランキングでは、新入社員数220人の中国電力が離職者ゼロだった。そのため筆者は「これだけの人数の新入社員が3年間1人も辞めなかったのは奇跡に近い」と評した。昨年2位は塩野義製薬の64人なので、今回の結果と併せて考えても、入社後3年間の離職者ゼロを達成できるのは、入社人数65人前後が限界なのかもしれない。

業界トップで誰もが超優良と認める企業であっても、定着率100%は難しい。トヨタ自動車は入社者529人のうち3年間で20人が離職し、定着率は96.2%だ(ちなみに、このうち女性は66人で定着率は100%)。

定着率100%、2年連続は35社、3年連続は11社


今回の定着率100%企業108社のうち、2年以上連続して100%を保っているのは35社ある。さらに、過去のランキングをひもといてみると、3年連続で定着率100%となった企業も11社、さらに4年連続が4社あった。

少なくとも4年にわたり新入社員が辞めない会社とは、どういう会社なのか。

その1社がWOWOWだ。同社は音楽ライブや、スポーツ、映画などのほか、オリジナルドラマなども作成し、BS放送、CS放送にコンテンツを提供している放送会社として有名だ。2016年度末の社員数は275人。

業務内容からしても、映画好き、音楽好き、スポーツ好きな学生が集まってくるものと想像するが、何しろ例年の新入社員は8人程度とかなりの狭き門だ。入社した社員にとって、好きなことを毎日の仕事にできるなら、こんな幸せなことはない。しかも平均年間給与が1000万円超とくればなおさらだ。

ちなみに、同社の新入社員研修は、4月に集合研修を行い、各部署に配属されたあともトレーナーの下でOJTを行い、さらに入社半年後にはフォローアップ研修も行われるようだ(同社HPより)。

地方に本社を置く企業も名を連ねている。佐賀市が本社の戸上電機製作所だ。制御機器や配電盤などを製造するシステム機器メーカーで、『CSR企業総覧2018年版(雇用・人材活用編)』に掲載の2016年度末の従業員数は380人だ。

同社のホームページには、新入社員研修の内容と流れが公表されている。それをみると、まず入社前研修として社会人の基本に関しての通信教育を行い、入社直後の宿泊研修ではマナーや社内規定などの研修を行うとある。その後部門別に分かれ、部門ごとの役割や知識を理解するための研修を行っている。

ここまではおそらくどこの企業でも似たようなことは行っているはずだ。5月以降、組立、機械加工研修として、社内マイスターによる機械の使用方法や部品加工の研修が約4カ月にわたり実施されている。ここで技術の習得だけでなく、先輩などとの人間関係も培われていくのであろう。

弊社刊『都市データパック2017』によると、佐賀市に本社を置く上場企業は3社、そのひとつが同社である。新入社員が地元出身の学生かどうかはわれわれの調査ではわからないが、もし地元で就職をと考えていた学生にとって、日本全国に拠点を持つ有力地元企業は願ってもない就職先だろう。新入社員が辞めないのには、そういう側面もあるかもしれない。

やはり低い非製造業の定着率

新入社員の3年後定着率を業種別でみると、最も低いのが小売業の66%、次いで証券・商品先物の71.5%、サービス業の74.1%となっている。製造業ではほとんどが80%超、運輸関連や銀行、保険などの金融、情報・通信業も80%を超えている。ただ、本調査は任意回答であり、低い企業では回答しないケースもあるため、全体に高めの数値となることは否めない。


併せて、3年後定着率が100%の108社を業種別にみても、機械と電気機器がともに15社で最も多く、化学13社、卸売業9社と続く。一方、小売業は1社しかなく、証券・商品先物はゼロだ。

ちなみに、本ランキングの対象企業で、新入社員の3年後定着率が50%以下の企業が28社ある。このうち小売業(外食産業を含む)が12社と最も多く、サービス業が5社、情報・通信業が3社などだ。

本稿冒頭で紹介した厚生労働省の調査では、3年以内の離職率(大卒者)は「宿泊業、飲食サービス業」で50.2%(=定着率48.8%)、「生活関連サービス業、娯楽業」で46.3%(同53.7%)、「教育、学習支援業」が45.4%(同54.6%)など、対個人サービス産業で高くなっている。小売業も離職率38.6%(同61.4%)と高い。

こうした小売業などの非製造企業であっても、本稿で紹介している上位300位のランキングに顔を出している企業は、数は少ないものの存在している。たとえば255位のセリアは最近急速に店舗を増やしている100円ショップだ。同社の定着率は94.4%で、前述の業種平均を28ポイントあまり上回っている。

同社の新入社員研修は、1カ月ごとに店舗オペレーション、接客、商品企画などをテーマとする「本社研修」と、それらを実際に店舗で実践する「店舗研修」を繰り返し、オペレーション能力を向上させる仕組みになっている(同社HPより)。またリアルタイムPOSなどのシステムを導入し、店舗運営をできるだけ効率化・簡素化することで、接客に注力できる仕組みづくりを進めている。

「辞めないこと」がよしとされる時代ではないが、不本意な形で新入社員が辞めていくのは、コストをかけて採用した企業にとっても不幸なことだろう。

まして短期間で新入社員の半分も辞めてしまう会社は、人材に対する考え方を省みる必要があるのではないか。労働人口の減少が進む中で、優秀な人材をいかに自社に引き留めるかという問題は、今後より多くの企業を悩ますことになるだろう。